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ぼくの可愛いアッシュ➁

     ◇


 アル達一行が森の中をしばらく歩くと、少し開けた広場の様な所に出た。

 そこには少し異様な光景が広がっていた。


 広場の中心に大木がある。その枝の上に見張り小屋の様な物が造ってある。

 そしてその周りには、檻が4つ、小屋が3つ、大木を囲むように設置してある。


 アルは、村で年上の兄ちゃんたちに話を聞いたことがある。

「守魔合わせは「度胸試し」みたいなもんだ」って。

 ただ2年前「物凄い守魔」が現れてからは、守魔合わせに対する大人たちの目が変わってしまった。アルの母ちゃんは言っていた。「だから心配なのよ」と。



「お前は、ここに入るんだ。」

 女の子が小屋の中入れられていた。今回は6人の子供の中に女の子が2人いる。近所のメグという女の子が小屋に入れられている。もう一人の女の子は檻に入れられていた。

 小屋と言っても、太い丸太を組んで造ったものでとても頑丈だ。オオカミやクマが来てもビクともしなそうだ。そして檻の方も、鉄と丸太で造られているので頑丈そうだ。


 しかし、檻は小屋と違って壁で覆われていないため、オオカミやクマからも中が丸見えになる。子供が1人で一晩中、腹をすかせたオオカミやクマから睨まれることになるのだ。

 そして檻や小屋をよく見てみると、たくさんのキズが付いている。爪で引っ掻いたキズや噛みついた牙の痕の様だ。これも守魔合わせの中で起こる事だ。

 小屋の中は安全だが孤独感が増す。檻も何とか安全なのだが、恐怖感は小屋の比ではないだろう。


 小屋は、周りが見えずに孤独感が増すが、外が見えないので集中することが出来る。結果「友達」創造のクオリティが上がるのだ。

 それに対して檻は、恐怖心が増すことで、助けを求める子供達が単純に強い「友達」を求めるようになり、結果的に強い守魔を創造することに繋がる。

 当然のようにバズは、アルを檻の方に連れて行った。


「檻は、いやだよう‥‥」

 アルが泣きそうな顔で懇願するが、

「ああ? 何言ってるんだ。他の檻の中より安全にしてやるから文句いうな!」

 言うなり、バズはアルを荒縄で縛り始めた。


「おい、バズ! 何をやってるんだ? 手荒な事をすると後で村長に報告するからな!」

 バズはアルを縛りながら、

「こいつを檻に入れるけど、天井からぶら下げとくんだ。もしも蛇か何かが檻の隙間から入って来ても安全だろう。」

「安全のためなら、‥‥しょうがねえけど。」

 周りの大人達を納得させると、バズは檻の天井に縄を回している。

「僕、そんなのイヤだよう‥‥」

 懇願するアルにお構いなしに、バズは手際よく天井に縄を回し、アルを吊るそうとしている。



 辺りがだんだん暗くなってくると、

「おい。そろそろ始めるぞ!」

 大人たちは小屋や檻に子供を入れると「香」のようなものを焚き始めた。少し甘い香りだが、クセのある香りだ。

 これを広場の中心に置くと、大人たちは大木の上の見張り小屋に引き上げ始めた。


「じゃあ、がんばれよ。アル。」

 嫌がるアルを檻の天井から吊るしたバズは、檻の戸を閉めて鍵を掛けているようだ。

(へっへっへ、せいぜい怖がれよ、アル。)

 バズは、怪しい笑みを浮かべながら檻を後にした。


 バズが縄梯子を上って見張り小屋に入ると、縄梯子が引き上げられた。見張り小屋は木の上にあるが、ケモノの中には木登りが得意なものもいる。そのため、いわゆる「忍び返し」「蛇返し」などと言われる輪型の金物が大木の幹に付いていて、木を登って来てもそれ以上は登れないようになっているのだ。



 しばらくすると、見張りの一人が、何かの気配に気づいて、

「寄って来たな。」

 静かに声を上げた。香の香りにつられて精霊たちが集まって来たようだ。


 精霊や妖精というもの達は、普通は人に見えない。しかし、何かが「いる」気配はするのだ。なお、子供のうちは見えることがあるとか、「逢魔が刻には精霊が見える」等と言われている。



 辺りが暗くなると子供たちは、孤独と恐怖の中で、それぞれの「友達」の事を考えていた。

 檻の天井から吊られていたアルも、ようやくその高さに慣れてきたようだ。

「うう‥、アッシュ。出てきておくれ‥‥アッシュ。」

 アルがつぶやくと同時に、心の中に灰色の小さな子犬の様な姿のアッシュが現れた。

「アッシュ!」

 アルが呼びかけると、

 クーン、クーン、

 と、千切れんばかりに尻尾を振っている。

「アッシュ」という名前は母ちゃんが付けてくれた。「灰色の毛」に因んでの名前だが、アルは最初は「もっとかわいい名前がいい。」と言っていた。しかしアッシュ自身がこの名前を気に入ったようなので、それ以来ずっとアッシュと呼んでいる。


「はぁ‥‥。いつもアッシュは、かわいいねぇ。」

 アルが安堵の声を漏らした時だった。


 ウォーンン‥

 オオカミの遠吠えが聞こえた。それもすぐ近くで。

 子供達と見張り小屋に緊張が走る。


「どうしよう‥‥アッシュ。オオカミが来ちゃうよ。」

 アルの心の中でアッシュは、前足で頭を抱えて震えている。

「怖いよね、アッシュ。僕も怖いよ。」


 しばらくすると、

 グルルル‥‥

「オオカミが来たーっ!」

 隣の檻の女の子が悲鳴のような声を上げた。

 見ると、隣の檻の前に大きなオオカミが来ている。

(うわぁ‥、でっかくて、怖いなぁ‥‥。)

 アルは初めて見る本物のオオカミの大きさと恐ろしさに震えていた。


 ガシャン!

 大きな音にアルが驚いた。オオカミが隣の檻にいきなり体当たりしたのだ。

「うわーん!」

 隣の檻の女の子が悲鳴を上げて泣き出だした。

 しかし、檻は頑強に出来ているらしく、びくともしなかった。

「だいじょうぶ! この檻は頑丈みたいだよ!」

 アルは、けなげに隣の子を励ましていた。


 すると、サラッ、と何かがアルの頬をかすめた感触がした。

「うわっ! なに?」

 姿は見えないが何かが、アルの頬をかすめて行ったのだ。

 大人よりも敏感な子供達には、精霊達、不安定な者達をより強く感じることが出来るようだ。

 しかし、アルは不思議とこれには恐怖を感じなかった。敵意がない者が近づいて来たことが本能的に分かったのだ。

(これが、母ちゃんの言っていた「木霊さん」なのかなあ?)

 同じような気配が、他にいくつも感じられる。


(早く僕の「友達アッシュ」と合わさってくれないかなぁ。ここは怖いよ‥‥。ねぇ、アッシュ。)

 心の中で、アッシュも震えていた。


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