第9話 親友はポテト。
あれから1週間が目まぐるしく過ぎた、それはもうぐるぐると。
弟を家に送り届けて、することもなくお腹が空いた。
ルイにメッセージを送るとすぐ返信が来て、いつもの待ち合わせ場所に集合になった。
いつものとは、私とルイの家の中間地点にある公園。
私は向かっていたから当たり前だけど先に着いてしまう。
ベンチに座って足元にいる謎の虫を眺めながら待っていると、息を切らしながら来たルイ。
「まった? ごめんね」
「別に、全然待ってないから大丈夫」
「その言い方ちょっと傷つくんですけど! 相変わらずツンケンしてんね〜。久しぶりの大好きな親友とデートなのに」
頬を指でツンツンしてくる。
「わかったから、顔だけはやめて」
ルイの人差し指を手で払いのける。人に触られるのはあまり好きではない、触られた部分がどうしても気になってしまう。
「ね、ポテト食べたくない?」
瞳をキラキラと輝かせファーストフード店に行こうと提案してくる。私は空腹が満たされたら何でもいい。
「いいね、行こ」
店内に入った瞬間、油の香りがうぇるかーむと言わんばかりに迎え入れてくれる。
「ルイ奢るから注文おねがい」
「え、まじ! ゼロコーラとポテトでいいんだよね?」
最低かもしれないが、自分で注文したくなくてルイを誘ったと言っても過言ではない。
「うん、お願い」
「おっけー! その辺、座って待ってて」
店内を見渡す限りほとんど学生。いつ来ても慣れなくて混んでいる時は特に居心地が悪い。少し歩いて、小さいテーブルの奥角に腰を下ろす。外を眺めているとスマホが震えた。
『もしもし、ひなた?』
『私以外に誰がいるの?』
『あはは、そうだよね。弟くん迎えに行けた?』
『うん。もう家に送った』
『今学校終わったから、いつ迎えに行こうかな〜と思って』
『んー、友達と寄り道してるからまだかかると思う』
『え。あのひなたが友達と寄り道って……雪でもふってる?』
『……』
『冗談。じゃあ迎えに行ってもいい時間になったら位置情報送ってね、わかった?』
『うん、わかった』
『はーい、じゃあまた後でね』
通話が切れた事を確認し、スマホを鞄にしまう。
「ひなたーん、おまたせ」
「ありがとう」
少しして、いつも以上にテンションが高いルイが、注文したものを運んできてくれる。
「いいよ、早く食べよう」
こちらから話す事もないので、黙々と食べはじめる。
「そういえば、最近家泊まり来ないけどちゃんと勉強できてる?」
ちらっと様子を伺うように、目線をこちらに向けてポテトに手を伸ばしながら聞いてくる。
「最近は、帰ってすぐ勉強してるから大丈夫」
「え、一人で? あの陽向が?」
信じられないといった顔でこちらを見てくる。
「一人じゃない。その人教えるの上手だから」
「まじ、家庭教師みたいな?」
家庭教師ね……。
「まあ、そんな感じ」
飲み物に手を伸ばして曖昧に答える。
「へぇ、いいじゃん。でも勉強ばっかりで嫌にならない? 久しぶりにカラオケ行きたい」
「ごめん、しばらくその人と勉強するから行けない」
「えー、まあそれなら仕方ないかぁ。珍しく陽向の方から連絡してきたし、許してあげる。ルイ様心広いからね〜」
拗ねたように言っていたけど、自分勝手な私を最後は笑って許してくれる。ルイにはどうか分からないけど、私にとっては必要な友達だと思ってる。
「もし私が女の子気になるかもって言ったらどう思う、好きとかそういうのはおいといて」
突然の発言に固まるルイ。私から視線を外して、ぐるーりと何かを想像するように動かして、また視線が私に戻る。
「控えめに言って、最高」
輝いてる目に嘘はない。やっぱり付き合いが長くなりそう。
「何、最高って」
「まって、え? なに好きな人でもできたの?」
「……好きとかじゃなくて、気になるだけだけど」
「けど?」
「それだけ言いたかった」
「それだけかーい! でも……なんか、感動だわ。ひなたが、あのひなたがぁ」
私がこういう類の話をしなかったからか、わけのわからん声で泣いているルイは、もっとわけがわからなかった。多分、ポテト食べ過ぎで頭がポテトになってる。
そんな感じで喋っている間に時間が過ぎていき、お腹も満たされたところで春に位置情報を送っておいた。
「ルイ、いつも気にかけてくれてありがとう」
少しでも感謝が伝わればそれでいい。
「なっ、友達だから普通だよ普通!」
少し照れたように慌てて「もう食べ終わったし帰るよ」なんて言いながら、私を残してトレーに乗ったゴミを片付けに行く。
ルイが満足気にお腹を撫でながら戻ってきて、席をたつ。
「私は迎え来るから、お店の外で待つよ」
「じゃあ、迎え来るまで喋ろっーと」
「もう喋ることないくらい、喋った気がする」
「そう? 私は喋り足りない」
あははと笑いながら背中に乗っかろうとしてくる。
そういえば、春がルイを見たらまた拗ねるんじゃ……。
いちいち気にしてても、きりがないけど。
「その元気を分けてもらいたい。てか、重いし危ないってば」
ルイを降ろして、頬を片手でつかみ注意する。
「ふぁい、ごめんなはい」
「ふっ変な顔」
「もうっ陽向力強すぎ、顔がつぶれるわ!」
むーっと膨れた顔して頬を痛そうにさすっている。
しょうもないじゃれ合いをしながら、話の尽きないルイと喋っていたらそれなりに時間が経っていた。
「ひなた」
声のする方へ目をやると春が車からおりて、こっちに向かってきていた。
「待った?」
「いや、全然」
春の腕が私の腕に絡みついて、春の視線がルイに移る。
「は、はじめまして、佐々木ルイです」
珍しく困惑した様子でルイが声を出す。
同い年の子が来るなんて思わないから無理もないか。
「初めまして、高嶺春です」
上品な笑顔で冷静に自己紹介を済ませる春は、いつもとのギャップがすごい。まるで別人にみえる。
「うわっ、かわいいー」
ルイは口元を押さえて分かりやすく見惚れている。
「ふふっ、もう暗いので佐々木さんも良かったら送っていきます」
満更でもない顔をした春がそう言うと、ルイが私の方をオロオロと困惑した目で何かを訴えてくる。
「大丈夫。ルイが良ければ送ってもらいなよ」
私がそう言うとルイは小さく「じゃあ、お願いします」ペコペコしてる。借りてきた猫みたいだ。
ルイは春に車まで連れてかれ、家に着くまで二人で楽しそうに話していた。着くころにはもうすっかり仲良くなってたし、純粋にそのコミュニケーション能力が羨ましい。
「勉強教えてくれてる優秀な先生って春っちの事だったのか!いいなぁ」
その呼び方、秒で打ち解けすぎじゃない?さすが陽キャ。
「ルイちゃんも今度遊ぼうね」
「もちろん。送ってくれてありがとう! 陽向もまた学校でね」
「うん」
ルイは太陽みたい笑顔を振りまいて颯爽と帰っていった。
春はこの前みたいにムッとしてない。
「ルイちゃんってひなたと正反対なのに、一緒にいるの意外かも」
「多分、コミュニケーション能力に全振りしてる」
「確かに、すごく話しやすい子だった」
それに圧倒されない春もすごいと思う。初めて春が他の子と話してるの見たけど、いつもの子供っぽさは感じられなかった。外向きの顔ってやつかな。
「へらへらしてるけど人の事よく見てるからね」
「ひなたをちゃんと見てくれてる友達が居て安心した」
眠たそうに、肩に寄りかかってきて、ふんわりと甘ったるい香りが私の鼻先をなでる。
「なにそれ、眠たいの?」
「……少し」
「着くまで眠ってていいよ」
「やだ、時間がもったいない」
そう言いながら、春はすぐに眠って家に着くまで起きなかった。
「春、起きて家に着いたよ」
「んん、眠たい」
目を擦りながらだるそうに車を降りた春は、おぼつかない足取りで今にも転びそうだ。
「春、ちゃんと前見なよ。躓いたら危ない」
仕方なく春の手を取って支えるように歩く。
少し驚いた様子の春は、頬や耳まで赤く染めていた。
「恥ずかしそうにするならちゃんと自分で歩いて」
「歩けないー」
私の腕に、わざと体重をかけて甘えてくるから歩きにくくて仕方ない。一人っ子というのはこうも甘えたがりで手がかかるのか、春の小さい頃はきっと甘えん坊将軍だ。
そんなこんなで、春が疲れていたから勉強もそこそこに疲れた頭と体をお風呂で洗い流し、気分良くベッドで仰向けになる。
「ねぇ、ひなた」
先にベッドで座って本を読んでいた春が話しかけてくる。
「んー?」
「ひなたの言ってた体育祭っていつなの?」
「十月十四日」
「うー、学校なかったら行きたかったなぁ」
本に顔を埋めて悔しそうに嘆く春。
「春って運動できるの?」
「うーん、あんまり得意じゃない。走るの遅いし、泳げない」
一緒にいてなんとなく運動音痴な気がしていたけど、やはり得意ではないらしい。
「まったく泳げないの?」
「うん、不思議と沈んじゃうから水泳は苦手。ひなたは、何でもできちゃいそうだね」
「どうかな、飼い主に似て泳げないかも」
「猫は水苦手だもんねぇ」
下顎をさわさわされる。なにこれ。
「……」
「明日は出かけるし、そろそろ寝よう」
春は読んでいた本を閉じて、リモコンで部屋の電気を消す。寝付きのいい春は、すぐにすぅすぅと寝息を立てて眠りについていた。




