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10 騎士見習いの焦燥

イアン・エドウズは騎士を目指しており、日ごろは鍛錬に明け暮れている。

ハワードにくっついている時間の他はほぼ剣術の稽古に費やしていた。

ハワードの近くにいるせいで容姿はさほど目立たないものの、よく見ればほどほどに整った顔立ちをしていることが分かる。

アレックスはどうにかイアンが一人になる頃合いを見つけ、話しかけるようになった。


「イアンさんは、この先ハワード様の護衛騎士になるんですか~?」

「そうなれたらとは思うが、俺の決めることではないからな。俺はただひたすら強くなるために鍛えるだけだ」

「すご~い! ストイックなんですねぇ」

「騎士を目指す人間はみんなこんなもんだろう」


きゅるるるんと上目遣いで褒めてみても、イアンは特にアレックスに惹かれた様子は見せない。

たいがいの男なら多少はデレっとするものなのにと、アレックスは少しだけ感心した。

最強に可愛いを自負するアレックスの誘惑に屈しないということは。


「……イアンさんってぇ、お好きな方がいるんですかぁ?」

「なっ!? ななななな! なにを、いきなりっ!?」


ビンゴだ。アレックスは心の中でニヤリと黒い笑顔を浮かべた。


「女の子は恋のお話が大好きなんですよ~。よかったら聞かせてくれませんか? 相談にのりますよ~!」

「い、いやいや! 俺は、その、まだ、恋なんてっ!」

「そんなこと言ってぇ~。想い人に恋人ができちゃってもいいんですかぁ?」

「えっ!? そ、それはっ……!」


顔を赤くさせたり青くさせたりと百面相しているイアンに、アレックスがずいっと切り込む。


「貴族の娘さんなら~婚約者ができちゃうかもですよ? そうなった時に後悔しません?」

「…………」


イアンは何かに耐えるようにグッと拳を握りこんだ。そして、覚悟を決めたのか、少しずつアレックスに語り始めた。自分の、苦しい恋心を――



★    ★    ★



「どうだった? 何か収穫あった?」


カルナッタ邸でのおやつの時間。紅茶とアップルパイを堪能しつつ、リィンが今日の成果を聞く。

アレックスはアップルパイをおかわりしつつ、リィンに笑顔を向けた。


「バッチリだったぜ! やっぱイアンのやつ、好きな子いたんだ」

「わ~! そうだったんだ! 誰々? どんな子?」


リィンとて女の子。他人の恋バナを聞くのは大好きなのだ。早く教えてとアレックスにねだる。


「今年入学してきた、レヌール家のテレサ嬢だとさ」

「レヌール家……。うちとはあまり縁がないから分からないわ。どんな子なのかしら」

「一応見てきたぞ。すげー下世話な言い方だけど、分かりやすく言えばロリ巨乳」

「瞬時に理解できたわ」


そうか。イアンの好みはロリ巨乳だったのか、と思いかけてリィンはブンブンと頭を振る。


(いけないわ、他人の性癖を勝手に判断するなんて! 外見じゃなく内面に惹かれたのかもしれないじゃない! いやでも、ロリ巨乳……!)


アレックスの発したパワーワードのせいで、リィンのイアンに対する好感度が少しだけ、ほんの少しだけだが下がった。これをアレックスが意図したのかどうかは分からないが。


「まあ、とにかくイアンはハワードに恋人を作ってもらって、自分も早くテレサ嬢に婚約を申し込みたいそうだ」

「えっ? テレサさんとはもう恋人同士なの?」

「幼馴染らしくてな。婚約こそ交わしてないが、想いは伝えてあるらしい。テレサ嬢は待っていますと健気な返事をくれたそうだ」

「やだ、キュンとするエピソードじゃない! 素敵なお話ね~」

「テレサ嬢は男に人気があるから、イアンは気が気じゃないんだろうな。今の立場じゃ寄って来る男を牽制できないから、かなり焦ってるみたいだ。俺も気持ちが分かるから、早くどうにかしてやりたいな」

「気持ちが分かる? アレックスが? なんで?」


不思議そうに問うリィンに、アレックスが呆れた目を向けた。


「俺はリィンの婚約者だけど、普段は近くにいられないだろ? リィンに近づく害虫を常に駆除できるわけじゃないから、いつだって心配なんだよ」

「なっ!?」


ボッと火が付いたようにリィンの顔が赤くなる。


「わ、わたし、は、アレックスしか、見てない、わ……」

「それは分かってる。ただ、リィンはか弱い女の子だから、男が強引に来たら抵抗できないだろ? だから、早く結婚して俺の目の届くところにいて欲しいんだよ」

「アレックス……」


そうして。二人のイチャイチャ劇場が始まった。

ひっそりと控えるメイドたちは微笑ましく思う一方で、そういうの、ほんと部屋で二人きりの時にやってくれないかなとも思うのだった。




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