14 本命のゆくえ
「……アレックス嬢の本命は誰なのだろうか」
ハワードがぽつりと漏らした言葉に、教科書を読んでいたイアンとヘイゼルが顔を上げた。
「どうした、ハワード。今アレックス嬢と一番距離が近いのはお前だろう?」
「そうですよ。先ほどまで、ここでお茶をしたばかりじゃないですか」
学園には王族専用のサロンがあり、放課後はここでのんびりと過ごすことの多い彼らは、さきほどまでアレックスを招待してお茶を楽しんでいた。
アレックスが退席したので、そのまま三人で学園の課題に取り組んでいたところだったのだ。
「……彼女が私に好意を持ってくれていることは分かるのだが……オリバー殿とも親しくしているようだし、何よりいつもリィン嬢と一緒にいて仲睦まじいし……」
「おいおい! オリバー様はともかく、リィン嬢は女性だろうが!」
「しっかりしてくださいよ、まったく……」
二人の残念なものを見るような視線に、ハワードが反論する。
「し、しかしな! 彼女たちはどうも普通の友人にしては距離が近すぎるというか! 親密過ぎるように感じるんだ!」
「親戚だと言っていましたし、アレックス嬢は今、カルナッタ邸に住んでいるそうですから、そのせいでは?」
「いいや! 彼女たちは互いを特別な存在と位置付けている! 私には分かる!!」
拳を握り力説するハワードに、イアンとヘイゼルは頭を抱えた。仕える主のあまりにもポンコツすぎる思考に現実逃避したのだ。
実際には、ハワードの指摘は的を射ているわけだが、イアンとヘイゼルは主がとうとうヤバくなったと思った。
「ところで、最近オリバー殿がやたらとヘイゼルに話しかけているようだが、私とアレックス嬢のことを聞かれているのか?」
「いいえ、違いますよ。オリバー様はどうやら魔術に興味がおありのようで、私が以前書いた論文について質問されたのです」
「そうか。確かヘイゼルは魔術を利用した作物の品種改良の研究をしているのだったな」
「はい。今後もいろいろ教えて欲しいと言われてはいますが、アレックス嬢のことについては何も聞かれていませんよ」
「……私など、ライバルにならないと思われているのだろうか」
「どうでしょう。そもそも、オリバー様がアレックス嬢に恋をしているのかどうかも曖昧ですし」
うじうじするハワードを見かねたイアンが、立ち上がった。
「あーもうっ! お前、とっととアレックス嬢に告白しろよ! 卒業したら彼女、ハルヒッシュに帰っちまうんだろ?」
「だ、だが……! 告白しても、婚約者になってもらうには、彼女のご家族の同意が必要だし……」
「じゃあ先に彼女の家族に挨拶に行こうぜ!」
「――絶対にダメです」
室内の空気が突然凍った。イアンとアレックスが驚いてヘイゼルを見ると、ヘイゼルは冷え冷えとした視線を二人に送った。
「――ご家族への挨拶は、告白をしてアレックス嬢に同意を得てからでないとダメです。さもなければ、アレックス嬢の人生を狂わせる可能性があります」
「へ、ヘイゼル……?」
「誓ってください。恋人になるまでは、アレックス嬢のご家族に接触はしないと」
「な、なんで……」
「誓ってください」
氷のように冷たい目で射貫かれ、ハワードは思わずうなずいた。
「わ、分かった……誓う……」
その言葉に満足するとヘイゼルは無言でサロンを出ていった。
その場に残されたハワードとイアンは、呆然と互いを見つめるのだった。




