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  作者: 櫻美
28/32

その二十八

旅館から抜け出して波の音を背中に

例の公園へと向かい始めた。

旅館の周りは殆ど家は建っておらず

そのせいか人の気配をちっとも感じとれない。

気配と呼べるものと言うと遠くの方から聞こえる

鳥の鳴き声と風が吹く音ぐらいだった。

進む道の両側には竹藪が広がり

暫く同じ景色が続くので少し不気味だった。

竹藪だらけの道を抜けると公園の入り口が現れ

少しホッとしながら中へと入って行った。

佳代から聞いてあったとおり、入るとすぐに

丸い大きな池が目の前に広がっていた。

自分が想像していたものよりも綺麗で大きかった。

近寄り池の中を覗くと蓮の葉だけが浮かび

時期が過ぎたのか花は見当たらなかった。

遠くの方で「チャポンチャポン」と音がしたので

そっちに目を向けると水面が揺れ動いていたので

少し移動して再び池の中を覗き込むと

広い水の中を自由に泳ぎ回る鯉を数匹認めた。

手摺に肘をついて暫く眺め、飽きてしまったので

再び歩き出した。池を通り越した先に花畑があった。

あんまり広くはなかったが

これぐらいの方が可愛らしくてよかった。

たまに吹く風に身体を傾けて揺れる様に

すっかり見惚れていると、木々の中から人の声が

聞こえたような気がした。気になって

声のする方に目を向けると、一人、いや、二人。

丁度木と重なるのではっきりわからなかったが

男と女がいるのだけがわかった。

こう言った静かで所謂穴場と呼ばれるような場所は

男と女が二人で会うのにぴったりなんだろうと

勝手な解釈をした私は暗くなってから

例の来た道を通って帰りたくはなく、二人の

邪魔をするのも悪いのでゆっくり歩き始めた。

池を通り過ぎる頃に二人をみると

女の顔は男で見えず頭につけた黄色い簪だけが見え

男は小柄な女を両手で抱きしめそのまま

二人は動かなかった。視線をすぐに外して

歩いていたが男の顔に見覚えがあった。

二、三歩進んでもう一度目を向けるとそれは

紛れもなくあの男だった。

元来た道を辿りながら私はあの男の顔を

思い浮かべそして自分と重ねていた。

部屋に戻り煙草を吹かしながらそして決意をした。

部屋に帰ってから一時間程してから

コンコン、


「夕飯どうする?運ぼうか?」

「うん、お願いするよ」

「ちょっと待っててね」

それだけ言うと忙しそうに佳代は出て行った。

佳代の顔を見ると私は心を痛めた。

私はあの女とこれからを生きようと決めてしまった。


コンコン、


「お待たせ、今日で夕飯最後ね」

「あぁ、そうだね」

見慣れた手つきで丁寧に用意されていく。

「あ、そうだ、公園行ってみた?」

「丁度さっき行って来たよ」

「え、そうなの。どうだった?」

「静かでいい所だったよ、穴場だね」

「でしょ?誰も居なかった?」

「うん、俺だけだった」

「そうだったの、誘ってくれたら良かったのに」

「ごめんね」

「フフフ、冗談よ?謝らないでよ。

冷めちゃう前にたべちゃってね」

去って行った佳代の後ろ姿を

いつもより見つめていた気がした。

「ごめんね」と言葉が出たのはきっと

自分の中にある罪悪感が私に言わしたものだった。

夕飯を食べ終えてゆっくりしていると

食器を下げに佳代ではなく珍しく

違う女が来たので少しホッとしていた。

歳は四十代ぐらいだろうか、肉付きの良い

明るい女性だった。

「お下げしますね」

「はい、お願いします」

「フフ、お兄さん佳代ちゃんの知り合いなんだって?

いい男だって皆んな噂してるのよ」

「ハハハ、いい男だなんて全然です」

「何言ってんのよ、イケメンじゃない。

皆んな噂するから一眼見たかったのよ

丁度一人休んでいるからね、それに

明日帰っちゃうんでしょう?」

「はい、そうなんですよね」

「あら、残念。また来なさいよ?」

「ハハハ、必ず来ます」

女は微笑んで忙しそうに部屋から出て行った。

その後はいつもより早めに風呂に入り

部屋に戻る前に酒を買いせっかくなので

旅館での最後の夜を満喫するつもりだったが

すぐに眠ってしまっていた。

目を覚まし時計に目をやると午前五時頃だった。

外は薄暗くどことなく寂しく感じてしまう。

顔を洗い完全に自分を起こし

煙草を吸いながら女の事ばかり考えていた。

まだ早いような気もしたが部屋でじっとしてられず

旅館から抜け出し薄暗い外を歩いていた。


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