19 婚約者、拗ねる
「ちょっとリィン! どういうことなの?」
「あなた、アレックスさんと婚約破棄するつもり!?」
「…………へ?」
ヘイゼルと別れ、リィンが帰路に就こうとすると、突然カミラとシンディーに詰め寄られた。
二人は一体何を言っているのだろう。
アレックスと婚約破棄? そんなの天地が裂けたってあり得ないことだ。
リィンは頬を膨らませて二人に言い返した。
「カミラ! シンディー! あなたたち何を言ってるの? 私にはアレックスしかいないわ!!」
きっぱりと言ったのに、二人はじっと疑いの目でリィンを見てきた。
「……じゃあ、さっきのアレはなんなのよ」
「アレって?」
「私たち、見てたんだからね! あなたがヘイゼルさんと二人でお茶して、手を握ってるところ!」
「あ……」
そういえば、学園ではヘイゼルは男性と認識されているんだった、と今更リィンは思い出した。
すっかり女性にしか見えなくなった自分の迂闊さを呪ったがもう遅い。
「あわわわわっ!?」
パニックになったが、だからといって彼女の性別を自分が勝手に漏らすわけにはいかない。
オロオロするリィンに、カミラとシンディーがはぁっとため息をついた。
「……何か、事情があるのね?」
「リィンがアレックスさんを手放すわけないものね」
「っ!! 信じてくれるの!?」
「リィンのそんな顔みたら、分かるわよ。何か話せないわけがあるんでしょ?」
「相談したいことがあったら、いつでも言ってよね。友達なんだから!」
「カミラ……シンディー……!」
(二人とも、なんていい友達なの! ああ、こんな素敵な友達を、ヘイゼルにも作ってほしい……! あ、そうか!)
ヘイゼルの許可が取れたら、ぜひ二人を紹介しよう。同性グループの楽しさというものを教えてあげねば!
使命感に燃えるリィンの肩を、チョンチョンとカミラが突いた。
「ところでリィン。あなた、早く帰った方がいいわよ」
「なんで?」
「……さっきのリィンとヘイゼルさんのこと、アレックスさんも見てたのよ。ものすご~く不機嫌な顔で帰っていったわよ?」
「え! 嘘!? 大変だわっ!」
同性だと分かっているのだからアレックスが嫉妬などするはずない、という認識はリィンには無かった。
リィン自身がハワードに対してものすごーく嫉妬した過去がある。
ということは、アレックスだって嫉妬したに決まっていると、リィンはやや自惚れにも似た確信を持った。
早くアレックスのフォローをせねばと焦ったリィンは、慌てて馬車に飛び乗ったのだった。
★ ★ ★
「た、ただいま~。……アレックス~?」
リィンが自宅へ戻ると、女装姿のままのアレックスがソファーの上に行儀悪く座り、むっす~と頬を膨らませていた。
いかにも不機嫌ですというオーラを出していながら、自室に戻らずティールームにいることで、リィンに機嫌を取るよう求められていることが丸わかりだ。
「ずいぶん遅かったのね~。ヘイゼル嬢とと~っても楽しそうにしてたものね~?」
ジロッと睨むアレックスに、リィンは紙袋を渡した。
「ほ、ほぉら! お土産よ、アレックス! あなたの好きな、“レバルコ”の焼きたてスコーン! 食べて食べて!」
大急ぎで買ってきたアレックスの好物を、これでもかと押し付けるリィン。
すると、膨らんでいたアレックスの頬が標準仕様へと戻った。
「……食べさせてくれる?」
「も、もちろんですとも!」
クロテッドクリームをたっぷりとつけて、あーんするリィン。
二つ、三つと食べるうちに、ようやくアレックスの機嫌が直った。
(やったわ! 任務完了よ!)
何の任務だかは不明だが、リィンは達成感に包まれたのだった。




