その十五
葬式当日は雨だった。薄暗く風が吹くが
身体中に纏わりついてじんめりしていた。
親戚や同級生が皆んな白と黒だけの二色の色を纏い
今日の空みたくどんより暗かった。
聡太が眠っている棺の近くで蹲って泣いている
明美を見つけた。その様子を見た私は
自分が明美の立場だったらどう思うのか。
恋人だとまた違った感情を見せるものかと。
同情していると横にぴったりと身体を引っ付けて
私と同じく明美を見守る佳代が立っていた。
佳代は涙を見せなかったがここ数日で憔悴し
心身共に疲れた様子だったが、佳代に対して
気遣う事を言うもんだから驚かされたと共に
強がる彼女を少し心配した。
式が終わると三家族は火葬場へと向かった。
聡太が眠る棺を台車の上に乗せて
ゆっくりゆっくりと焼却炉の中へと入っていった。
私は泣きも声も出さずじっと動く台車を見つめた。
そして、次に見たときは骨だけが残り
それ以外は跡形もなく消え去っていた。
斎場の人が丁寧に人骨の説明をしてくれたが
私はあんまり頭に入って来なかった。だが、一つ
「随分綺麗ですね」と斎場の人が言ったので
気になり下を向いていた自分は顔を上げ
心の中で「何が?」と問いただした。
「これは生前に良い行いを沢山した証でしょう、」
成程。確かにその様に見えると関心した。
そして、葬式から二、三日経ったある日
聡太から私宛に書いたであろう一通の手紙が
見つかったと佳代から伝えられた。
渡された手紙は、柄はなく無地で薄い青色の様な
色をしていた。封筒の真ん中には「秀へ」と書かれ
開かない様にテープでしっかり止められていた。
手紙を受け取った私は家へ帰って早速読み始めた。
「秀へ
手紙を書こうかどうか最後まで迷っていた。
きっとこの手紙を秀が読んでいるなら
おれはすでに死んでいるんだろう。
何も言わなくてお前は多分怒っているだろうから
謝っておく、ごめん秀。
秀にずっと言えなかった事を最後に
言おうと思って俺は手紙を書くことにした。
明美と付き合っていたけど実は明美はずっと前から
お前の事が好きだったらしい。高校に入ってから
俺は明美を意識するようになったけど
その頃にはすでに秀が好きだと知っていたんだ。
ずっと明美から相談されてて最初の方は
黙って相談に乗っていたけど我慢出来なくて
秀なんかやめといて俺と付き合おうと言って
無理矢理な形で付き合うことになった。
それに、勝手に秀には好きな人がいるからと
嫉妬した俺は作り話までして諦めさせようとしたんだ
親父の事もあって俺は学校を辞めたけど本当は
早く明美と地元から離れて秀と離れさせたかった。
ずっと秀に嫉妬していた。だから相談も何も
したくなかったし頼りたくもなかった。
けれど、明美の気持ちが俺に傾く事はなくて
実は少し前に振られてしまった。
俺は卑怯で臆病で弱虫なんだ。
だから明美はお前を好きになったんだろう。
俺じゃ駄目みたいだから秀が幸せにしてやって
くれないか?明美を一人にしないでやってほしい。
頼む。あと、本当にごめん」
ここまでで手紙の内容は終わりだった。
私は元の通り手紙を折り畳んで封筒に直し
そのままゴミ箱に捨てた。
受け取らない方が良かったと今更後悔した。
その手紙を受け取ってから
一週間程経ったある日から
私と佳代が待ち合わせる場に明美が現れたり
突然家に訪ねて来たりと度々現れるようになった。
私は手紙の事を忘れようと過ごしていたが
明美の顔を見るたびに思い出さされた。
電話が鳴っても放って置いていると
「話があるの」と家に押し寄せて来た。
半ば強引に玄関に入って来たので
仕方なくリビングに通した。
「で、話って何?」
訪ねて来た明美に対して迷惑に思った私は
早く要件を言って帰ってくれないものかと思い
少し冷たい言い方になってしまった。
横に座った明美は俯いたまま
「聡ちゃんからの手紙受け取った?」
「あぁ、受け取ったけど。それが何か関係ある?」
「ううん、私も聡ちゃんから手紙があったの」
「そう、」
「うん。実はね私、ずっと前から
秀ちゃんが好きだったの。それでね、
こんな事を言うの可笑しいと思うんだけど
私と付き合ってほしいの。駄目かな?」
私は呆れてしまった。嫌悪さえ抱いた。
この女は聡太が亡くなってから
まるで邪魔者でも居なくなったかのような
振る舞いを堂々と見せつけたのだ。
当然私は「付き合えない」とはっきり断った。
「それって佳代ちゃんと付き合ってるからでしょ?
私ね全部知ってるんだから。二人は最低よ。
聡ちゃんにずっと隠したままだなんて。」
「それが明美に何か関係あるとでも?
別に隠してた訳じゃない。わざわざ
言う必要があるとも思わない」
私はとにかくもう帰って欲しかった。
もう顔を合わせるのもごめんだった。
「もう、帰ってくれな…」そう言おうと
顔を向けた途端に明美は私にキスをして
そのまま逃げるように出て行った。




