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5 実はいろいろな思惑がからんでいました

「ね、ねえ! さすがにマズイと思うわ。いくらなんでも、性別詐称は問題になるわよ!」


現実逃避から目を覚ましたリィンがそう言うと、アレックスがリィンの頬をちょんとつついた。


「心配しないで、リィン。あたし別に詐称するわけじゃないから。そもそも学園は制服じゃなくて私服通学だし、女装禁止なんて校則にないわ」


そりゃそうだとリィンは思った。わざわざ校則に女装禁止などと規定のある学校など存在するものか。


「名前だってそのまま使うわよ?」

「ま、まあアレックスって名前はこの周辺の国だと男女ともに多いものね。って、名前を偽らないにしたって、バレたら国際問題じゃないの?」

「それは大丈夫! 学園もドルトースの王族も、あたしが女装して通学することを認めてるから」

「うっそ!?」


アレックスの爆弾発言にリィンの思考はふたたび混乱した。

学園長や国王陛下たちが、このような風紀の乱れ? を許すなんて!

オロオロするリィンの肩を抱き寄せると、アレックスは事の経緯を説明し始めた。



★   ★   ★



ハワードによる学園での迷惑行為について、ついにドルトース国王や王子たちの耳に入ったらしい。これまで王妃のワガママを黙認してきた彼らも、さすがにこのままではマズイと慌てたそうだ。


そんな時に隣国ハルヒッシュの第二王子から、友人を特殊な立ち位置で留学させたいと請われた王族たちは、事情を聞くと快諾し、むしろ喜んで協力すると宣言した。


このまま成人してしまえば、ハワードは恐ろしく善良な世間知らずのまま、取り返しのつかない失敗をしでかしそうだったからだ。

彼らはこれまで政務が忙しいからと王妃とハワードを放置してしまったことに罪悪感を抱いていた。

ハワードが学生のうちに手痛い失敗を経験させて、人間は善良なだけではないと世間の荒波に揉ませることにしたのである。


息子にハニートラップを仕掛けることを了承するなんてひどい親だと思われるかもしれないが、これも息子の将来を案じての愛情なのであった。

王はすぐさま学園へ連絡し、アレックスについての便宜を図るよう学園長へ依頼したのだった。



★   ★   ★



「……ってわけなのよ」


アレックスの説明に、リィンは肩の力を抜いた。

なるほど、アレックスの女装は国がきちんと認めているのか。ならば自分があれこれ言うことはあるまい。

リィンは自分にそう言い聞かせたが、他にも疑問があった。


「ねえ、アレックスは女装するのって初めてよね?」

「そうよ~」

「……ドレスやアクセサリーは誰が用意したの?」

「お母さまと~おばあさま! うちってあたししか子供がいないじゃない? すっごいはりきっちゃって、あっという間にたくさん買ってくれたの!」

「あー……なるほど」


アディソン侯爵家はアレックスしか子供がいない。幼い頃から、公爵夫人たちはリィンをとても可愛がり、やたらドレスアップさせたがっていた。最近リィンがあまり隣国を訪れていなかったので、女の子を着飾らせることに飢えていたのだろう。


「……で、その口調は何なのよ。私の身近にそんな口調の人いないけど」


リィンは最も気になったことを質問した。こんな頭のゆるそうな話し方をする女性は彼女の周りにいなかったので、アレックスが誰の真似をしているのか分からなかったのだ。


「これはね~、あたしの通ってる学校の、有名人の真似!」

「有名人?」

「一年前に転入してきた男爵令嬢なんだけど~、なんかやたらとモテてるのよねぇ。常に男をはべらせてるってかんじ?」

「えっ!? その口調で!?」

「なんか、新鮮なんだって。オリバーもはじめは興味を持って近づいたんだけど、あまりにも頭が空っぽだったからすぐに飽きてたわ」

「オリバー様……」


オリバーの意外な一面を垣間見たリィンは気を取り直し、アレックスをじっと見つめた。


「……アレックスは、近づいてない?」

「あたしはオリバーの近くで観察してただけ~。だって、あたしはリィン以外の女の子なんて興味ないもん」

「そ、そう……!」


ほっと安堵のため息をついたリィンを、にやにやしながらアレックスが見ていた。


「……嫉妬しちゃった?」

「なっ! そ、そんなことないわ! アレックスのバカっ!」

「うっふふ~リィン、可愛い~!」


真っ赤になったリィンを抱き締めるアレックス。

置物のように黙って控えている使用人たちは、砂糖を吐くのを必死で我慢していた。

リア充爆発しろ、と思っていたのかもしれない。





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