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  作者: 櫻美
7/32

その七

次の日の朝。目覚まし時計が鳴り響く前に

すんなりと目を覚ます事が出来た。

少々呑み過ぎたかなと思っていたが

案外、身体も軽かった。

昨日の晩、私が鞄を置いてジャケットを脱ぎ

ネクタイを緩めていると明美は目を覚ました。

重たい瞼を擦りながら「おかえり」と

それだけ言うとソファーから起き上がって

寝室の方へとぼとぼ歩いて行った。

私は後ろから「おやすみ」と言ったきりだった。

水でも飲もうと冷蔵庫を開けると

丁寧にラップがかけられた皿が見えた。

食べる訳ではないがわざわざ手で持ち上げて

じっくりと皿に乗ったおかずを見つめ、

出てきたのは溜め息だけだった。

こういう時に出てくるものと言えば

感謝だったり、せっかく用意してくれたのに

それを召し上がらない申し訳なさだったり

罪悪感だろうと思う。そのまま冷蔵庫にまた戻し

水だけを取り出して閉めた。

明美が私の為を思って料理をしたり

掃除をしたり、体調を気遣ったりと

されればされるほど私はその優しさに

苦しめられる一方だった。

明美が求めているような関係にはなれず

それがまた、明美を苦しめているんだと思うと

気の毒で仕方がなかった。

こんな自分の元から離れていかないのが

不思議で仕方がなかった。

かと言って、自分から明美に別れを

切り出す事も出来ずにだらだらと過ごしている。

今朝もいつも通りだった。

機嫌が良さそうに、苦な表情は一切せず

朝食の支度をしていた。

そして、私は会社へと向かい

いつも通りの毎日がまた始まった。

それから、一週間経った頃。社員旅行の前日だった。

晩飯を済ませ、私はソファーに座り

明美は地べたに座ってソファーに寄りかかり

首だけを私の方へ向けた状態だった。


「ねぇねぇ、お土産ちゃんと覚えてる?」

「何度も言わなくてもちゃんと買ってくるから。」

「絶対よ?いいな、私も旅行行きたいな」


何気ない会話をうだうだと続けていると

明美は腕を伸ばして私の膝に手を置いたと思ったら 


「ねぇ、私も行っていい?」と

冗談だとわかっていてもどこか

本気で言ってるんじゃないかと思わされる。


「ハハ、行けないよ。

経ったの一日だけなんだからあっという間に

帰ってくるさ。」


「それもそうね」少し考えるような

顔付きをしてすぐにぽつりと答えた。

どうやら納得したらしく、そのまま立ち上がり

寝室の方へと向かって行った。

自分もそろそろ横になりたかったが

何となく明美が眠るまで待ってから横になった。

朝起きてから家を出る間際になって

また、明美が駄々を捏ね始めた。

「今度は二人できっと行こう」と

果たすつもりのない約束をしてどうにか

気をなだめて家から出てきた。

駅で同僚達と待ち合わせているので

そこで合流し、男四人で電車に乗り込んだ。

社員旅行と言っても殆ど自由に行動出来るので

集合時間も何にも決まりがない分、気楽だった。

そもそも、明美には言わないでいたが

旅行自体も強制はされず、実は自由参加だった。

二時間程で伊勢に着き後はあっちへ行こう、

こっちへ行こうと振り回されるだけだったが

それでも実は十分楽しかった。

五時ごろに漸く旅館へと向かった。

写真で見たよりもだいぶと大きい旅館だった。

ぞろぞろと男四人で受付へ行くと四十半ばぐらいの

女性が対応してくれた。一人が話を聞いている間

私を含む残りの三人はロビーに用意された

ソファーに各々座り、煙草を吸って待っていた。


「おい、行くぞ。三階だってよ」


エレベーターで三階まであがり

長い廊下を一番端まで歩くと私達の部屋だった。


「ここやん」と一人が言うので

立ち止まって部屋に入ると四人では

十分すぎる広さで、私達はそれにまず驚いた。

四人は靴を脱いだら順番に部屋の中に入り

キョロキョロと周りを見て回った。

大きい木のテーブルが真ん中に置かれ

それを囲うように座布団が八つ置かれていた。

部屋に入ると畳の匂いや、木の匂いに包まれ

落ち着いた心持ちになっていた。


「ひで、見てみぃや。めっちゃ綺麗で」と

言うので、やっと下ろした腰をもう一度上げ

窓から外を覗いてみると、一面に海が広がっていた。

夕焼けに照らされた海は薄っすら赤く染まり

その夕焼けの灯りでキラキラと光る。

建物が少ないので余計に海と空の広さを強調させた。

見惚れてしまった私は窓際に用意された椅子に腰掛け

頬杖なんかついてうっとりしていた。


「なぁ、来てよかったやろ?」


まるで、自分の手柄かの様に

一人が自慢げに言ったが誰も何も言わず

ただ、残りの三人が口を揃えて

「そうだな」と微笑んだだけだった。



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