勇者パーティーのお荷物、パーティーを追い出される(2)
「これから先、どんどん魔物も強くなる」
ニコラスは教会から貸与された勇者の剣を撫でて言った。
「魔物が蔓延る地を越えて魔王に挑もうというときに、攻撃も防御もできない足手まといがいたら困るんだよ」
「むしろ感謝してほしいわよね。あんたが犬死にする前に、逃がしてやるって言ってるんだから」
アイーダの合図でギヨームがおもむろに奥通路に続く扉を開けると、そこから見知らぬ男が姿を見せた。
「新しくパーティーに入るケリーだ。いままでソロで活動していた冒険者だが、今回俺たち勇者パーティー"ミスティックレジェンツ"に入ってくれることになった」
「よろしく。って言っても、君は今日でサヨナラだけど」
「やっとケリーを迎えられるよ~。待たせてごめんね」
知らなかったのはアレンだけで、すでにケリーと他のメンバーは顔合わせ済みだったらしい。
いつから除け者にされていたのか、あの時からか、この時からか、足元から聞こえる賑やかな笑い声を聞きながら、宿の部屋でみんなの武器を磨いていた時間を思い出した。
「けどっ! パーティーの人数に上限はないし、人が増えるなら、なおさら……!」
言いかけた言葉は、ニコラスがテーブルにたたきつけたジョッキの音にかき消された。
「いい加減にしろよ。一応ここまでメンバーだったからこそ、優しく言ってやってるんだよ。それとも、もっとはっきり言ってやらないとわからないか?」
ギヨームが、がちゃがちゃと音を立てる荷物を拾い上げて、アレンに投げ渡した。
「"みんな"で話し合って、餞別にその中身はくれてやることにしたぜ」
「っていっても、みーんな自分の大事なものはアイテムボックスに入れてるわけで」
「中身はガラクタばっかりなんだけどねー!」
耳障りな笑い声がアレンの頭にガンガン響く。
荷物を抱えたまま、アレンの足は徐々に後ろに下がっていく。
後ろには、表に続く扉がある。
背中が扉にぶつかったと思った瞬間、アイーダが魔法で扉を開け放った。
「うわっ」
アレンが尻もちをついた拍子にまた荷物が音を立てて、酒場中の視線が集まる。
「じゃあな、アレン」
「バイバイ、お荷物君」
「冒険者やりたかったら、他のパーティーに入れてもらったら? 入れてくれるところがあればだけど」
「二度と会うこともないだろうよ」
「さようなら」
閉められた扉の前で呆然と座り込んでいるうちに、ようやく周りの音が耳に入り始めた。
「あいつ……」
「……勇者のパーティーから追い出されたのか……?」
囁きは徐々に大きくなり、言葉にもだんだんと笑いが混ざりはじめる。
アレンは荷物を拾い上げると、俯いたまま酒場を飛び出した。
こうして勇者パーティーのお荷物アレンは、勇者パーティーを追い出されたのであった。
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