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  作者: 櫻美
11/32

その十一

二人の関係を確信してから学校の行きも帰りも

一緒に行ったり行かなかったり

帰ったり帰らなかったりを二週間程続けていたが

どうも二人から中々言い出す気配がないので

痺れを切らして私から放課後に聡太だけを

家に呼び出した。二人が一緒に居るところを

偶然見てしまった事を伝えると聡太は

苦笑いして実は一ヶ月前ぐらいから明美と

付き合っていた事を素直に話しした。

何で黙っていたんだと問いただすと

今までの関係を壊したくないとの事だった。


「隠すつもりはなかったけど、本当ごめん」


この一言で私は充分だったので

すんなり二人のことを許して

これっきり何も口出さないと決めた。

それから一ヶ月ぐらい経ち

紅葉が殆ど色を失い鋭く冷たい風が

吹き始めた頃の事。私達四人は殆ど集まらなくなった

学校へも三人で行かないし、帰らないし

放課後集まる事もなくなった。

決して関係が悪くなった訳ではなかったが

二人の空間に入り込む事を私自身が

窮屈に感じるようになってしまい私の方から

徐々に距離をとるようになっていった。

その辺りから私は佳代と二人で過ごす時間が増え

お互いを意識し合うようになっていた。

そして、また一ヶ月ぐらい経ったある日。

久しぶりに三人で高校から帰っている途中

聡太が「バイトを始める」と言い出した。

高校生でアルバイトを始めるなんて普通の事なので

特に気にも留めなかったが、その次に出たのが

「学校辞めようと思っている」と言い出した。

本格的に冬が訪れ冷たい空気に包まれながら

家の近くのあの公園で寒空の下、話の訳を聞いた。

父親の直属の部下が会社のお金を盗んで

姿を消してしまい、暫くの間給料が保証されないと

言い渡されたらしい。それだけでは終わらず

父親が気にかけて可愛がっていたのを周りの

社員達は知っていたので聡太の父親に対して

疑いを持つ者も多いらしく、会社で周囲からは

白い目で見られ根も葉もない噂は広がり

とうとう精神的に弱ってしまったらしい。

今では会社はおろか、部屋から出る事さえも

厳しい状況に陥ってしまったと言う。

沈んだ様子で淡々と聡太は私に打ち明けて

全てを話してくれたが、高校生の私には

ただ黙って聞いていることしか出来なかった。


「今すぐ辞めてどうこうって訳じゃないけど

このままだと佳代の事も考えると俺だけでも

働いてどうにかしなくっちゃならないから。」


実は佳代から父親の話は少し聞いていたが

聡太の話を聞く限り佳代はあまり

多くの事情を知らないようだった。

佳代に多くを語らないのは兄弟としての

思いやりなんだろうと思った。そして、

また二週間程経ったある日、夜中の一時頃に

突然玄関のチャイムが鳴った。

たまたま起きていた私はこんな時間に

誰が何の用かと不思議で仕方なかった。

私は二階の一人部屋に居て、母と父は一階の寝室で

とっくに深い眠りについていた時だった。

私は部屋から出て階段の近くまで行き

耳をすましてじっと気配を消すように潜んだ。

母は気味悪がって父に「大丈夫かしら?」と

それに対して父は落ち着いた声で

「放って置く方が気になるじゃないか」と母を諭す。

その話し声の後すぐに玄関のドアノブがガチャリと

音を立てると母が「びっくりした、どうしたの?」

安堵の様子と親しい誰かとだけ分かったところで

それまでじっとしていた私も一階へ降りた。

夜中に来た訪問者は聡太の父を除く三人だった。

私の父がとりあえず中へと三人を迎え入れ

リビングで集まる事になった。母はすぐ

キッチンへ向かいお茶の支度を始め

テーブルに人数分のコップを並べ終えた所で

漸く父が口を開いた。

「それで、こんな時間にどうした?何があった?」

出来るだけ落ち着いた声で問いかけた。

私は三人の顔をじっと見つめていた。

母は心配した心持ちで三人を見つめた。

聡太の母親が私達に話してくれたがその内容は

私達三人が思っているよりずっと深刻だった。

最近になって引きこもり気味だった父が部屋から

出て来て少しずつ前のように振舞っていたらしく

それで皆んな安心していた所、聡太の母が

パートを終えていつもの時間に帰ると

顔を赤くした父親がリビングのテーブルで

うつ伏せになって寝ていたらしい。

三人は酒を呑めるほど元気になったんだろうと

寧ろその光景を喜んだと言う。だが、それはすぐに

三人を苦しめる事になってしまった。

弱い自分を受け入れられなくなった聡太の父は

酒に溺れ常にアルコールに支配され

人格までも変えられてしまった。

暴言を吐くようになり、遂に手を出してしまい

怖くなった三人は助けを求めて訪れたと。


「今は?寝ているの?」母が訪ね三人は

黙ったまま頷いただけだった。

それから話し合いの末、一人にして放って置く方が

心配だと言う事に纏まったので私の父が

今から会いに行ってくると。それに聡太と

聡太の母。佳代は私の家に残る事になった。

母は不安そうに出て行く背中を扉が閉まるまで

見送っていた。残された三人は重苦しい空気の中

じっと座って待っていた。三人が向かってから

一時間を超え始めた所で母が我慢出来ずに

様子を見に行くと母まで出て行ってしまった。

二人っきりにされて、更に空気は重く感じた。




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