3 リィンと問題児たち
学園に入学したばかりの頃、リィンは実はかなりモテていた。容姿は可愛らしく、何より金持ち。
狙われない方がおかしいというものだ。
だが彼女は隣国に婚約者がいると公言し、交際の申し込みは全て丁寧にお断りしたので、恋愛関係でリィンを煩わせるような事態は起きなかった。
なのに、あと半年ほどで卒業となった頃合いでハワードに目を付けられてしまったのだ。
「やあ、リィン嬢! 今日も麗しいね。 よかったらこれからお茶でも一緒にどうかな?」
「申し訳ありませんが、私には隣国に婚約者がいるので、殿方と二人きりというのは……」
「心配ないさ。イアンとヘイゼルも一緒だよ。今度の魔術実習で僕らは同じ班になるだろう? ぜひ君と親交を深めたいんだ」
「えっと……。それでは、少しだけ同席させていただきますね……」
たまたま、ハワードたちと同じクラスだったリィンは、ついにハワードとの接点ができてしまった。非常に運が悪かったとしか言えない。なまじ成績が優秀だったせいで、勉強だけは得意なハワードたちと同じ班になってしまったのだ。
それまでリィンに何の注意も向けていなかったハワードは、彼女が思いのほか可愛らしく、また賢いことに気付いた。
――そして、リィンへのつきまといが始まったのだった。
★ ★ ★
最初はどうせすぐに飽きるだろうと適当に相手をしていたリィンだったが、なぜか一向にハワードが離れていかない。リィンが不思議に思ってカミラたちに相談すると、
「あ~なんかもう、可愛い子にはほとんど声をかけ終わっちゃったみたいよ」
「卒業も近くなったし、周りはカップルだらけじゃない? 今、フリーでいる子って少ないし……」
「えっ? ちょ、私だってアレックスっていう婚約者がいるけど!?」
「でも、アレックスさんは隣国だから一緒にはいないでしょ? 頑張れば自分を選んでもらえるって思っちゃったんじゃない?」
「はああああっ!? 私はアレックス一筋ですけどっ!!」
「そうは言っても、学園では一人でしょ? 私たちが一緒にいることはできるけど、やっぱり牽制できる殿方が近くにいないのは厳しいわね……」
実のところ、カミラにもシンディーにも恋人がいる。彼女らも一度はハワードに接触されたのだが、恋人たちが頑張って撃退していた。愛の力は偉大だ。
リィンとてアレックスへの愛の深さについては自信があるものの、物理的な距離だけはどうしようもなかった。
アレックスには、ハワードからつきまといを受けていることを相談していなかった。どうせすぐに終わるだろうと思って油断していたのだ。
「アレックスさんに相談して、一度学園に見学に来てもらったらどう?」
シンディーにそう言われ、リィンもさすがにアレックスに相談しようと決意した。
二人でいるところをハワードに見てもらえば、熱も冷めるだろうと思ったのだ。
だが、それがまさかこのような事態を引き起こすなど、夢にも思わなかった。