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「くろ丸」①

短編2話目です。

  第 二 話  「くろ丸」



「母ちゃん、ただいま!」

「お帰りなさい、アル。 どうしたの? 大丈夫なの?」

 守魔あわせを終えた一行が村に帰って来た。

 足に傷を負ったアルは、歩けない様な傷では無かったが、アッシュはアルを抱きかかえて帰って来たのだ。


「アルを守ってくれたのね。ありがとう。」

 母ちゃんからお礼を言われたアッシュは、アルを優しく降ろすと、母ちゃんに挨拶するようにひざまずいた。

「あら、とっても礼儀正しいのね。」

「うん。それでとっても強くて、とっても優しいんだよ。」

「まあ‥‥。」

 アルの声を聞いて母ちゃんは安心したみたいで、目に涙をためて微笑んでいた。


 今回の守魔合わせには6人の子供達が臨んだが、守魔を出せたのは3人だけだった。檻に入れられて守魔を出せたのはアルだけで、後の2人は小屋に入っていた子供達だった。

 一般的に檻に入れられた子供は、自分を守って欲しい願望によって戦闘系の強い守魔が出現しやすく、小屋の中では子供の思いが具現化するため、特殊な守魔が出現しやすいと言われている。

 そんな前例の通りに2人の子供には、それぞれ変わった守魔が出現したようだ。


 アルの家の近所に住んでいるメグという女の子には、美しい妖精の様な守魔が出現した。そしてもう1人、アルの友達のホルスは、小さな守魔を抱いて帰って来た。

 


      ◇    ◇


「ただいまーっ!」

「お帰りホルス。守魔が出せたんだってね。見せてみな。」

 家の前で、ばあちゃんの出迎えを受けると、元気いっぱいのホルスとは裏腹に、ホルスの父親はそそくさと何処かへ行ってしまった。


「何だい、そのちんちくりんは?」

 ばあちゃんが、呆れた様な声を上げた。

 ホルスは、丸々とした子猫の様な小さなケモノの子を抱きかかえてご機嫌だ。

「かわいいでしょ!「くろ丸」って言うんだよ!」


 くろ丸は、ホルスの心の中にいた時の、そのままの姿で守魔として現れたそうだ。ホルスはそれが嬉しかったが、ばあちゃんは不満のようだ。

「お前の友達のアルっていう子は、すごい守魔を出したみたいじゃないか。それに比べてお前の守魔は‥‥何だい?」

 ばあちゃんが、あきれた様にため息をついた時、


「おかえりホルス。可愛い守魔が出せて良かったわね。」

「かあちゃん!」

 お腹を大きくしたホルスの母親が、よろけながら出て来た。顔色も良くない。


「おい、お前は寝てなきゃダメだろう。」

 ばあちゃんが慌てて駆け寄った。ホルスの母親は妊娠安定期に入ったはずなのに具合が悪い日が続いている。特にここ4~5日は具合が悪くて寝込んでいた。

 そんな母ちゃんから「ホルスの好きなように「守魔あわせ」をさせてあげて。」と言われたため、うるさ型のばあちゃんも口を出さなかったのだ。



「なんでばあちゃんは、機嫌が悪いんだろうね。」

 帰って来て一息ついたホルスは、裏庭で膝に乗せたくろ丸に話しかけていた。

 くろ丸は、つぶらな瞳でホルスの顔を見上げて首を傾げている。

「だいじょうぶだよ。くろ丸には、くろ丸にしか出来ないことが、あるかもしれないもんねー。」

 ネコのような大きな耳をホルスに撫でられながら、くろ丸は、何かを考えているような表情をしていた。



 翌日、ホルスと昼寝をしている時、何かを感じたくろ丸は、むっくらと起き上がった。大きな耳を立てたくろ丸は、小さく頷いてから母ちゃんが寝ている離れの方に向かって歩き出した。

 くろ丸は、離れに着くと中を覗こうとして窓枠によじ登り、前足を掛けて、ひょいと顔を出した。すると、いきなり母ちゃんと目が合ってしまった。

「あら! くろ丸ちゃん‥‥だったかしら?」

 くろ丸が、あたふたしていると、母ちゃんは手を伸ばして「おいで」と言ってくれた。


 おずおずと近づいていくと、母ちゃんはくろ丸を抱き上げて大きくなったお腹の脇に座らせた。

 くろ丸には、ネコのような大きな耳が付いている。その耳を撫でられて、くすぐったそうに首をすくめるくろ丸を見ながら、母ちゃんは話し始めた。


 ホルスに弟か妹を会せてあげようとしたが、なかなか妊娠出来なかったこと。せっかく子供を授かったが、このところ具合が悪く、無事に産める自信も無くなってきたこと。

「ごめんね。こんなお話して。‥‥でもね、あなたにもしも、何か不思議な力があるとしたら、この子に力を貸して欲しいの。お願いね。」

 くろ丸は、母ちゃんの顔をじっと見つめたあとで、母ちゃんのお腹に耳を当てた。

「どう? 鼓動が聞こえるでしょう。 この子を守って欲しいの。」

 お腹に耳を当てて目を閉じるくろ丸の頭を、母ちゃんが優しく撫でていると、


「こら! お前、どこから入って来たんだい!?」

 庭から、ばあちゃんの声が聞こえた。

 くろ丸が、隠れる場所を探すようにキョロキョロしていると、

「お母さん、この子を怒らないで。私が呼んだのよ。」


 母ちゃんの側にやって来たばあちゃんは、くろ丸を見下ろすと首の後ろをつまんで持ち上げた。

 くろ丸は、手足をだらんとさせたまま、母ちゃんの方を向いていた。

「ケモノなんか、近づけちゃいけないよ。体に障りがあるかも知れないだろう。」


「ほれ、行け。」

 ばあちゃんに、ひょいと庭に出されたくろ丸は、一度母ちゃんを振り返ってから、

 ててて、と裏庭の方に駆けて行った。


「ばあちゃんに、怒られちゃったね。」

 くろ丸が、母ちゃんの所から戻ると、ばあちゃんがやって来て、

「母ちゃんのとこには、「これ」を連れて行くんじゃないよ。いくら可愛くたって、これはケモノだからね。母ちゃんの体に障りがあるかも知れないんだよ! いいかい、分かったね!」

 そう言われたのだ。


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