9 婚約者、癒しを求める
「あ~……今日も疲れた……」
ドサッとソファに体を投げ出すアレックス。
学校からカルナッタ邸に戻ると速攻でドレスを脱ぎ捨て、異国の服装だという“サムエ”に着替えた。
普段見慣れない服装に思わず見惚れるリィン。
(な、なんかゆるっとしたデザインの服のせいか、アレックスから色気が! それにしても楽そうな服だわ……。女性向けのデザインはないのかしら……)
「リィン? 何ぼーっとしてるんだ? こっちに来いよ」
アレックスに呼ばれたのでソファの横に座ると、肩を抱き寄せられた。
「ア、アレックス!?」
「あー……リィンを補充しないとやってらんねーよ、こんなの……。ハワード超うぜぇ……」
「……お疲れ様です」
心底疲れたようにアレックスが言うので、リィンはそのままアレックスに身を寄せた。
ハワードに嫉妬したことはアレックスには黙っておこう。ようやくアレックスを独占できたことで、リィンの心に平穏が訪れたのだった。
心が落ち着いたリィンは、アレックスに側近候補の二人について聞いてみることにした。
「ねぇアレックス。ハワード様はともかくとして、イアンさんとヘイゼルさんはどんな感じ? ハワード様みたいに口説かれたりはしてない?」
「リィンがつきまとわれてた時はどうだったんだ?」
「私の時は、ハワード様がしつこかっただけで、二人はハワード様にくっついてるだけだったわ。多少話をしてもハワード様のいいところをアピールしてくる感じだった」
「あいつらはどうも早くハワードに恋人を作らせたいみたいなんだよなぁ。最初はチヤホヤしてくるから口説かれてんのかと思ったけど、最終的にハワードを持ち上げてくっつけようとしてくるんだよ」
「あの二人も、特に恋人や婚約者はいないのよね?」
「たぶん、家の意向なんじゃないか? ハワードの側近候補だから、ハワードと同じように異性との接触を減らしたんだろ。王妃に気に入られるためとはいえ、気の毒だよなぁ」
「なるほどね……」
イアンとヘイゼルが積極的にハワードに恋人を作らせようとしているのは、もしかしたら自分たちのためなのかもしれない。主よりも先に恋人を作るわけにはいかないのだろう。
「イアンさんとヘイゼルさんには好きな人いないのかしら?」
「なんだよ、リィン。他の男のことが気になるのか?」
「馬鹿言わないで。私は早くあなたを取り戻したいのよ」
「へぇぇ~? 俺がハワードとずっと一緒だから嫉妬したのか?」
「っっっ!!」
全てお見通しといった顔でこちらを見てくるアレックスに、リィンは近くにあったクッションを投げた。それをアレックスはひょいと避けるとリィンをキュッと抱き締める。
「まったく、リィンが可愛すぎて困る……。もう少しだけいい子で待っててくれ。もうすぐハワードは捨てるから」
「……なんか、発言が悪い男だわ」
言葉だけ聞くと二股かけているクズ男だ。
リィンは複雑な心境でアレックスの背に腕を回した。
(ごめんね、ハワード様……。でも、アレックスだけは絶対に他の誰にも譲れないの)
「ハワード様はざまぁされるとして、イアンさんとヘイゼルさんはどうなるのかしら?」
「そうだな、あいつらは主の愚行を止めなかった罰があるだろうけど……せいぜい家族に怒られる程度じゃないか? 学生だし、そもそも第三王子付きなんてたいした肩書でもないしな。存在感薄かったから気にしてなかったけど、あいつらのことも少し調べてみるよ」
翌日以降、アレックスはまずイアンについて情報収集を開始することにした。