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雪蕚霜葩

管轄が違う為、美月さんの姿は無かったが、事件を担当する刑事さん達が、どうやら津川さんの後輩の人達だったらしく、取り調べは非常にスムーズに進み、朝食前には全てが終わっていた。


結局、ドローンは旅館裏の森に、ボウガンと矢、スマートロック、死体を運ぶ際に一部磨耗したピアノ線、遺体の解体に使ったと思われる道具は、複数の袋に入れられて崖下に落ちていたとの事だ。


ドローンの内部データには飛行ログも残っており犯行を裏付ける証拠となった。また、監視カメラの映像を改竄した証拠も見つかったと後で聞いた。



はぁ~、終わった~!

正午にチェックアウト出来るとはいえ、もう時間はあんまりないな。


「あ、華凛ちゃん、華澄ちゃん」


マサさんだ。徹夜の為か、やや やつれて見える。


「さっき、津川さんにも言って来たんだけど、良かったらあと1泊して行ってよ。この旅館を守ってくれたお礼...としては物足りないかもしれないけど、出来る限りのもてなしをさせて欲しいんだ」


「物足りないなんて、そんな事全然無いです!そもそもマサさん達の協力がなかったら事件は解決出来なかったんですから...ふふ、でもマサさんのお言葉に甘えさせていただきますね!」


私が視線で確認を取ると、お姉ちゃんはにっこり微笑んで頷いた。


「ありがとう......よーし決まりだね!じゃあ先ずは朝食にしよう!」


「はーい!」


あの美味しい料理がまだまだ食べられるんだ...!じゅるり...ハッ、いけないいけない、静まれ私。



その後、美味しい朝食に舌鼓を打ちつつ、一旦昼過ぎまで仮眠をとった。


起床後は茶菓子を食べ、お姉ちゃんと一緒に温泉に入って元気が漲ってくる。


途中、大浴場で紬希さんと会った。


「ふぅ~~!ごくらく ごくらくぅ~。やっぱ効くわ ここの温泉!そういえばさ、華澄ちゃんに最初に会ったのって向こうの浴場でだったよね。いやぁ、あの時はこんなスタイルの良い美人が世の中にいるんだなぁ~って、なんか思わず拝みたい気分になっちゃったんだよね」


「うふふ、ありがとうございます!」


「ん~、良いね君達、ほんとに良いよ~。あとで連絡先交換してよ...あっ、あと昨日言ってたルミノール溶液とかも見てみたいな」


「ええ、それはもちろん......ところでずっと気になっていたんですけど、紬希さんってどんな小説を書いていらっしゃるんですか?」


私もちょっと気になっていた事をお姉ちゃんが聞いてくれた。


「ん、言ってなかったっけ?私が書いてるのは基本的に官能小説だよ」


かんのうって......えぇぇぇぇ!?


私もお姉ちゃんも顔が真っ赤になる。

高校生にもなってとは思うが、こういう話題に私達は全く免疫がない。


「そっ、それじゃ、そのっ、私達をモデルにするってまさか......?」


お姉ちゃんがいつになく動揺している。


「へっ?......!あ~!ごめん!確かに官能小説ばかり書いてるんだけど、今回はなんかサスペンスとかミステリーものが書きたくなっちゃってさ。君達をモデルにするっていうのは勿論そういう意味だから」


お姉ちゃんも私もほっと胸を撫で下ろす。


「それにしても...ん~?赤くなっちゃって、のぼせた訳じゃないよね?フフフフ、名探偵にも弱点はあるんだねぇ、メモメモ」


「もぅ~~!からかわないで下さい!」


お姉ちゃんが珍しくちょっと怒ってる。なんか可愛いけど。


「ごめんごめん!冗談だって~!......さてと、私、そろそろ上がって続き書いて来るわ......あっ、でもいつでも遊びに来てね!」


紬希さんが湯槽からあがって、大浴場の入り口の方まで歩いていく。


「あっ、そうだ!大事な事、言い忘れてたけどさ」


「なんです?」


「その...華凛ちゃんと華澄ちゃんのお陰で、今こうして楽しく次の小説を書けてるけど、もし君達がいなかったら、今回の事件の事で、私の中で釈然としない何かがずっと残って、なんか色々ずっと止まったままになってた気がすんだよね。だから...」


紬希さんは少し恥ずかしそうに、けれど飛びきりの笑顔で


「ありがとう」


と言った。


「ふふ、どういたしまして!紬希さんの小説、楽しみにしてますね!」


「おーう!楽しみにしててよ!」


私の言葉に紬希さんはそう答えると、手を振って浴場から出ていった。


「楽しみだね、華凛ちゃん」


「うん!」


私達は暫く温泉に入ったあと、再び部屋でのんびりしつつ、今日の夕食は部屋でとらせてもらう事にした。


部屋でゆっくりとる夕食も本当に素晴らしく、お姉ちゃんと会話しながら じっくり食事を楽しんだ。


夕食のあと、紬希さんの部屋に行って連絡先を交換したり、今は303、403号室共に立ち入り禁止になってるし証拠品も押収されてるから、ルミノール反応は見せられなかったけど、紬希さんはルミノール溶液や3Dスキャナーを興味深そうに見ながら、お姉ちゃんに色々質問していた。お姉ちゃんは凄く嬉しそうだった。


紬希さんと別れたあと、私達はゲームコーナーに行き、また二人でゲームをプレイした。

お姉ちゃんの神プレイに圧倒されていたら、途中マサさんが来て、再び格闘ゲームで10先する流れになった――結果は10勝6敗で私の勝ちだった。


昨日に比べて大分対応されたけど、私もこのゲームでの対戦の感覚に慣れてきて、しっかり対応し返せたのが勝因だろう。因みにお姉ちゃんは後ろでギャラリーになっていた。


「いやあ~、やっぱり強いねえ華凛ちゃん!対戦ありがとう!......あと、昨日も少し話したけど、この旅館は妻の形見みたいなものでさ、僕にとっても、子供達にとっても大切な場所なんだ。だからさ、家族の場所を守ってくれて本当にありがとう」


マサさんの目が潤む。


「そんな、良いんですよ!今朝も言った通り、マサさん達の協力あってこそですし、何より私とマサさんは対戦で語り合った親友じゃないですか。だから役に立てて私凄く嬉しいんです...ただ、殺人事件が起こっちゃいましたし、やっぱりこれから色々大変ですよね......」


私が心配してそう言うと


「ううん、そんな事ないよ!だってさ、不謹慎かもしれないけど、殺人事件が起こって、しかもそれを解決した女子高生探偵が泊まった宿なんて、世界中探しても無いからね!ミステリー旅館って事で、これは絶対行けるよ!」


さっきの潤んだ目はもう乾いたのか、マサさんの目が別の意味で輝いていた。


「あ、私達の名前とかは秘密で...」


「勿論だよ!さあ、これから忙しくなるぞ~!」


マサさんが元気そうで良かった。


マサさんと別れたあと、私達は部屋に戻り、折角なので備え付けの露天風呂にお姉ちゃんと一緒に入ってみた。


アメニティとして用意されていたバスソルトを入れてみる。おっ、これはこれでなんか気持ち良いな。


部屋の中を暗くすると、空には満点の星空が見えた。


「楽しかったね、お姉ちゃん」


私がそう言うと、お姉ちゃんが幸せそうに微笑んだ。


「うん!いつかまた二人で来ようね」


「うん、絶対!」


お風呂上がりに冷蔵庫に入っていたサービスのドリンクを飲む事にした。


私の大好きな黒い炭酸飲料も入ってた...マサさんのチョイスかな?


ゴクゴクゴク...


「ぷは~、うっまい!!」


お風呂上がりでなんだか余計に美味しく感じる。

......いつもは家に帰った後すぐ飲んでたけど、今度からお風呂上がりに飲もうかな......


その夜、心地良い眠りの中、私達は楽しい夢を見た。雪解けに草木が萌え喜ぶ様な そんな夢を。



翌朝、美味しい朝食を味わい、チェックアウトの時間ギリギリまで温泉をじっくり堪能しつつ、私達は雪華楼を後にした。津川さんも一緒だった。


帰りはマサさん達が玄関先まで見送りに来てくれた。絶対また来てねと言いながら美花さんが泣いていて、私達もちょっと貰い泣きしそうになった。


ああ、色々あったけど本当に楽しかったな。


その時、一陣の風が音を立てて私の横を通り過ぎる。


貴方もお別れを言ってるの?

ふふ、私も貴方の事、嫌いじゃなかったよ。

あの時はありがとう。


流石にちょっと感傷的過ぎる気もしたが、私はなんとなくそう思った。風は追い風となって私の背中を優しく押す。



バスの中は誰もおらず、道中 津川さん達と会話を弾ませた。


「おっ。俺達は次のバス停で降りるんだっけか。華凛ちゃん達ともお別れか...」


津川さんが少し寂しそうな顔をする。


「華凛ちゃん達は俺の命の恩人だ。美智子を残してバラバラになって死ぬなんて事にならなかったのは、全部華凛ちゃん達のお陰なんだ。何度も言わせてもらうが、本当にありがとうな」


津川さんが深々と頭を下げると同時に美智子さんもそれに倣う。


「いえ、津川さん達がご無事で私達も嬉しいんです!これからもご夫婦で色んな事を楽しんで下さい!」


「ああ、そうさせてもらうよ......噂以上の名探偵に会えて光栄だったぜ」


バスが止まり扉が開いた。

美智子さんはお辞儀し、津川さんは私達に敬礼してからバスを降りていった。


その後、バスから電車へと乗り換え、白から緑へと変わる景色を眺めながら、私達は自分達が住む町へと帰った。


モン太郎のマスコットがかばんにぶら下がってゆらゆら揺れている。えへへ可愛い......。



数週間後――


年末年始で色々忙しかったのに、お風呂に毎日入って、色々な入浴剤を試してみた。


今の所、雪華楼にあったバスソルトや、エプソムソルトが私のお気に入りだ。


ふぃ~、良いお湯だ~。


まさかこんなに私がお風呂にはまるとはなぁ。

今となっては毎日の楽しみみたいになってるもんな。


~♪


ちょっと歌なんかも歌っちゃったりして。


「ふふ、気持ち良さそうね、華凛ちゃん」


「おっ、お姉ちゃん!?どうしたの?」


もしかして歌ってるの聞かれてたの?恥ずかしい......。


「替えの下着忘れてたみたいだから持って来たよ。いつもの所に置いとくね」


「あっ、ありがとう...お姉ちゃん...」


「うふふ、でも本当に華凛ちゃん、お風呂好きになったよね。私も嬉しいな」


「たっ、確かに?最近楽しみではあるけど?だっ、だからって好きって訳じゃないし!」


声が思わず上ずってしまった。

あっ、これじゃ全然説得力ないわ......




~了~

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