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  作者: 櫻美
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その一

ソファーに腰掛け、ゆったりとした心持ちで

小説を読んでいたある日の朝。カーテンの隙間から

差し込んだ陽の光が部屋の中を一筋に照らす。

その筋を目で追っていった硝子の向こう側で

働く者がいる。私に背中を向けて太陽の光を浴びながら

洗濯物を丁寧に干している。本の存在をすっかり忘れて

彼女の姿を眺めていると、洗濯物を干し終え

ベランダから部屋に戻った彼女が手で仰ぐ真似をしながら


「こんなに暑いと外に出るのが嫌になるわね」


「お茶でも淹れようか?」


「ありがとう」


キッチンへ私が向かうのと入れ替わりで

彼女はソファーに座り、まだ仰ぐ真似を続けていた。

私がテーブルの上にグラスを置くと彼女は

「ありがとう」と言ったかと思うとすぐに

グラスに口をつけて、勢いよく全部飲み干した。

その様子を見ていた私をみて少し恥ずかしそうに


「喉がカラカラだったの、ひでちゃんも

外に出たらきっとカラカラになっちゃうもん」


口を尖らせ、拗ねた表情を見せる。

何か不満事があると彼女はすぐにこの顔をして見せる。

子供の頃からずっと変わらないのである。

私と彼女は幼馴染で、幼稚園から高校生まで

ずっと一緒だった。彼女は子供の頃から私の事を

ひでちゃんと呼ぶ。男の自分にちゃん付けで呼ぶ事を

あんまり良い心持ちはしなかったが、今となっては

秀之と呼ばれる方が違和感を覚える。


「そう言えば、ひでちゃん今日は午後もお休みなの?」


私は、保険の営業として働いている。

休みは基本的に土日と祝日と決まっているが

あんまり決まって休める事が少なかった。

自分の顧客へ挨拶だとか、付き合いで食事とか

彼女へは表向きあくまで付き合いだと言っていたが

本当はただ、呑み歩いたり、外に居る方が好きだった。

同僚と酒を呑むのも非常に愉快だが、一人っきりで

静かに呑む酒の方が楽で好きだった。

何かと理由をつけて外へ出掛けてしまうので

彼女からすると、私が一日中、家に居ることが

珍しく思えたらしい。何となく今日は外に出る気がなく

家でのんびりしたい気分だったので簡単に「うん」とだけ

答えてみた。すると、彼女は私の返事を聞いて


「そうなの?早く言ってよ。久しぶりに

外でご飯でも食べようよ」


別に腹は減るし、彼女が悪い提案をしているとは

まったく思わないが面倒だと思った。

また続けて、彼女の方から


「ねえ?嫌なの?」


こうなったら女はとことん面倒になるので


「いや、そうしようか。」


「そう?よかった。早速準備しよっと」


時計に目をやると午後三時を少し過ぎた頃だった。

彼女は鏡の前に座り、長い髪の毛を後ろで纏めて

化粧をし始めた。その様子を後ろから見ていたら

鏡越しに彼女と目が合い「なに?」と振り返って

聞かれ「いいや、なんでも」と言うとすぐに鏡に向き直り

鼻歌を歌いながらご機嫌な様子を見せた。

彼女と外食なんか、いつぶりだろうか。

付き合って今年で六年になるが、付き合う前の方が

外で食事をしたり、遊びに出掛けたりする事も多かった。

だからと言って別に彼女を嫌っている訳じゃなかった。

ただ、一人で居たいと思う時間が以前よりも

増えただけなんだろう。









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