12 婚約者と当て馬
リィンたちが教室へ向かうと、ちょうど午前の授業が終わるタイミングだった。
担任のクリスがオリバーに気付きクラスの皆に紹介すると、たちまちオリバーの周りに人が押し寄せる。
「オリバー様! ぜひわたくしたちの研究をご覧くださいませ!」
「いえ! わたくしたちの方を!」
女生徒たちが互いに牽制しつつ、オリバーの奪い合いを始める。それをどこか嬉しそうな表情で眺めながら、オリバーはアレックスに声をかけた。
「やあ、アレックス! 久しぶりだね」
「お会いしたかったですわ~オリバー様!」
微笑み合う二人に、クラスメイトたちがざわめいた。
「お……お二人は、お知り合いですの?」
恐る恐る一人の令嬢が質問すると、オリバーは極上の笑みを浮かべてアレックスの隣に並んだ。
「実は、アレックスとはハルヒッシュの学園で同じクラスだったんだよ」
「あたしとオリバー様は~、よく同じチームで実習とかしてたんですよぉ」
親密そうに話す二人にのもとへ、生贄……もとい、ハワードが慌てて飛んできた。
「アッ、アレックス嬢とオリバー殿は、な、仲が良いのかっ!?」
「お初にお目にかかる。第三王子のハワード殿ですね。ぜひあなたと話してみたいと思っていたのですよ。仲良くしてもらえるとありがたい」
「ああ、ええと、こちらこそ……」
オリバーに握手を求められたハワードは自分の第一声の無礼さに気づき、慌てて自己紹介した。
「そ、その。大変失礼しました。私はハワード・ドルトース。どうぞハワードとお呼びください」
「では、俺のこともオリバーと。……アレックスとは、長い付き合いでね。出会ってからもう十年近くなるかな」
「そっ、そんなに前からっ……!」
「アレックスはどこか目の離せないところがあって、つい何かにつけて構ってしまうんだ」
そう言って、アレックスの方へ意味深な視線を向けるオリバー。アレックスはオリバーの言葉にむぅっと頬を膨らませた。
「もう! オリバー様ってば、いつもあたしのこと子供扱いしてっ!」
「う~ん。子供扱いではないんだけどな。アレックスは鈍いからねぇ」
「鈍いって何ですか! オリバー様はイジワルばっかり」
「……イジワルな俺は嫌いかな?」
「べ、別に、嫌いってわけじゃないですけどっ!」
アレックスとオリバーによる寸劇が始まった。
リィンは死んだ魚のような目で見ているが、クラスメイトたちは「え? あの二人ってそういう……?」と甘酸っぱい恋バナを想像して盛り上がっている。
そして、ハワードは大ダメージを受けていた。
自分よりもはるかにアレックスと親し気な男。それも、隣国の第二王子。
超強力なライバル出現にフリーズしてしまったハワードの肩を、それまで空気のように気配を消していたヘイゼルが揺さぶった。
「ハ、ハワード様っ! 正気に戻ってください!」
「はっ! すまない、ヘイゼル。つい現実逃避してしまっていた」
ハワードとヘイゼルのやり取りを面白そうに見ていたオリバーが、何かに気付いたようにはっと目を見開いた。ずいっとヘイゼルへと顔を近づける。
「……君の名前を聞いてもいいかな?」
「へあっ!? あ、あわわ、わ、私はヘイゼル・オルセンと、申します! な、何か、不敬がございましたでしょうかっ!?」
急接近されたヘイゼルは可哀想なほど挙動不審となった。
「いや……失礼。少し知り合いに似ていてね。怖がらせてすまなかった」
「い、いえ。とんでもない……」
オリバーは回れ右をすると、ガシッとアレックスの肩をつかんだ。そのまま速足で教室を出て行ってしまったので、リィンも慌てて後を追う。
「ちょっと、オリバー! 急にどうしたのよ!?」
「オリバー様、何かあったのですか?」
教室から十分離れ、辺りに人影がないことを確認すると、オリバーはアレックスとリィンに詰め寄った。
「何があったかって!? 君たちの目は節穴なのか!」
「「へ?」」
訳も分からず非難され、きょとんとする二人に、
「ヘイゼル・オルセンは、女の子じゃないかっ!!」
オリバーは特大の爆弾発言を放ったのだった。




