勇者パーティーのお荷物、パーティーを追い出される(1)
「アレン、お前にはパーティーから抜けてもらう」
ひと仕事終えた冒険者たちが集まる酒場の奥、特別なパーティーだけが使うことのできる個室は、防音仕様ではない。
表の喧騒も響いているが、彼にはまるで世界が無音になってしまったように感じられた。
「な、なんで……」
喉の奥から絞り出した疑問は、この個室では窮屈そうな体躯のギヨームに嘲笑われた。
「なんで? まさか、判らないとは言わねぇよな?」
「それは……っ」
言いつのろうとした途端に、足元の大きな荷物に蹴躓いてよろめいた。
中に詰め込まれていた物がけたたましい音を立てる。
「それだよ」
大きなため息をわざとついて、ニコラスは長い脚を組み直した。
「アイテムボックスも持っていない足手まといは、勇者のパーティーに必要ない」
ニコラスは教会に認定された勇者だった。
十数年前、突如現れた魔王の軍勢が勢力を増す今、特に魔王軍が占領する最西端に近い国では魔王討伐が急務だった。
いくつもの冒険者パーティーが魔王討伐に向けて修行と旅を重ねる中でも、勇者は特別な存在で、人々の希望の象徴でもある。
勇者が率いる勇者パーティーは勇者ニコラスは勿論、筋骨隆々の肉体で戦うギヨームも、魔物を一撃で屠る魔法を使うアイーダも、怪我人を助けてくれる回復魔法の使い手ナタリーも、ハーフエルフのエリカも有名で、どこへ行っても歓迎された。
後ろをもたもたとついて行く、大きな荷物を背負った男のことは、誰も知らない。
「だ、だからせめて、魔力でのサポートを……」
食い下がろうとしたアレンだが、顔を見合わせた仲間たちは、こらえきれないという風に吹き出した。
「あんた、まさかあんな魔力補充でサポートしてるつもりだったの?」
「冗談じゃないわよ。ちょっと魔力を与えた程度で仲間面されたんじゃ、たまったもんじゃないわ!」
「おかしいと思ってたんだ。どう考えても自分から出ていくって言ってもいいとこなのに、いつまでも言わないし。まさか、仲間のつもりでいたなんて」
ナタリー、エリカ、アイーダに口々に嗤われて、アレンは赤くなって俯いた。