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CUTE AGGRESSION  作者: ありにあるく


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第3話 献身による支配と、優越による防衛。


 はるの家に着いてから一呼吸置き、

 インターホンを鳴らす――。


「はい、どちら様でしょうか?」


 数カ月ぶりに、お手伝いさんの人当たりの良さそうな声。


「高坂です」

「あぁ! 春ちゃんのお友達ですね。少々お待ち下さいー」


 少し緊張してきた。

 数分で、許可がおりて門が開く。


 敷地に入って、丁寧に管理されている庭を横目に眺める。


 出会ってから春とこんなに離れたことなかったな。久しぶりに会って気まずくならないかな、いつもどんな感じだったっけ。


 そんな事を考えながら、玄関まで無駄に長い道を歩く。


 名前を呼ばれて前を見ると、

 玄関の前で笑顔の春が早くと手を招いていた。


 四ヶ月間の心配は杞憂だったかもしれない。


 フランス人形みたいな春は、何事もなかったみたいに笑ってる。


 ……いや、あんなフリフリ着てないけど。


 距離が近づくと両腕を広げて、飛びつくように抱き着かれる。

 同時に、甘い匂いがまとわりつく。


 四ヶ月というのは人が変わるのに十分な時間だと思う。


 実際、久しぶりに会った春は、柔らかな雰囲気を纏い少し大人っぽく見えた。少し違って見えるのは四ヶ月前まではしてなかった薄い化粧がしてあるからだ。


 相変わらず身長は小さいけれど。

 

「久しぶり」

「連絡ないから嫌われたのかと思ったよ」


 私の腕に自分の腕を絡ませ、むっとして見せる春。

 どうやら拗ねているらしい。


「勉強忙しくて、そんな暇なかった」


 これが建前ってことは春も分かってると思う。


「えー、あのひなたが〜?」


 ニコニコしながら頬をツンツンして、からかうように言ってくる。

 失礼な言葉は許すけど、ツンツンはやめてほしい。


「まぁ、ほとんど勉強」


 手を払い除けながら淡々と言う。


「でも、会いに来てくれたからよしとしようかな。お腹は空いてない?」

「そう、わざわざ会いに来てあげた。お腹はまだ空いてない」


 会うといつもお腹空いてないかと聞く。

 何。私、野良猫かなんかだと思われてるの?


 相変わらずだね〜、と笑う春の後ろをついていく。

 春の家は吹き抜けで開放的、雰囲気が明るく、ぽかぽかしている。

 

「相変わらず広くて落ち着かない部屋だねー」


 見慣れている部屋をぐるり。わざとらしく見渡して、お洒落で座り心地の良いソファに腰を下ろした。


「ふふ、確かに。陽向がいないと、やけに広く感じるから寂しいかも」


 背後から、首元を抱きしめるように腕を回して耳元で呟く。

 甘ったるい声で、甘えたように。


 そういえば、いつもこんな感じで過ごしてたっけ。


「家族がいるでしょ」

「そうだけど、それとこれは別だよ」


 分かってないなあ、と春の吐息が首をくすぐる。

 私は、春のこういう所に心がざらつく。可愛いけど。


「ふーん」


 腕と圧迫感のある感触から解放されて身体が軽くなる。

 

「もう、そんなにつまらなさそうにしないでよ」


 春は口を尖らせ、私の隣に座った。


「連絡くれなくても毎日遅刻せずに学校行ってるんだから、少しは褒めてよ」


 当たり前のことなのに、今度は上目遣いで肩にトンッと寄りかかってくる。


 やっぱり何も変わっていない。気まずさも何もない。

 気持ち悪いくらいに、普通。


 これから春が言うであろう言葉は、“遊ぼう”だ。

 多分、距離を置いた理由を分かっていない。

 分かっていて、あえて有耶無耶にする気なのか。


 それでもはっきり言うべき事は、今日、言う。

 私が流されたから曖昧な関係になったし、私にも責任はある。


 最悪、春の気持ちが変わってなくても、私の気持ちを知った上で今まで通りにするなら別にいい。春が望むなら。


「毎日学校にいけてるなら、むしろ良いことだと思うけど」


 遊びには乗らない。そう示すように前を向く。


「ひなた」

「いつから?」


 何かを感じ取ったように名前を呼んでくる春。

 言葉を遮って、気になっていたことを声に出す。


「え?」

「いつから私のこと好きだったの」

「えっと……“遊び”始めた頃くらい」


 というと多分、今から約一年くらい前。

 

 その時に言ってほしかった。そう思う私も自分の罪悪感を軽くすることしか考えてないクズ。同性だからとかそんなのは問題じゃなくて、人の好意を疑う私の問題だ。


「まだ好き? 私のこと」


 四ヶ月間に気持ちの変化があったのか問いかける。


「うん、すき。すごくすき」


 迷いなく見つめてくる瞳に、真っ直ぐすぎる言葉。


「そっか」


 じわじわと心に黒い靄が覆う。嫌悪感が纏わりついてきて、頭では優しくいようと思うのに、心がそれを許さない感覚。


 罪悪感に視線が下がる。


「ひなたは好きじゃないって、しってるよ」


 そんな私に対してどこまでも優しい春に苛ついて、苛つく自分にまた苛つく。春を傷つけたくはないけれど、こんな気持ちになることに、どうすることもできない。


 目を閉じ、ゆっくり深呼吸をする。

 気持ちを落ち着かせて、泣きそうな春の目を見て静かに口を開く。


「好きになれない」

「うん、わかってる……大丈夫だから」


 春は溢れた涙を袖で拭うと、私の目を見て「そんな顔しないで」と優しく言う。


 私は、最低な人間なのに。

 好きという感情は恐ろしいほど人を翻弄する。


「春も優しくしないで」


 私は優しくないのに。複雑な感情に声が震える。


「仕方ないよ、すきなんだもん。ひなたはばかだね」


 そう言って笑う春は痛々しく、強い。


「うん、仕方ないよ。私ばかだから」


 つられて笑う私の右手は、彼女の温かい両手に包まれる。


「ばかひなた、一つお願い聞いてよ」

「私ができることなら」


 それからは結局泊まることになり、好意関係なく今まで通りに接してほしいという春と、四ヶ月間の時を埋めるように夜遅くまで話し込んだ。





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