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  作者: 櫻美
4/32

その四

少しのつもりが随分のんびりしてしまった。

脱衣所に行き洋服を洗濯機に投げ入れて風呂にする。

いつもは明美が風呂の支度をしてくれ

毎日浸かるが今日はシャワーで済ませる事にする。

頭を洗い、そのまま身体も一緒に洗ってしまう。

風呂は入る迄は中々面倒だと思ってしまうが

入ってしまえばすっきりと大変良い心持ちになる。

だが、今日は湯船に浸かれないので少し残念に思う。

子供の頃は湯船に必ずカエルのおもちゃを

持ち込んでいた。今でもよく記憶しているが

そのおもちゃがないと風呂に入らない子だった。

元々、風呂嫌いだった私に父が

「こいつと一緒に風呂に行け」と渡した物が

カエルのおもちゃだった。母は二、三日で

どうせ飽きてしまうと言い切ったらしいが

私はそのおもちゃを妙に気に入った。

そのおもちゃのおかげで駄々を捏ねずに

毎日素直に風呂に行く様になり、仕舞いには

おもちゃで遊ぶ為に自分から風呂に入ると

言い出したらしい。もう捨ててしまった物とばかり

思っていたが、正月に帰ったら

大事に箱にしまわれていたのを見つけた。

連れて帰ろうかとも思ったが何となく実家に

置いておこうと思ってそのままにしてきた。

私にとって特別なカエルをくれた父は

大学に入った頃に病気で亡くなった。

不器用だったが、優しい父だった。

最近になって過去の事をよく思い出す様になった。

何かきっかけがあった訳では無いが

気づいたら、それも鮮明に思い出す。

もし、記憶を消せるのなら喜んですべて

消し去りたいものだ。風呂から出て着替えを済まし

洗面所に置いた眼鏡をかけて、ふと目の前の鏡に

目をやると風呂に入りさっぱりした筈だったが

何だか疲れている様に見えた。そして出た溜め息。

タオルで髪の毛を拭きながら台所に向い

冷蔵庫から取り出した水をグラスに並々注いで

一気に飲み干す。喉から全身へと水分が行き渡る。

そして、またベランダで煙草に火をつける。

時計を見るともう時期日付が変わろうとしていた。

煙草を吸い始めてすぐだった、ベランダの扉が

ガラリと音を立てたので振り向くと

明美があくびをしながらベランダへと出てきた。


「寝過ぎちゃった」


「気分はどう?」


「もう、平気。最近お酒呑んでなかったから

すっごい酔っちゃった。」


「そっか、そんなに弱いと思ってなくて」


「呑みに行ったり、てゆうか外食なんて

いつぶり?ってぐらいだもんね」


「そうだね」


何だか、妙に居心地が悪く感じる。

会話は少しの間途切れ、煙草を吹かしていると


「煙草って美味しいの?」


「美味しくないよ」


「ちょっと吸わせて」


甘えた声でそう言うと私の腕に手を添えて

自分の口に近づけようとする。


「やめな。美味しくないよ。」


「駄目なの?」また甘えた声で言う。


私は何も言わずに、まだ少し残った煙草を

灰皿に押し付けて火を消した。


「お風呂まだだっただろ?さっぱりしておいで」


それだけ言い残して私は

部屋に戻りそのまま寝室に入った。

ベットに横になってから五分と経たないうちに

私はすぐに眠ってしまった。

次の日の朝、横には明美の姿はなく

起きて朝食の支度をしてくれていた。

寝室から出てリビングに行くと


「おはよう、もうすぐ出来るから待ってね」と

忙しそうにしていた。「おはよう」とだけ言って

顔を洗いに行ってまた戻って来ると

朝食の用意が済まされていた。

向かい合う様に座り食事を進め始めた頃


「旅行って一泊二日だったっけ?」


「うん」


「お土産楽しみにしてるね。」


私はただ微笑んだだけでその会話を終わらせた。

「ご馳走様」食事も切り上げ着替えを済ませ

まだ、時間には余裕があったが会社に

向かう事にした。


「行ってきます」玄関で靴を履きながら言うと

パタパタ足音を立てて「もう、行くの?」


「うん、今日は朝から大事な用があって」

咄嗟に分かりやすい嘘をついてしまったが

彼女は一切疑うこともなく

「そっか。行ってらっしゃい」と

残念そうに私を送り出した。



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