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6 食い違い


「ところで妹さんのお名前等を聞かせてもらっていいですか?」



 搬送中の救急車の中で、隊員のひとろが女神に質問を向けた。

 そういや彼嬢の身元確認がまだだった。

 ラキは女神の表情に視線を注ぐ。

 しかし、今度は妹の方が何だか答え辛そうにしていた。



「そりゃ、言いづらいだろうな。自ら他人ですとバラすようなもんだから」



 ラキは同乗した娘が妹であるとの確信は持っていない。

 出会ってからの短時間で、そこまで打ち解け合った覚えもないのである。

 助け船を出してやったと言わんばかりにラキがそういった。


 ラキの口から洩れた言葉が引っかかり疑問が生じた隊員は彼に問う。



「どうされましたか? お兄さん、妹さんのお名前は?」



 なぜか女神が答えないので、隊員は兄のラキに質問を振ってきた。

 名前を答えたら、こいつはここで降ろされたりしないか。



「妹は女神です」


「え、めぐみさんですか? こうさか、めぐみ……」



 ばか、記入するんじゃない! 誰だそれ。

 ラキはむせ返し、喉を詰まらせる。

 否定しようとしたのだが、自分が思うように発言できなかったせいかと。

 でも、その聞き違いを否定してくれたのは女神の方だった。



「ち、違います!」



 なぜ否定するときだけ、出しゃばるんだ。

 ラキはそう言いたいのを押し殺して、言い直した。



「た……隊員さん、違いますよ。妹は女神です」


「めがみ?……ですか? あの女神様の? 守護合天とかの?」


「……は、はい」



 なんだ最後のは。知らぬぞ。

 だがそれでいい。

 字も意味も合っているはずだし。


 しかし、女神の声がなぜかそれを否定しに横入りしてきた。



「ち、違います!」


「なんで違うっていうんだよ! 君は、ぼくにそう名乗ったじゃないか!」



 違うとは、一体どういうことだ。

 ラキが女神に対し、喰ってかかった。

 確かにさっきは女神と名乗った。


 両名の交わす言葉に、不具合さを感じた隊員は状況の説明を求める。



「名乗ったとはどういうことなのです?」



 隊員たちの目は彼らを意識下に置く。だが焦りはない。

 怪我人が混乱しているだけとの認識であった。

 隊員が二人に尋ねる。

 すかさず、ラキが応答する。



「さっきの現場で……です」



 ラキは正直に答える。

 兄弟であることは女神がすでに証言したことだ。

 隊員は二人の意見が嚙み合わないことに落ち着いて聞き取りをする。



「ぼくにこの()がそう名乗ったんです。そして妹だと言い張るんです」


「言い張る? きみの妹さんでしょ?」


「いいえ。ぼくには妹なんていませんけど」



 一体どういうことなのかと、隊員は女神を見る。

 女神はすこし焦った口調にかわる。



「違うんです。この人が兄に間違いはないんです。でも、わたしのことを兄は覚えていないと言っていたんです。そして身体の異常を訴えるのでとにかく救急を呼ばせてもらった次第なんです」



 隊員たちは状況からして、女神の意見を重視した。

 事故を起こして横になっているのはラキだ。

 彼が混乱をして、



「お兄さんは、一時的にご家族の記憶を失くしているのかもしれないってことでしょうか」



 女神は、暗い表情で「そうだと思います」と付け加えた。

 隊員たちは、脳の診断が必要と判断し、脳外科のある病院への搬送を決めた。



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