元公爵令嬢、冒険者になる(1)
「……そういうわけで、わたくしはいわゆる"手に職をつけ"なくてはいけない状況なのですわ」
ぽかんと口を開けて話を聞いていたたアレンは、続けて考え込んだ。
「なるほど……」
彼女が本国でやらかしてきた悪行の数々はさておき、決して頭は悪くないことはアレンにも理解出来た。
「話は理解しました。僕も暇を持て余していたところです。あなたに雇われます。というより」
アレンの頭の中に一つの妙案が浮かんでいた。
「僕とパーティーを組みませんか」
「あら」
エヴァンジェリンは楽しそうな顔で笑った。
貴族的な訓練された笑顔より、好ましく思える自然な笑顔だった。
「詳しく聞かせて頂ける?」
***
さすがに時間も遅くなっていたので、その日は手近な宿を取った。
宿はアレンが紹介して、宿代はエヴァンジェリンが出した。
正確には、エヴァンジェリンが軽率に金貨を何枚も出そうとしていたので
慌ててアレンが止めて、中から銀貨を取り出して宿屋の主人に渡した。
それでもお釣りが来たので、エヴァンジェリンは物珍しそうに銅貨を眺めていた。
「あなたに金銭感覚が必要な理由もよくわかりました」
夕食は部屋で取ることにした。
屋台で買い込んできたサンドイッチや串に刺して焼いた肉に果物が小さなテーブルに並んだ。
これもエヴァンジェリンの財布から出した。
近所の酒場では若い娘は絡まれやすいし、今はアレンも余計ないざこざに巻き込まれやすかったので、いっそ宿の部屋のほうが落ち着いて食事ができたのだ。
「明日はギルドに行って、あなたの冒険者登録をします」
「冒険者? 冒険者は父が雇っていたこともあるから知っているけど……わたくしでもなれるものなの?」
「登録するだけであれば、適性検査さえ受ければ登録できます。問題はそのあとですが、それはあとから考えましょう」