紫電一閃
数ヶ月前――
「聞いたよ華凛ちゃん!あの時犯人が襲って来て大変だったんだって?」
女刑事さん――竜華 美月さんが、ミステリーツアーの一件について改めて話を聞いてきた。
「えっ、ええ、まあ。お姉ちゃんもいましたし全然大丈夫でしたけど」
「う~ん、でもこれからもそういう事結構あるかもだし、相手が武器を持ってるって状況も当然考えられるし......よしっ、分かった!華凛ちゃんにはこれを渡しておこう」
何が分かったのかは分からないが、美月さんが拳銃を渡してくる。
「えぇ~!これ本物ですか!?こんなの受け取れませんよ!」
女子高生にこんな物を持たせようなんて何を考えてるんだ この人は。
「まっさかぁ!違うよ~。この銃から出るのはゴム弾で実弾は出ないぜ!」
「へっ、へぇー、そうなんですね。でもゴム弾って事はアレですよね、暴徒鎮圧の時にショットガンで撃ってる感じの。っていう事は拳銃だし威力はあんまりないのかな?」
「いんや、頭とか胸に当たると、場合によってはお陀仏だけど」
さらりと美月さんが恐ろしい事を言う。
「えぇ~!ヤバいやつじゃないですか!やっぱり受け取れませんよ、そんなの!大体使ってるの見つかったら私が捕まっちゃいますって!」
「だいじょぶ だいじょぶ華凛ちゃんなら。それに私がぱっぱ~と揉み消しておくし♪」
美月さんがウィンクする。
一介の刑事にそんな権力があるとは到底思えないが、まあそこまで言ってくれるなら有り難く使わせてもらおっかな。私、ゲームセンターのガンシューティング好きだし。
あの時の事を一瞬思い出してしまった。
一応あの後試し撃ちもさせてもらったが、重さと反動はそこそこあるものの割と使いやすく、すぐ手に馴染んだ。
私は銃を両手で構え、鹿島さんがポケットから取り出したメスを持つ右手の甲に向かって撃った。
パァーン!!
それなりに大きい音が響き渡り、狙い通りに弾が命中し、鹿嶋さんがメスを落とした。
ガンシューティングでスコアアタックの様な事をしてた時、弾がヒットした部位によって得点が違い、頭が最高得点だったのでヘッドショットばかり狙っていた。また、敵キャラが消滅する前に連続でさらに同じ場所にヒットさせるとコンボボーナスの様なものもついたので、積極的に狙っていた経験が活きているのか、何処を狙っても この距離なら外れる気が全くしない。
血中のアドレナリン濃度が異様に高くなっているのか、鹿島さんは痛みを感じていない様で、そのまま鮫島さんを羽交い締めにしようと手を伸ばすが、銃弾と共に既に走り出していたお姉ちゃんが鹿島さんの顔面に蹴りを入れる。あれはケンカキックだ!
因みにこんな事もあろうかと、お姉ちゃんは浴衣の下に体操着を着て来たので下着が見える心配はない。
鹿嶋さんはそのまま人形の様に地面に倒れた...だ、大丈夫かな?
その光景を見て、教授に驚きの表情が表れたが、すぐに気持ちを切り替え、近くにいた美花さんへ重心の移動が見られた為、即座に照準を合わせ、鹿嶋さんと同じようにポケットからメスを取り出す瞬間を狙い、手の甲に向かって銃弾を撃つ。
教授が手を庇い、上半身を少し丸めた所で、すかさずお姉ちゃんが空中でくるりと回転し、教授の頭部に向かって蹴りをお見舞いする。
おお、あれは旋風脚じゃないか!
私は格闘技好きという訳では特にないけど、3D格闘ゲームのお陰か、いつの間にか色々な技の名前を覚えてしまった。
教授はそのまま膝から崩れ落ち、全く動かなくなる。
......お姉ちゃんの事だから、きっと手加減してるはず...だよね...?
「お姉ちゃん...今の技って...」
私はテレパシーで聞いた。
「うん?...ああ、なんか身体が勝手に動いちゃって...えへへ。だから別に技とかじゃないよ」
「へっ、へぇー、そうだったんだ~」
............。
突如銃声が計2発も鳴り響き、目の前で信じられない様な光景が繰り広げられた為なのか、その場にいた人達は茫然自失としていた......が、一人紬希さんだけは目を輝かせていた。
「うっおぉぉぉぉ!すっごいね、華凛ちゃんと華澄ちゃん!なんつうの、以心伝心、阿吽の呼吸みたいな?ちょっと私感動したわ!それにしてもなんなのその銃......って聞いたらまずいやつ?」
「あ、あはは、前に知り合いの刑事の方に貰ったんです。実は私達、探偵として警察に協力していて、それで...」
「あー、なるほどね!道理で ただ者じゃない訳だわ!うん!これは君達をモデルに良い作品が書けそうだぞー!」
「あっ、出来れば私達の事は......」
「分かってる分かってる!君達の事はここだけの秘密っていうんでしょ?ちゃんと設定は変えるから!ここにいる人達もちゃんと秘密守りなさいよ!それじゃ、私はそういう事で♪」
そういって、紬希さんはさっさと自室に戻って行った。早く小説が書きたかったのだろう。
それにしてもなんというか、何処となく性格が美月さんに似てるな あの人。
「とっ...とりあえず、小此木さん達はロープか何かで拘束しとくか?」
嵐の様な怒涛の展開に戸惑っている様子の津川さんがその場の全員に呼び掛ける。
「そうですね。マサさん、除雪はあとどれ位かかりそうですか?」
「ん?あ、ああ、えっとね、このまま雪が降り積もらなければ、あともう少しって感じかな」
あまりの事にマサさんは状況が飲み込み切れていない様子だったが、私の問いにしっかり答えてくれた。
「分かりました。あとは連絡が出来る所まで行けるかどうかですね。
ここへはどなたも車では来ていないみたいですが、除雪車の他に旅館に車はありますか?」
「うん、それは大丈夫だよ。流石に雪の中ここから歩いて人里まで出ると遭難しちゃうしね」
バスで結構かかってたもんな。
「でしたら、道中の除雪の進み具合によっては、もしかしたら明日の朝までには警察が到着するかもしれませんね。
それ位の時間なら、教授達を拘束した上で誰かが見張りに立っていれば問題無さそうですけど、まあ彼らも暫くは起き上がれないと思いますし、私達が見張りに付いてますから、皆さんはお仕事や部屋に戻っていて下さい。それで良いよね、お姉ちゃん?」
「ええ、もちろん」
お姉ちゃんはニコニコしてる。こんな笑顔の人物が先程の鬼神の様な姿になろうとは誰にも想像がつかないだろう。
多分、姉妹で夜更かし出来るとか思ってるんだろうな。
「俺にもやらせてくれないか?」
津川さんが名乗りをあげる。
「それは勿論ありがたいですけど...大丈夫ですか...?あまりご無理はなさらないで下さい」
「ははは!張り込みとかも良くやってたし慣れてるから、年取ったからつったって問題ねえよ。それに、なんつったらいいかな...この事件については俺もここにいないといけない気がするんだよ」
昔の仕事仲間であり、もしかしたら旧友でもあった相手の策略で、殺害されバラバラにされていたかもしれなかったのだし、自分に因縁のある事件が発端になってもいる訳だから、津川さんの感情はもっともであると思う。
私はお姉ちゃんと頷き合った。
「分かりました、よろしくお願いします!...ところで、谷崎さんの方はどうしますか?」
「あー、まあどうしようもないやつだけど、俺はこの通り無傷だしな。ネタが割れた今となっちゃあ、もう誰かを殺そうなんてしねえとは思うが...どうだ谷崎?」
「はっ、はい......ご迷惑をおかけしました」
「まったくだぜ。お前、今回も本当は反省してないんじゃないのか?」
津川さんの視線が鋭く谷崎さんを射貫く。
「......いえ、今回はほとほと自分が嫌になりました。ああ、俺は今でも堤に支配されてたんだなって。あの時も、あいつに言われるがままやって、だから罪の意識も薄くなってて......いや、本当は罪の重さが分かってて、それから逃げ出したくて堤の存在を言い訳にしてたんだと思います。でも、今回刑事さんを殺さなくて済んで、今は凄くホッとしてるんです。また取り返しのつかない事をする所だったって。
それで、過去の自分の罪とも改めて向き合えた様な気がしたんです。
一生かけても償えるとは思えない。それでも俺は自分に出来る事で生涯をかけて償っていきます」
津川さんの目を真っ直ぐに見つめ、谷崎さんが決意を語った。私には彼が嘘をついているようには見えなかった。
「そうか......分かった、頑張れよ」
津川さんも谷崎さんの目を真っ直ぐ見つめながら激励する。
「ありがとうございました」
谷崎さんは少し涙ぐみながら、深々と私達にお辞儀をし部屋へ戻って行った。
「じゃ、私も部屋に戻ろうかな。あ~、月代さん達が男だったら、どっちか絶対私の彼氏になってもらうのに!...それにしても、今まで運がないって思ってたけど、月代さん達に会えた私ってほんとは超ラッキーなのかも!ありがとね!」
鮫島さんはそう言うと、私達に手を振りながら笑顔で部屋に戻って行った。
「美智子は部屋に戻って休んでてくれ。お前に倒れられると、その...俺困るし」
津川さん、やっぱり奥さんの事を大事にしてるんだな。
「分かりました。それではお先に失礼します......あと、華凛さん、華澄さん」
「はい?」
「主人の命を救って下さって、本当にありがとうございました」
美智子さんの瞳に涙が光る。
「いえ、ご無事で何よりです!これからも夫婦水入らずで温泉旅行、楽しんでくださいね!」
「はい!」
良い夫婦だな。死なせずに済んで本当に良かった。
美智子さんが部屋へ戻って行くのを見届けると
「じゃあ、僕達も仕事に戻るけど、何か必要なものがあったら、いつでも言ってね」
「ありがとうございます!」
「いやいや、こちらこそ!華凛ちゃん達にはお世話になったからさ、僕達に出来る事だったら、なんでも協力させて欲しいんだ」
マサさんがそう言うと美花さんがハッと何かを思い出した顔になり
「あっ!取りあえず3人の料理はこっちに持って来た方が良いよね。ちょっと待っててね!」
と言って慌てて大広間へ向かって行った。
「おお、俺も厨房に戻らねえと!今日の料理も楽しみにしててくれよな」
「はい!」
源さんが美花さんに続いて行った。
「考えてみると もしかしたら俺も犯人扱いされてたかも知れないんですよね......本当にお世話になりました」
雅志さんはそう言ってお辞儀をすると自分の仕事に戻って行った。
「それじゃあ、僕も」
マサさんは笑顔で手を振って去り、外へ出て除雪作業を再開した。
「華凛ちゃん達も何か部屋に取りに行きたいものとかあるなら、今の内 行って来いよ」
津川さんのお言葉に甘えて私は携帯ゲーム機とお姉ちゃんの本を取りに行った。流石に津川さんを一人にするのは危険だろう。
ロビーで夕飯を食べ、今日も今日とてあまりの美味しさにテンションが上がったり、プレイしていたゲームの理不尽さに思わずゲーム機を投げそうになりながらも理性で止めたりとしている間に、外での除雪作業は終わった様だ。
また、あのあと殆んど雪も降らなかった為か、道中の除雪も終わっていたらしく、日付が変わる前には警察に連絡出来たみたいだった。
今から何処かで雪崩でも起きない限りは見張りの為に徹夜しなくても良さそう。
......まあ、警察の事情聴取やら何やらで寝れない事には変わりないだろうけど...。
「すまん、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
津川さんがそう言って席を立ち、2階にあるトイレへ向かった。
「一つだけ良いかな、名探偵のお嬢さん方?」
やっぱり目を覚ましてたか。
教授が私達に呼びかけてきた。
「はい、なんでしょう?」
「恐らく姉君の方だと思うのだが、秘密は漏れないようによくよく気をつけたまえよ」
まあ、この人には流石にバレるよな。
推理の時に それなりに誤魔化しはしたけど。
「ふふふ、安心したまえ。秘密は墓場まで持って行くさ。真相に至った君達へのせめてもの礼だ。
......しかしこの世には、まだまだ不思議な事があるのだな...」
教授はそう言って楽しそうに微笑む。
鹿嶋さんも目を覚ましているのだろうが何も言わなかった。
その後、教授達はずっと無言のままだった。もう話したい事もなかったのだろう。
自身の犯罪芸術を通して、自分という存在を覗かれた...教授にとっては、きっとそれだけで良かったのだから。
そして鹿嶋さんは教授の行く所に付いていくだけなのだろう。それがたとえ地獄の底であったとしても。
「すまんすまん。ちょっと遅くなっちまった」
津川さんが小走りでトイレから戻って来た。
それから暫くして、外で車が複数台止まる音が聞こえた。
風が鳴る。満足気に、でも何処か哀愁を秘めながら......




