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公爵令嬢エヴァンジェリン、婚約破棄される(2)

舞踏会での出来事はたちまち貴族中に広まった。

屋敷で謹慎していたエヴァンジェリンは、父親に呼ばれ書斎に入った。

公爵は厳しい顔でエヴァンジェリンを睥睨した。

「とんでもないことをしてくれたな」

「あの泥棒猫が悪いのですわ」

「その泥棒猫は正式に皇太子の婚約者として認められた。お前は未来の皇太子妃を害そうとした罪人だ」

「そんな馬鹿な話が……!」

公爵令嬢として、エヴァンジェリンは今日まで未来の皇太子妃、ひいては皇妃として教育されてきた。

皇妃になることは決定された未来であり、国で最も高貴な女になることがエヴァンジェリンの全てだった。

ヴィルヌーヴ公爵は正式な皇帝の印章で届いた書簡を机に放り投げた。

「10日以内に国を出れば、永久に我が国に足を踏み入れないことを条件に命だけは見逃す、と書かれている。皇太子の新婚約者マリーナ嬢のご慈悲だそうだ。よかったな」

「お父様! こんな暴挙を許すおつもりですの!?」

「黙れ! お前のせいで我が公爵家は窮地に立たされているのだぞ! すでに妹の一人はマリーナ嬢の侍女として差し出す約束を取り付けた!」

侍女とは言っても、話し相手を務めたり不慣れな城生活を支える高級侍女だ。

屈辱的だが、公爵家と皇太子の間に蟠りは無いと宣伝したいのである。

「書類にはこうも書かれている。お前がマリーナ嬢に皇太子妃教育をするのであれば、教育が終わるまで国外追放を見送るとな」

ずっとエヴァンジェリンの手元で酷使されてきた象牙の扇が、ついに音を立てて真っ二つに折れた。

「あんな女に屈するくらいなら、即刻国外追放されたほうがマシですわ!」

「わかった。ではすぐに支度をするんだな」

答えを予想していたのか、麻袋をふたつ机に置いた。

エヴァンジェリンが中を覗くと、宝石と金貨が放り込まれていた。

「お前は公爵家から貴族籍を抜く。最後の餞別にそれだけやろう。それを持ってさっさと出ていけ」


部屋に戻り、旅行用の服を着こむ。

少し考えたあとに、使ったことのなかった呪文を唱えた。

「アイテムボックスオープン」

貴族は自分でものを持ち運ぶことはない。

アイテムボックスを持っていても、使わないことがステータスだからだ。

エヴァンジェリンも自分のアイテムボックスを開くのは、魔法適正を調べた幼児期以来だった。

そこへ宝石や金貨の他に、思いつく限りの服やメイドに持ってこさせた食料と水の入った革袋などを放り込む。

「あとは、やってみないとわかりませんわね……」

複雑な形に結い上げていた髪は簡単なみつあみにしてしまい、最後は母や妹たちへの挨拶をさせてもらうこともなく裏口から出された。

ついこの間までエヴァンジェリンにかしずいていたメイドたちまで、哀れみの目で見るばかりで、助けようとしたり、付いていこうという者はいなかった。

「これがわたくしの価値、ということですのね」


こうして公爵令嬢エヴァンジェリンは、国を追放されたのであった。

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