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  作者: 櫻美
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その二

ソファーに座りながらまたちらりと

彼女の方に目を遣る。どうやら

支度にたっぷり時間をかけたいらしい。

鏡と引っ付きそうなぐらいまで顔を近づけ

目を閉じたり、開けたり。したかと思うと

細かいラメが混じった粉を上瞼に指先で

優しく乗せ、また違う色を足していく。

瞼の周りが鮮やかな色に染まりラメのおかげで

光に当たるとそれらはキラキラと輝いてみせる。

睫毛は丁寧に根本からブラシが通され

通される度に濃く、長くなっていった。

鏡で目元を確認し、満足いったらしく

口紅を塗って散らかった化粧品達を集め出した。

ポーチのチャックを閉めたと同時に彼女は

振り返って「どう?かわいい?」と、

もう少し、薄い化粧の方が好みだし

似合うんじゃないかと思った。私自身あんまり

濃い化粧は好きではなかったし、とても

似合っているとは言いがたかった。が、

「うん、」とだけ答えておいた。

彼女は満足そうに笑みを浮かべながら

次は洋服を選び出した。私は時計を見て

出掛けるまであと一時間はかかるだろうとみて

自分の支度は後回しにした。

頬杖をついて先程読んでいた小説を手に取り

少し読み進めた所で、彼女が私の肩を軽く

叩いたので頬杖をついたまま首を捻り

彼女の方に目を向ける。すると彼女は

左手に鮮やかなブルーのシャツと右手に

胸元の部分にひまわりの刺繍が入った

白い様なクリーム色のようなワンピースを持って

私にどっちがいいか選べと言う。

どっちでもいいと答えると必ず彼女は拗ねてしまい

かえって面倒になるので、私はブルーの

シャツを選んだ。


「こっち、かな」


「それじゃ、こっちにしようかな。

ひでちゃんは呑気ね、着替えないつもり?」


「あぁ、そろそろ用意するよ」


「そう、着替え済ましてくるわね」


彼女は私がいつまでも動き出さないので

少し不満そうに部屋へ着替えに行った。

それを察した私はやれやれと思いながら

重たい腰を上げ足元に置いてある服に着替えた。

着替え終えて洗面所にいた彼女に「まだ?」と

聞くと、「もう少し。」と言われ

とっくに待ちくたびれてしまった私は

何も答えず、ベランダの外に出て煙草に火をつけた。

天気は良すぎるぐらいで煙草を咥えたまま

顔を上げると太陽が眩しすぎて目を開けてなんて

いられなかった。ぼんやりしたまま煙草を

吸っていると、後ろでベランダの戸が開く音がし

振り返ると「もう、出るよ、早くして」と

それだけ言われ扉を勢いよく閉められた。

またも、やれやれと思いながら煙草の火を消し

家へと引っ込んだ。


「鍵と携帯とあと、お財布と、ハンカチと。

これで大丈夫かな。行きましょう」


「うん、」


家から出て、エレベーターで一階へと降り

歩き出していると彼女が


「この前、私が行きたいって言ってた

焼き鳥屋さん覚えてる?あそこにしない?」


「いいよ」


「友達が美味しかったって言ってたから

ずっと行きたくて」


その店は、繁華街のところにある店で

実は少し前に同僚と行ったことがあるが

言わないで彼女と向かって行った。

古くからあるお店で、入り口の扉は

引き戸になっており開け閉めの度に

キーキーと音を立てて滑りの悪い扉だ。

汚れた赤い暖簾を手で退けて中に入ると

真っ直ぐのカウンター席が四席と右手に

テーブル席が二席だけの小さなお店だった。

中にはすでに客が居たが私達二人が入っても

誰も見向きもしなかった。


「いらっしゃい、お二人さん?」


四十代ぐらいの女性の店員が気づいて

声をかけてくれた。

「そうです。予約はしてないんですが」


「大丈夫ですよ、カウンター席どうぞ」


丁寧に案内され席に着くと同時に

おしぼりを二つ用意され飲み物と食事の

注文をし、料理を待っている間に彼女の方から


「そう言えば、来週社員旅行があるって

言ってなかったっけ?」


「うん」


「どこに行くの?」


「伊勢の方に、一泊だけだから

すぐに帰ってくるよ」


「いいなー、私も連れてってくれる?」


「また、今度ね」


そう言うと彼女はジョッキに口をつけて

その後は何にも言わなかった。

運ばれてきた焼き鳥の串を持ち上げ

見つめながら「変わったのね」とだけ言われた。

私は返事もせずに串を頬張る彼女の

横顔だけを見つめていると、

食べ終えた串を皿の上に置いてから

また、ジョッキに手をかけた。

つられて私も酒を流し込んでいると


「ひでちゃんは私の事好き?」と、

ぽつりと不安そうにこちらも見ずに聞いてきた。

気まずさを感じた私は自然と彼女から

目を逸らし、カウンターの机を見つめたまま

「うん」と答えると彼女は微笑み

「そろそろ行こう」と言われ

私達は一時間程で店を出る事にした。

ここ何ヶ月かずっと明美とはこんな調子で

どこへ出掛けても、食事に行っても

お互い昔の様に笑わなくなってしまった。



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