聖女サラ、偽聖女の汚名を着せられる(1)
「聖女サラ! いや、偽聖女! お前から聖女の位を剥奪する!」
白いヴェールを被り、つつましく頭を下げていた少女―サラは、静かに壇上の男を見上げた。
男は、名目上は彼女の婚約者であった。
ここ数年、まともに話した記憶がなくとも。
サラは平民として生まれながら、珍しい聖属性魔法の素質を持っていた。
聖女として認定されて早10年。
怪我人病人の治癒から国を守る結界や水源の浄化、田畑の作物の成長を促す祈り、聖女として様々な勤めを果たしてきた。
治癒と結界は特に重宝され、教会から聖女として押し上げられ、毎日力を使い続けてきたが、ついに先日、魔法がまったく使えなくなった。
聖女の任を解かれるのも時間の問題だろうと思っていたので、この宣言は驚くことではなかった。
ただ、気になる言葉があった。
「位の返上には同意します。しかし、偽聖女とはどういう意味でしょう」
男―コルヴァッチ公国の公子、ルドヴィーク・インゲンス・コルディラーナはにやりと笑った。
「真の聖女が現れたのだ」
手を差し伸べると、そこへたおやかな白い腕が重ねられた。
「ユリア・デ・ガジェラ。新たな聖女であり、彼女こそ、我が国の真の聖女である」
サラとは違い、あかぎれを知らない白魚のような指は、白いドレスの裾を柔らかにつまみ、優雅にお辞儀をしてみせた。
サラのぱさぱさの茶髪とは比べ物にならない艶やかな髪を高く結って、銀色に輝く宝冠を乗せている。
人々の思い描く清らかな聖女をそのまま具現化した姿に、大教会の司教たちも笑顔になった。
「なんと神々しい……!」
「あれこそまさに聖女の気品」
「平民上がりが聖女などおかしいと思っていたんだ!」
サラの胸の前で組んだ指に少し力が入る。
散々文句を言いながら、ちょっとした事務的な作業から地方への派遣まで、あらゆることに聖女としての行動を求めてきた彼らのために、寝る間も惜しんで勤めに励んできた。
結果、自分の身支度などままならなかったし、礼儀作法など見様見真似の付け焼刃だ。
聖女らしくないと言われ続けながら、それでも聖女を求める人々のために尽くしてきたつもりだったが、彼らには足りていなかったのだろう。
新しい聖女が彼らの求める人材であるなら、サラも魔法が使えない今、聖女の地位に固執するつもりはなかった。
「わかりました。では私は……」
聖女の任を解かれるなら、生まれ故郷に帰るなり適当な教会に入るなり、生きる道はあるだろうと、退出のために立ち上がった。
「待て」
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