18 男装女子の破壊力
「あ、あの、リィン嬢……。少し、ご相談をさせていただいてもよろしいでしょうか……」
先日の性別暴露イベントから数日。ヘイゼルが憔悴した面持ちでリィンのもとを訪ねてきた。
「もちろん! 私でよければ喜んで!」
二人はそのまま学園内のカフェへ向かった。人目はあるが適度に空いていたので、話の内容を聞かれることはないだろう。お茶と焼き菓子を注文し、席に着いた。
「……あの、リィン嬢にお聞きしたいことがありまして」
「はい」
「えっと……あの……」
頬を染めながら視線をさまよわせるヘイゼルを見て、リィンはピンときた。
(あ、これ間違いなくオリバー様のことだわ)
先日のドタバタ告白劇を思い出し、リィンは思わず遠い目になる。女の子の扱いに長けていたはずのオリバーのポンコツ具合は本当にひどかった。恋は人をダメにする典型例のようだったなと失礼なことを考えていると、覚悟を決めたのかヘイゼルが視線を定めた。
「あの……オリバー様には、恋人や婚約者はいないのでしょうか?」
「…………へ?」
(え? どういう意味? だって、この間告白されたじゃない? なんでこの流れでそんな質問がくるの?)
混乱するリィンに、さらにヘイゼルがたたみかける。
「私のような性別詐称人間に好意を抱くなんて、よく考えたらおかしいです。もしかしたら彼にはすでに恋人か婚約者がいて、私のことは一時的な遊びと思われているのかと……」
「いやいやいや! さすがにそれはないです! いくらなんでもオリバー様がかわいそうです!!」
慌ててリィンが話を遮る。ヘイゼルのオリバーに対する偏見がひどい。ここは自分がオリバーの株を上げてやらねばとリィンは奮起した。
「あのですね! 確かにオリバー様は女性に対して来るもの拒まずみたいなところはありましたけど、複数の女性と交際するなどという不誠実なことはなさいません! とても友達想いの方ですし、一度懐に入れた方はずっと大切にされますよ!」
「そ、そうでしたか……。私ったら、大変失礼なことを……」
無礼なことを言ってしまったと落ち込むヘイゼルを、リィンが慰める。
「ヘイゼルさんはオリバー様と出会ったばかりではないですか。これからお互いのことを知っていけばいいんですよ。どうやらオリバー様はあなたが初恋のようですから、どうか前向きに検討してあげてください」
「ですが、私には恐れ多くて。分不相応なのではないかと……」
「何をおっしゃいます! あなたはとても美しいし、才能もおありじゃありませんか!」
「そ、そう言っていただけるのはありがたいのですが、これまで男として生きてきたので同性の友人もおりませんし……。これから社交界で女として生きていくという想像ができなくて……」
「えっと、ヘイゼルさんは卒業後はどうされる予定だったのですか? 男性と偽ったままで生きていくことは難しいと思うのですが……」
「両親と相談して、他国へ留学後、そのまま就職するつもりでいました。魔術師見習いではありますが、この国で性別を詐称したまま士官することはできませんし、おそらく結婚も難しいだろうと思いまして」
「そこまで考えていらっしゃったのですね……」
なんということだろう。オルセン一家はもう、ヘイゼルの未来はこの国にないと覚悟していたのだ。他国へ留学し、そこでようやく女性としての人生を歩むつもりだったと語るヘイゼルに、リィンの庇護欲がガンガンに刺激された。
(ヘイゼルさんには、この国で幸せになってもらわないと! あ、でもオリバー様に嫁ぐことになったら結局隣国へ行くことに……。いや、でも! まずはこの国で女性としての幸せを味わってもらうのよ!!)
がしっとリィンがヘイゼルの手を握る。
「り、リィン嬢?」
「私のことはリィンと呼んでください! 私、ヘイゼルの友人になりたいです!」
「え……よ、よろしいのですか……?」
瞳を潤ませるヘイゼルに、リィンは完全にやられた。
(彼女は私が守らないと!!)
男装女子の魅力に、すっかり取り込まれてしまったリィンだった。




