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  作者: 櫻美
24/32

その二十四

「私には婚約している者が居ました。

歳は私より三つ上で良く笑う男でした。」

女は重たい口を開き話始めた。

私は風邪の病など忘れ妙に緊張した心持ちでいた。

「その男との出会いは運命的なものでした。

けれども、もう三年程経ったでしょうか?

男は私の元から去って行きました。」

女はぴたりと話をやめてしまったが

私は物足らない気分だった。

「ハハハ、何故?って言いたい顔ね。

私が子を産めない身体だからよ。」

笑いながらそう言ったかと思うと

すぐに寂しい目をして自分の手元をみた。

詳しく話を聞くと女は今までに二回妊娠した。

だが、二回とも流れてしまった。

その男は子が産めない女に対して

結婚する気も気持ちも何もかも冷めてしまい

ある日突然男は姿を消して女の元から去って行った。

「子ができない私を女として見れないと、

これが彼からの最後の言葉だったわ。」

女は手元の湯呑みを口にあて、私はその姿を

じっとみている事しかできなかった。続けて女は

「色々試したのよ?これでも。

お医者さんにも何度も行きました。

人から勧められた神社は片っ端から足を運んで、

それでも駄目だったわ。」

「その男はそんなにいい男だったんですか?」

「ええ、私にとってはね」

「生意気な事を言いますけど、私には

ちっともいい男と思えません。」

自分でも何故こんなにも可愛げのない事を

言ってしまったのだろうと思いもしたが

女の話を聞いた私は同情し、そして

その男に対して嫉妬してしまった。

「ハハハハ、貴方の様な子供にはわからないわ。」

「ええ、わかりませんとも。

わかりたくもないですが」

「生意気ね、可愛くない」

「その男が居ないせいで死にたいんですか?」

私は少しむきになって女に詰め寄った質問をした。

「ここ何年も私はずっと考えていたの、

愛した人と一緒になれない人生ならば

一生懸命、毎日を生きる必要があるのかと、

女として子を授かれない私は価値があるのかと。

もう、意味がないのよ私には。死にたいんじゃないの

生きる意味がないの。」

「貴方は私よりずっと馬鹿ですね、

一生懸命に生きているから価値は生まれるんです。

男が居ようと、子供が居ようと、そんなものは

何も関係ないんです。」

「あらあら、お説教されているのかしら?」

女は私を茶化す様に言う。

その態度に腹は立たなかったが

自分を異性として全くもって意識していない

女の態度が私は気に入らなかった。

「ゴホッゴホ」

「あら、いけない。少し長居し過ぎたわ。」

「いえ、なんて事ないです」

私の言った事など耳に入っていないらしく

女は私が咳き込んだので慌てて立ち上がり

掛け布団をめくり私が横になるのを

布団の側で待っていた。

怠く重い身体を布団に滑らすと

女は優しく布団を掛けてくれた。

「ゆっくりお休みになって。」

「ええ、そうします」

「熱はどうなのかしら?」

女は冷たくて白い手を伸ばして私の首元と次に

額に手を当てた。女の手がひんやりして

気持ちがよかった。私は目を閉じて

このまま眠りにつきそうになっていると

女の手は額から滑らして私の右頬に触った。

薄っすらと目を開けると女はゆっくり顔を近づけ

口付けをした。呆然とし薄目で女の顔見ていると

微笑んで「人に移してしまう方が

早く治ると聞きました。おやすみ」

それだけ言い残して何事もなかったかの様に

部屋から去って行き私は一人になった。

風邪の病かどうだか、心臓は激しく脈を打ち

顔はさっきよりも熱かった。

仰向けだと中々落ち着けないので

うつ伏せになり枕に顔を押し当てて何とか眠った。

次に目が覚めた時はもう外は真っ暗だった。

ゆっくりと起き上がり自分の額と首元に手を当て

熱が大体下がった事を認めた。その代わりに

随分と汗をかいたので浴衣はびっしょりと濡れて

気持ちが悪かった。風呂に入ってさっぱりしたいと

考えていたらタイミング良く佳代が部屋に来た。

「具合はどう?」心配そうに聞くので

「もう、全然平気」と思いっきり伸びをしてみせた。

佳代はすっかり安心した柔らかい表情で

「それならよかった」と笑顔をみせた。

風呂に行くと伝えると佳代は部屋から出て行き

自分の仕事に戻って行った。

風呂でさっぱりとした私は窓際に座り

真っ暗な外を見ながら煙草を吹かし

ここに何日も宿泊した事を心から後悔した。

佳代の様な女を好きになれればいいのだが

私はどうもあの女が気になって仕方がなかった。


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