聖女サラ、偽聖女の汚名を着せられる(2)
ルドヴィークに呼び止められて、サラは首を傾げた。
「まだ何か」
「偽聖女だと言ったはずだ。お前の罪をここで明らかにする」
罪と言われても、サラには心当たりがない。
黙ってしまったサラをどう解釈したのか、ルドヴィークは意地の悪い笑顔を深めた。
「お前は魔法具を使い、本来ユリアのものである魔力を使い続けてきたな」
「そんなことは……」
「お前が力を使えなくなった途端、ユリアの力が戻ったそうだ。どんな魔法具を使ったか知らないが、よくも10年間我々を騙してきたな」
ヴェールの下でサラはこっそりため息をついた。
サラの力はサラのものであり、誰かの力を横取りしたこともなければ、魔法具など使ったこともない。
ルドヴィークはたとえ聖女と呼ばれていても平民のサラを疎んでいた。
きっかけさえあればサラを排除しようとしていたことは明白だったし、今更サラが何を言おうとも、聖女解任と婚約破棄は決定路線であり、全てはそこへ決着するようになっているのだ。
「そんな悪党を聖女に据えてしまったことは我が国の汚点だ。したがって、お前を国外に追放する」
「えっ」
声を上げたのはサラではなくユリアだった。
「殿下、まがりなりにもここまで聖女を務めてきたのですから、なにもそこまで……」
「さすがユリア、真の聖女だけあって慈悲の心がある。しかし10年もの長きにわたってお前の力を盗み、聖女を騙っていた女を、俺は許すことが出来ない」
「ですけど、あまりにも哀れで……わたくしの身の回りのことをさせる下女として置いておくことは出来ませんか」
「ユリアは本当に優しいな。広場で処刑してやりたいところだが、聖女の目の前で血を流すのは本意ではない。真の聖女が現れた祝いの恩赦として、国外追放で勘弁してやろうと思う」
壇上の二人をサラは他人事のように見ていた。
ふと足元をみると、使い古してすっかり灰色に汚れた、元は白かった靴が目に入る。
これまで聖女として働いていたから謝礼を受け取ることはなかったが、世の中では労働に金銭が支払われることは知っている。
皿洗いでも洗濯でも荷物運びでも、働いたら、靴を買い換えられるだけの金は手に入るだろうかと思案していた。
街で売られていた柔らかそうなパンに、良い香りのする果物。
そんなに立派でなくていいから、破れていない新しい服。
いつも施しで頂く硬い黒パンと薄いスープが食事だったので、もし自分で働いたお金でそうしたものが買えるのなら、それはとても素敵なことに思えた。
サラはヴェールを外して、壇上をまっすぐに見上げた。
まだルドヴィークとユリアの押し問答が続いていたが、サラは初めてルドヴィークを遮って声を張り上げた。
「国外追放を受け入れます。私は、コルヴァッチを出ていきます」
こうして聖女サラは、聖女を罷免されたのであった。
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