表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

わたしの「碧姫(あおひめ)」➁


    ◇     ◇


「ねえ、見て。碧姫ったら、すごいのよ!」

 メグが自慢げに指さす空をマルタが見上げると、碧姫が空を飛んで、川向うから荷物を運んで来るところだった。

 この村と隣村との境界には川が流れており、去年の洪水で流された橋の補修が出来上がるまでは、物資の運搬は船による「渡し」か、大きく回り道をして上流の橋を渡らなければならない。

 川が増水すれば渡し舟を出すのは危険だし、わずかな荷物のために大きく迂回するのも大変だ。


 メグに木の実を取ってあげようとして、ひらひらと舞い上がった碧姫を見た村人が、「急ぎの荷物を対岸に運びたいんだが、頼めないか?」と言い出したのがきっかけだった。

 それ以来、多い時は日に3度くらい荷運びの依頼がある。


「今は雨が多い時期だから、増水する日も多い。稼ぎ時だな。」

 祖父に言われてメグも碧姫も誇らしそうだ。

 増水続きのここ数日間で、碧姫はそれなりの運送代金を稼ぎ、家族はそれを褒めた。一人を除いては。


 メグの母親は、初めて碧姫を家に連れて来て依頼、まともに顔を合わせてもいない。気が付くと、物陰から碧姫を覗いていることはあるのだが。

 今日も物陰から、メグと碧姫を覗き見ていた。

「ちくしょう。あれじゃあ、まるっきりアンナの生まれ変わりじゃないか。そのうち「あの事をばらすぞ!」 なんて言うんじゃないだろうねえ。」

 そんなことを呟きながら。


    ◇


「しかし、惜しいなあ。あれほどの器量良し。人の娘なら何処か良いとこの旦那に見初められただろうになあ。」

「いやぁ、分からんぜ。あれほどの器量なら、人の娘でなくてもいいってヤツだっているんじゃねえか?」

 最近は、河岸かしで手伝いをするようになった碧姫を見て、村の男達が下世話な話をしていた。

 それを盗み聞きしていた嫁に、とある考えが閃いた。

(そうだよ。どこかの男が見初めて、遠くへ連れて行ってくれれば、スッキリするよ。‥‥いや、人の子じゃないんだから、少々手荒でも、いいかも知れないね‥‥。)


 翌日、嫁は「用事で街へ行かなければならない。」と、1日家を留守にした。

 それから3日後の事だった。目つきの悪い二人の男が村を訪れた。その男達を村の皆が敬遠する中、嫁が、村の水くみ場でそのうちの一人と顔を合わせた。

 二人は背中合わせに立つと、周りの者に気付かれないようにボソッと、

「明日、あたしが森の入口に誘い出すからさ。やっておくれよ。」

「ああ、よろしく頼むぜ。」

 周りに気付かれないように言葉を交わすと、二人は離れた。


    ◇


「ねえメグ。ちょっと聞きたいんだけど。」

「なあに、お母ちゃん?」

 翌日、メグと二人きりになった時を見計らって、嫁はメグに聞いてみた。事を起こす前に、どうしても確認しておきたいことがあったのだ。

「メグはお姉ちゃんのこと、覚えているの?」

「うーん。‥‥おぼえてない。」

「碧姫が、すごくお姉ちゃんに似てるから、メグはお姉ちゃんの事を覚えているのかなあ、って思ったのよ。」

「そうなの? ‥うーんと‥‥。」

 メグは首を傾げて少し考え込んで、

「あ、‥‥お母ちゃんが、‥刺した‥ひと?」

「な! なに言ってるんだい!?」

 思いもよらない言葉に驚く嫁に、メグは首をひねりながら続けた。

「あれー? お母ちゃんが、碧姫を刺した? 変だなー? 夢なのかなぁ?」

「ゆ、夢よ! そんなの夢よ! だって碧姫はこの前来たばっかりでしょう!」

「そーだよねぇ‥‥」

 慌てて取り繕ったが、嫁は動機が止まらなかった。

 (メグは見ていたんだ! そして覚えていた。私が二人を殺したところを。ジジィババァに、こんな話をされたら大変だわ!)


    ◇


 3年前のあの日、嫁は熱を出したメグを街の薬師に診てもらいに行った。いつもは待たされて一日仕事になってしまうところだが、思いがけずに空いていて、その日は早く帰ってこられた。

 家に帰ってくると、寝室から妙な気配がしたので覗いてみると、

 夫と娘が情事に及んでいた。


 気が付いた時には、手に持った包丁で夫を背中から刺していた。驚いて逃げようとしたアンナも刺した。

 二人とも一突きで絶命した。


 慌てて振り返ってメグを見ると、まだ熱があるようで、虚ろな様子で半分寝ているような状態だった。きちんと意識があったなら、二人が刺された時に泣き出しているはずだ。

 返り血を浴びた服を隠し、夫と娘に服を着せて、家探しされたように家の中を荒らしたりしてから、メグを抱えて助けを呼んだ。

「誰か!誰か助けて! 夫と娘が殺されている!!」


 役人には疑われた。しかし、腕っぷしが強いことで有名だった夫が殺されていることなどから、押し込みの犯行だろうということで処理されたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ