ギャンブル依存症の現実
※これは30代独身「オレ」の実体験に基づく物語――。
時計の針が深夜2時を指している。
部屋の中は薄暗く、静まり返っているが、オレの心の中は嵐のように騒がしかった。
床に散らばった明細書と、机の上に置かれた空の財布。オレは無意識のうちにスマホを手に取り、残高確認のために銀行アプリを開く。
口座残高:32円
分かってはいたけど、口座残高を見た瞬間、胃がきゅっと締め付けられる。口座残高を見つめながら、オレは今日一日を振り返っていた。
朝の段階ではちゃんとわかっていたんだ。「もうギャンブルはしない」と。
でも、仕事が終わってからのあの時間、いつも通りの誘惑がオレを待ち受けていた。パチンコ店の光が、オレの心の中のどこかに巣食う何かを刺激し、気がつけばオレの足は自然とその店へと向かっていた。
「1,000円だけならいっか・・・」
そう思って始めたはずが、いつの間にか財布に入っていた2万円全てを失っていた。
「勝ったら洋服でも買っちゃおうかな♪」
こんなアホみたいな幻想を抱き台に座り、1時間も経たずに全財産を失う現実。
最後の玉が吸い込まれ、虚無感だけが残る。
その帰り道で抱く、自分自身に対する強烈な嫌悪感。ギャンブルで負けた日はいつもこうだ。
帰宅してからの時間はさらに辛い。部屋に入った瞬間、現実が冷たく突き刺さる。冷蔵庫は空っぽ、机の上に無造作に置かれた電気代、携帯代、クレジットカードの請求書。
オレはため息をつき、椅子に深く腰掛けた。ギャンブルの衝動を抑えきれない自分が情けない。それでも、毎回その罠に陥ってしまう。
もう、こんな生活は嫌だ。
そう思うたびに、過去の失敗がオレを苛む。友人たちがどんどん疎遠になり、親や兄弟にも、もう何年も会ってない。何度も「これが最後だ」と誓っても、決意はもろくも崩れ去る。
オレは頭を抱え、自分を責める気持ちを抑えきれない。どうしても、この依存から抜け出せない自分が許せない。そして、そんな自分を救う術が見つからないことが、何よりも恐ろしい。
オレはこのまま、ダメになっていくのかもしれない――。
そんな思いが、頭の中でぐるぐると回る。未来への不安が胸を締め付けるが、次の瞬間、オレは立ち上がり、壁に掛けられたカレンダーを見つめる。カレンダーには、たくさんの赤い丸がつけられている。それは、過去に「もうやめる」と決意した日々の印だった。
もう一度、ちゃんとやり直すんだ。今度こそ、絶対に。
そう思いながらも、心の片隅には「どうせまた失敗する」という声が響く。オレは、そんな自分との戦いを続けながら、「何か」を変えなければならないと強く感じていた。しかし、その「何か」が何なのか、この時のオレはまだ分からなかった。