13 隣国の王子と男装女子
ヘイゼル・オルセンは女性だった。
そんな衝撃的な事実をオリバーに聞かされたアレックスとリィンは、まだオリバーを信じられずにいた。
「オリバー様。ヘイゼルさんとは初対面ですよね? それなのに、どうして彼……いや、彼女が女性だと?」
「アレックスもリィン嬢も、もう少し観察眼を養った方がいい。男と女では骨格が全く異なる。相手をじっくりと観察すれば、必ず違和感を覚えるはずだ。むしろ、なぜ分からないのか、そちらの方が理解に苦しむよ」
やれやれと首を振るオリバーを横目に、リィンとアレックスがこそこそ話す。
「……普通気付かないわよね?」
「じっくり観察とか言ってるけど、女好きのオリバーだから気付けただけよ」
「そこ! 悪口が聞こえてるぞ!」
ビシッと指を差されたアレックスは、ジロリとオリバーを睨んだ。
「どうせ、ヘイゼル嬢が好みだったから分かったんでしょ?」
「なっ、何を言う! た、確かにヘイゼル嬢は儚げな美しさではあったが!」
語るに落ちるとはこのことかと、リィンは呆れた目でオリバーを見た。オリバーが恋に落ちたとなると、彼の言葉の信憑性が上がる。本当にヘイゼルは女性なのかもしれない。
あらためてリィンはヘイゼルの容姿を思い返した。
ヘイゼルは男性にしては線が細く、艶めく長い黒髪をゆるく一つに縛っている。瞳も同じく黒水晶のように澄んでおり、ハワードの陰に隠れがちではあるが、美しいと表現できる人物であることは間違いなかった。
「……確かに、ヘイゼルさんの容姿は中性的だわ」
「そうねぇ。オリバーの女好きセンサーに引っかかるんだもの。ホントに女の子なのかもねぇ」
「アレックス。お前は俺を何だと思ってるんだ」
「え。極度の女好き」
きっぱりと言い切られ、オリバーの顔が引きつる。リィンは慌ててフォローした。
「こら、アレックス! 言い方ってものがあるでしょ! オリバー様はただ女性のストライクゾーンが広いだけよ!」
「リィン嬢……」
フォローになっていなかった。
★ ★ ★
「やあ! 今日から卒業まで短い間だが、みんなよろしく頼む!」
さわやかな笑顔で教室中に手を振るオリバー。
彼はとうとう権力を行使して、リィンたちと同じクラスへ転入してきたのだった。
これにはドルトース王族もハルヒッシュ王族も大変驚き、オリバーに何があったか詰め寄ったのだが、うまく丸め込んだらしい。
「恋の力って偉大ね……」
「盲目になってるだけでしょ。王族としてはどうかと思うわ~。オリバーってホントわがまま!」
「でも、オリバー様って噂では文武両道の人格者って言われてるじゃない。私は実際そうだと思うし、わがままなんて言わない方だと思ってたわ」
「み~んなあいつの猫かぶりに騙されてるだけよ。普段は非の打ち所がない王子様を演じてるけど、身内認定されたらものすごくわがままに振り回されるんだから!」
ぷりぷり怒るアレックスにリィンは微笑んだ。こんなことを言っていても、アレックスにとってオリバーは大切な親友だ。お互いを大切に思っていることは、傍で見ているリィンにはお見通しだった。
「アレックスはオリバー様が大好きよね」
「はぁっ!? ちょ、リィン! 気持ち悪いこと言わないで!」
「ちょっとだけ妬けちゃうわ」
「もう! リィン! そんなこと言ってたら、今すぐこの場でキスしちゃうわよ!」
「ア、アレックス! それはダメよ!」
「全く……。あたしの一番はリィンだってこと、ちゃ~んと自覚しといてよね」
「ちょちょちょっ! か、顔が近すぎるわっ、アレックス! 分かったからっ!」
教室の片隅でいちゃつくリィンとアレックス。それをハワードがじっと凝視していたことなど、お互いに夢中な二人は気付かなかった。




