その十六
その日を境に明美はぱったり姿を現さなくなった。
数日は余計に気味悪がって何を企んでいるのか
毎日憂鬱な気分だったが、更に数日経てば
なんて事なかったし、顔を見ないで済むので
かえって都合がよかった。無論、佳代には
あの日の事と手紙の内容は言わないでおいた。
このまま学校を卒業したら大学へ行って
この地から離れよう。暫くの間は佳代とは遠距離に
なってしまうが、大人にさえなってしまえば
早く結婚して平和に穏やかに佳代とまったく
離れた地で暮らそう。私の心が少しずつ
灯りを取り戻しつつあったある日の事
学校帰りに佳代に「ちょっと話たい事が」と
寄り道を誘われ話を聞くと「別れましょう」と
告げられた。
「そんな急になんで?」
「なんでもよ」
「ちょっと待って、理由になってないよ」
焦った私は佳代の肩を掴み
語気も強くなっていた。
佳代はぽろぽろと涙を流し俯いたまま
何にも言わなくなってしまい、その様子に
私は余計に焦り余裕を失い手の力を強めていた。
「ちゃんと理由を言ってくれないと俺は
納得いかないよ?」
「秀ちゃんが私を好きじゃないからよ、」
「どう言う事?そう思わせたなら謝るから。
まったく思い当たる事がないんだ」
「明美ちゃんの事ずっと好きだったんでしょ?
お兄ちゃんと付き合ってるって知って
誰でも良かったんでしょ?」
「明美がそう言ったのか?」 「そうよ、だから」
私は明美の名前を聞いた途端に
全身の力が抜け、佳代の肩から手を離した。
「そうか、なんて言われた?」と聞くと
「秀ちゃんは明美ちゃんの事がずっと前から好きで
何度も告白されたけど断ってお兄ちゃんと
付き合う事にしたのって。」 「それで?」
「私の事好きでも何でもないだろうから
別れた方がいいんじゃないかなって」
「佳代はそれを信じたって事なの?」 「うん」
もう、何も言う気力が私には無かった。
佳代は私の話を聞く前に明美から聞いた話を信じて
一方的に別れを告げてきたのだった。
兄からも妹からも信頼をされず、突き放され
そして失うばかりだった。明美には呆れたが
それ程怒りは湧かなかった。
私と関わった三人共、誰も幸せにはならず
自分を中心に皆んな不幸になった。
明美を嫌な女に仕立て上げたのも私なのだ。
私は立ち上がり「ありがとう、今まで」とだけ告げ
そのまま佳代に背中を向け歩き出した。
そして、そのままの足で私は明美を訪ね
「付き合おう」と伝えた。
この時の私は自暴自棄になっていた。
明美と絡んだ聡太と佳代は酷く傷付いた。
だが、全ての元凶は私だったのだ。
明美と付き合う事で聡太との約束を果たす事ができ
佳代はさっさと吹っ切れて次の誰かと。
こうして私は、明美と一緒になる事で
罪を償えると考えた。高校を卒業後、私は
大阪にある大学に入学した。明美は地元に残り
卒業後就職し遠距離の関係だった。
大阪で就職が決まりこのタイミングで明美と
こっちで一緒に暮らす事になり
初めは良かったが、一ヶ月程経って
私はずっとこの女と一生を共にするのかと考えると
憂鬱で仕方がなくなってしまった。
うつ病。そう言われるものになった私は
地元には帰らないが会社は辞めてしまった。
明美はずっと私を気遣い金の工面もすべて
世話をしてくれた。体調は案外すぐに戻ったが
気力が中々戻らないので仕事もせず
ダラダラと無駄に過ごしたが、明美は私の元から
去ろうとしなかった。このまま仕事も始めなければ
金も食べる物もなくなり、人間でさえも
無くなりそうだったので漸く仕事を探し
今の会社に勤めるに至った。
明美の事は本当に気の毒に思う。だが、
やっぱり私は佳代を幸せにしたいのだ。




