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  作者: 櫻美
12/32

その十二

時計の針が刻む音だけが部屋中に響き

それ以外の存在は何もなかった。

言葉のかけ方も分からない私は俯く佳代を

隣で見守る事しか出来ずに自分がいかに無力か

痛いほど思い知った。この空間が苦しくて

トイレに行ったり、わざわざ台所で茶を飲んだり

窓から外の様子を見る真似をしてみたり

うろうろと落ち着きのない私を見て佳代が

「お父さん、別人みたいだった。」

弱った声色でぽつりと。私は落ち着きを取り戻し

再び佳代の隣に座り直した。


「今は疲れているだけだよ。きっと、

すぐいつものお父さんに戻るよ」

「もし、戻らなかったら?」

「信じてやらないの?」  「だって、」


その後は続かなかった。

ちらりと佳代の顔を見ると今にも

溢れそうなぐらい目に涙を浮かべていた。

「大丈夫、きっと」それだけ声をかけ

横に座る佳代の手をぎゅっと握りしめた。

佳代は何も答えなかったが、ただ涙を溢れさした。

深夜三時をとっくに過ぎてからやっと

四人とも家に帰って来た。とりあえず今日は

皆んな家へ泊まって行く事になり、私の父は

腰掛ける前に佳代の前まで行き目線を合わせるように

屈んで頭を優しく撫でた。

「会って来てちゃんと話して来たからね。

もう、心配は要らないよ。」それを横で聞いた私も

佳代と一緒になってほっとした。

親父は煙草を吹かしながら

「こんな時間になってしまって、今日は寝よう」

各々部屋を振り分けられて、聡太は私の部屋

佳代と佳代の母と母は三人一緒の部屋で親父は

リビングのソファーで十分だと言った。

父を少し気の毒に思いながら聡太を連れて

二階の自分の部屋に入った。


「俺下で寝るからベッド使えよ」

「いいよ、俺が下で」

結局聡太にベッドを使って貰い早々に電気を消して

私達二人は布団に潜り込んだ。

聞きたい事は山程あったが聡太の精神を気遣うと

早く眠りについて休ませる方がいいだろうと

目を閉じてじっとしていた。すぐに眠りについたが

一時間ぐらい経った頃、何も障害は無かったが

自然と目が覚めた。上半身だけを起こし

聡太の方を見ると、起きたままだった。

首だけをこちらに向けて「目、覚めたのか?」


「あぁ、」 「やっぱり変わるか?」

「いや、いい。ずっと起きてたのか?」

「うん。」 「寝れないか?」 「ちょっとな」


それもそうかと思った。聡太自身も

精神的に弱っているだろうに、それを放って置いて

さっきまで眠りについていた自分が

無神経のように思えた。


「とりあえず話は出来た。お前の親父さんの

おかげでもあるけどさ。暫く様子を見て

駄目だったら母さんが病院に連れて行くって」

「そっか。まぁ、また何かあったら言えよ。すぐに」

「あぁ、そうさせてもらう。」

少し空気が柔らかくなった所で

横になり直そうとしていると、

「お前、いい奴だな」 「変なの」

「ハハハ、おやすみ」 「おやすみ」


聡太が笑みを溢した事で

漸くお互い深い眠りへと着いた。

流石に次、目が覚めた時はいつもより遅く

お昼を回ってから目が覚めた。ベッドの上で

聡太はまだ起きる様子はなかった。

一足先に目覚めた私はトイレに行く為

一階へと続く階段の途中で両親の会話が聞こえ

反射的に足を止め、その場で立ち尽くした。


「あんまり良いとは言えないな。

向こうの意見を尊重してとりあえず

病院に行くのは一旦様子を見る事にしたが」

「そうね。このまま落ち着くと良いんだけど」

「それは厳しいだろう。あぁなってしまうと」


聞いてはいけない、そんな気がしてならなかった。

帰って来てから親父が佳代にかけた言葉は

安心させる為についた嘘に過ぎなかったと悟った。

丁度会話が途切れたのでトイレに行き

また、自分の部屋へと帰って来た。

聡太はまだ眠ったままだった。寝顔を見ながら

さっきの会話を思い出すと不憫で仕方なかった。

そんな会話を編み出した両親はと言うと

私が一階に降りるとすっかり会話は辞めてしまい

いつも通りの顔をして「おはよう」と

言ったかと思うと、「よく眠れたのか」と

私を気遣う言葉まですらすらと出て来た。

それがどうも不快に感じてすぐに二階へと逃げた。

夕方ぐらいになると三人はまた家へと帰って行き

三人が居なくなった家の中はいつもと変わらず

聡太の家の話は誰も口にしなかった。


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