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  作者: 櫻美
6/32

その六

このままこの話が続くのは居心地が悪いので

唐突ではあったが旅行の話でもしておこうと思った。

かと言って、別に興味もある訳じゃなかった。


「もうすぐ旅行だな。伊勢だっけ?

そんなにいいところ?」


少し無理やり過ぎたかな、

急に話を変えたもんだから北田は

キョトンとしていた。マスターはちらっと

こっちを見ただけで仕事を続けていた。

少しの間が空いてから思い出したかの様に

旅行先の話を私に披露してくれた。

その時は母親と父親の三人で家族旅行として

訪れたらしく、大変気に入ったんだとか。

そう言えばやけに旅行先が決まった時

はしゃいでいた姿を思い出した。


「俺な、行きたいとこあんねん。

着いてきてな。絶対楽しいから」


調子を取り戻して張り切っていた。

二人とも珈琲は既になくなっており

腕時計に目をやると、だいぶいい時間になっていた。


「おい、そろそろ行くぞ。」

「もぅそんな時間か、マスターご馳走様」


支払いを済ませて店から出ようとしたら

マスターが丁寧に見送ってくれた。

喫茶店を後にした私達は旅行話の続きをしながら

だらだらと会社に向かった。

仕事を終えて時計を見ると、夕方の17時頃だった。

今日は早く終われそうなので、このまま

真っ直ぐ家に帰るのは勿体なく思えた。

どうしようかと考えていると同僚達から

呑みに誘われたので行く事にした。

残りの仕事を片付けて、私達は梅田へと足を運んで

適当な店に入る事にした。

平日というのに店内はかなり騒がしかった。

席に着いて酒と食い物を注文して

たわいも無い会話で盛り上がっていた時だった。

明美に連絡するのをすっかり忘れていた。

メールで一言連絡しておこう。と

会話に耳を傾けながら携帯の画面を見て

送信完了と言う文字を確認してそれっきり

携帯は放置してしまった。


「あ、そうや。今度行く旅館に

美人がおるって言うてたで。」


「へぇー、そうなんや、」


同僚達がこんな話をしている中

私は黙って二人のやりとりを見ながら

酒と料理を楽しんだ。


「絶対興味ないやろ?」

「あるけど、行った時におるかどうか

わからへんやろ?」


口には出さなかったが、私も

全くその通りだと思った。

ちらっとこっちを見たかと思うと

「ひでは彼女おるからな、興味ないんちゃう?」


同僚の一人がそう言った。


「彼女がいる、いないは関係ないさ。

ただ、興味がないだけ。」

「ハハ、冷たいと言うか何と言うか。」


笑いながらそう言われたかと思うと

もう一人が付け足す様に「こいつは

こう言うやつやから」と三人で笑い合った。

たんまりと酒や料理を堪能した私達は

解散してそれぞれ家へと向かう事にした。

最寄りの駅に着いた時にやっと携帯を確認した。

開いて良く確認すると一通のメールが届いていた。

無論、明美からであった。その内容はと言うと

「何時になるの?」たったこれだけの

短くて簡単な内容だった。「今駅に着いた」と

打ってみたが、今更返信する必要はないだろうと

送信を取りやめてしまった。

酒で火照った身体を夜風が冷まそうと

心地よく吹くので気持ち良かった。

スーツの胸ポケットから煙草を取り出して

吹かしながら歩いていると案外すぐ家の下に来た。

玄関を開けて、灯りが点いているのを確認したので

とりあえず玄関先で靴を脱ぎながら

「ただいま」と言ってみたが返事はなかった。

だが、あんまり気にもしなかった。

リビングに行くとソファーの上で

器用に身体を丸めた明美が眠っていた。

その様子はどこか心細そうな、

弱った小動物でも見ているような気分だった。

毎晩、毎晩私は彼女の寝顔を見るたびに

罪悪感に襲われどうにかなりそうになる。

その気持ちを少しでも鎮める為に

酒や煙草に頼る毎日である。



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