表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 櫻美
23/32

その二十三

「くしゅん。」あれからどれぐらい経ったか。

くしゃみで目が覚め、外を見るとうっすらと空は

黄色くなり始めている頃だった。

服は新しい物に着替えたが

髪はまだ少し湿っており少し寒気を感じた。

もしや風邪でも引いてしまったかと参っていると

部屋の扉がノックもされずにガチャりと開き

注目するとそこに居たのは佳代だった。

「ごめんね、起こした?」

「いいや、さっき起きたところ」

「ひでちゃん海で何してたの?

木村さんが京子さんと一緒に居たって。

それに、二人ともずぶ濡れだったって」

「あの人が海に入って行ったんだよ。

それを俺は助けただけで、何も無いよ?」

「どうしてひでちゃんも海に居たの?」

「ここからたまたま見えたんだ」そう言い

窓の方を指差すと佳代はゆっくり窓の近くに寄り

なるほどと言った顔をした。

「京子さんどうしちゃったんだろう。

最近ちょっと変なの。」

「変って?」

「変と言うか暗いと言うか。前の方がもっと皆んなと

楽しく話したりしてたのに、避けてる様な。

何か言ったりしてなかった?」

何か言ってたか?と聞かれれば言っていたが

私は言うべきかどうか悩んだ末「いいや」と答えた。

「急に様子が変わったの?」

「うん。でも、何かあっても私達に

話すとも思えないけどね。本当は結婚する気も

無いみたいだし。」

私は何も言葉が見当たらないので

「どうだろう」と曖昧な返事だけで済ました。

佳代を迎えに来ただけの筈だったが

全く面倒な女と出会ってしまったと思った。

「それよりひでちゃんもしかして風邪?

すごい鼻声よ?」

「引いたかな、少し頭も痛いような」

「寝てた方がいいよ、ちょっと待ってね」

佳代は襖を開けて布団を取り出した。

綺麗に整えて「どうぞ、横になって」

布団に入るとふかふかであまりにも

心地が良かったのですぐにまた眠気がきた。

佳代は寝転んだ私の顔を覗き込んで

「冷えピタか氷枕か冷やせるもの用意してくるね」

「うん、有難う」

佳代の微笑んだ顔を見ると不思議と心が落ち着いた。

子供の頃からそうだった。佳代は昔のまま

何も変わらずに大人になって更に綺麗になった。

一方私は、大人になるにつれ心は汚れた。

現実を拒絶する様に私はゆっくり目を閉じた。

目を閉じて暗い中に徐々に浮かび上がる風景。

それは、私が育った街だった。

自分の家から私は歩き出してやがて

例の公園が見えて来た。通り過ぎてまだ先を行く。

私の記憶が曖昧なせいなのか殆どの家が

ぼやけているか真っ白だった。はっきり見たのは

公園ぐらいだった。暫く進んで行くが気付けば

辺りは真っ白で道もなくなりまるで

真っ白の箱の中に入っているような感じだった。

私は一度立ち止まった。辺りをキョロキョロ

見渡してみた。すると、遠くで人が立っている。

手招きするので私はその元へ駆け寄った。

人がいる安心感を抱き近づくとそこに立っていたのは

聡太だった。

私は眠りから覚めてとりあえず上半身を起こした。

「随分うなされてたみたいだけど

一体どんな夢を見ていらしたの?」

女はお茶を注ぐ手元だけを見つめて私に問いかけた。

「いいえ、大丈夫です」

「そう?顔色も良く無いのね。

病気しているせいかしら?どうぞ」

お茶を差し出されきちんと座り直して

湯呑みに手をかけた。まだ体調はすぐれなくて

頭痛は酷くなった様な気がした。

「有難うございます」

「本当に悪い事したわね。

私が病気したら良かったのに。

見ての通り私はピンピンしているわ」

「髪も拭かずに眠った私がいけないんです。」

「貴方って意外と男らしい所があるのね」

「意外、ですか?」 「フフ、そうそう意外よ」

馬鹿にしてくるであろうと思っていたが

女は寧ろ私の身体を労った。

その方がよっぽど意外だと思った。

「やっぱりまた海に探しに行くんですか?」

「そうでしょうね、きっと」

「もしも、私が駄目だと言ったら

貴方を止めることは出来るんでしょうか?」

「それはどうかしら」

女は寂しい目をして自分の湯呑みを見つめた。

私にこんなにも女らしい顔を魅せたのは

初めての事だった。

「生きているのはやっぱり辛いですか?」

「辛い事なんてありませんわ、ただ、

意味が無くなったとでも言いましょうか」

「何が貴方をそうさせたんですか?

何があったんです?」

「そうね、貴方には話す義務が

あるかもしれないわね。」

女は俯いて長い沈黙の後にこう言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ