表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

影男(かげおとこ)③

   ◇


「なんだ、その顔は? 兄ちゃんに話したのか?」

「うん。」

 鼻血を垂らすサムルの鼻を拭きながら尋ねた父に、サムルはわりとすっきりした顔で答えた。

「じゃあ、行くか。」

「うん。」

「守魔を森に返す」ということは、これまでにも事例があった。守魔が主の手に負えない場合もあるからだ。守魔を育てていく主が、幼い子供であるが故のことだ。


 守魔を森に返すのは満月と決まっていた。精霊の力が強くなるからだそうだ。しかし、同行してくれる村の世話役に「覚悟を決めておけよ」と言われて、サムルは少し怖くなった。



 先日「守魔合わせ」を行った森の奥にある広場に着いたのは、夕暮れ近くだった。檻と小屋がある広場で、精霊を呼び寄せる香を焚いてから、サムルたちは檻の中に入った。オオカミが来るかも知れない森の奥で、これから一晩過ごさなければならないからだ。


 しばらくすると、香の匂いにつられて精霊たちが集まってきたようだ。

 しかし、守魔合わせの時よりも精霊の姿が良く見える気がする。絵本の幽霊ゴーストのように、半分透けた体が飛び回っているのが見えるのだ。


「満月の夜は、精霊の力が強くなるのさ。さあ、サムル、教えた通りにやってみな。」

 世話役の男性に促されたサムルが、

「もりのせいれいに、もうしあげる。わが、しゅまのたましいを、もりにおかえしします。」

「もりのせいれいに、もうしあげる。わが、しゅまのたましいを、もりにおかえしします。」


 サムルが,2回祝詞のりとを唱えると、集まって来た精霊の動きが活発になって来た。

 同時に、月明かりに照らされたサムルの影が、にゅうっと伸びた。そして伸びた影から、もこもこと黒い人型が出て来た。人型はサムルと同じくらいの背丈まで大きくなった。サムルの守魔・影男だ。

影男は一歩踏み出してサムルの影から分かれると、ひょこひょこと歩き出した。

 檻の外に向かう影男は、檻の格子に体が当たったが、それをズズッとすり抜けて、精霊が飛び回る外へ出て行った。


 影男が、ひょこひょこと歩いて行くと、いきなり精霊が急降下してきた。そして影男の腕を突き抜けた。影男は精霊が自分の体を突き抜けても、特に反応しなかったが、次の瞬間、サムルが驚きの声をあげた。

「影男の腕が無いよーっ!! 精霊に食べられちゃったの?!」

 サムルの悲鳴によって気付いたのか、影男は慌てているように見える。黒い影だけの人型であるため、表情は分からないが、バタバタと慌てているように見える。


 大股で逃げるように歩く影男に、辺りを飛び回る精霊が次から次へと急降下してくる。精霊が影男の体を突き抜けるたびに、そこに穴が開く。

 見ると、影男は膝の辺りを「食われて」膝から先が無くなり、転倒したところだった。


「影男―っ!」

 叫ぶと同時に、立ち上がったサムルが駆け出した。檻の内カギを開けて外へと駆け出したのだ。

「おい!サムル、待てーっ!」

 追いかけようとする父を、世話役が止めた。

「待て、お前まで行くな! 少し様子を見よう。」

「で、でも、もしオオカミが来たら‥‥」

「少しの間だけだ。待て。」

 父も気が気ではなかったが、

「しかし、あの臆病者のサムルが、この状況で飛び出して行くなんて‥‥」

 サムルの行動力に驚いていた。



「影男―っ!」

 サムルは、転倒している影男に駆け寄ると、その体に覆い被さる様にして叫んだ。

「影男を食べないで! お願いだよーっ!」


 影男は、自分を庇ってくれるサムルを見上げていた(影なので顔は分からないが、サムルにはそのように見える)。

「お願い! 影男を食べないで! 友達なんだ! 僕に1人しかいない友達なんだーっ!!」

 サムルが再び叫ぶと、影男はサムルにしがみ付いて来た。

「影男―っ!」

 サムルも影男を抱きしめたが、異変に気付いた。

「あれ、影男、小さくなっちゃった?」

 影男は、自分と同じくらいの背丈だったはずだ。それが、明らかに小さくなっている。赤ん坊くらいの大きさになってしまっているのだ。

 そんな影男が自分にしがみ付いて来ると、サムルもさらに必死になった。

「影男っ、僕が守るからね!」

 しかし、異変はさらに続いた。


 影男が、サムルの体に中にめり込んで来ているような気がする。いや、気のせいではない。どんどんサムルの体の中に入ってくるのだ。

「ど、どうなっているの?」


 驚くサムルに世話役の男が声を掛けた。

「サムル、それでいいんだ。お前から生まれた守魔が、お前の中に帰っていくんだ。森の精霊に魂を返して、小さくなっただろう。今度はお前の中に帰るんだ。」

                       

「そうなの?‥‥おかえり、影男。」

 優しく抱きしめると、影男はサムルに吸い込まれるようにスーッと消えてしまった。

「影男‥‥」

 サムルが名残惜しそうに、自分の腕を抱きしめながら、名前を呼んだ時だった。


 宙を漂っていた精霊が、サムルの背中からスーッとサムルの体を突き抜けた。

「うわぁ‥」

 実体のない精霊が、人の体を突き抜けても実害はないが、サムルは驚いて声をあげた。

 さらに驚きは続く、

 精霊はサムルの体を突き抜けざまに、眩い光の玉となって、サムルの目の前で宙に浮いているのだ。


「お、おい、サムル! 守魔だぞ。影男の代わりの‥‥いや、生まれ変わりの守魔だぞ!」

 世話役に言われて、サムルは掌をかざしてそれを優しく受け止めた。


 すると、

 ピヨピヨ‥

 光の中から鳴き声が聞こえてきて、掌には暖かくてほわほわした感触が伝わってきた。


「お前‥‥ひょっとして、「ピヨ」なの?」

 ピヨピヨ!   

 サムルの問いかけに答えるように鳴き声が帰って来た。


 そして光の中から、灰色のほわほわの羽毛に包まれた、子供の頭程の大きさのヒヨコのような生き物が現れた。

「ピヨだーっ!」

 喜びの声をあげるサムルに父が、

「おい、サムル、お前そいつを知っているのか?」

「うん、去年出せなかった僕の友達だよ。ピヨって言うんだ!」


「サムル。もう檻の中に入って来い。いつまでも外にいると危ないぞ。」

 世話役に呼ばれて、サムルは、檻の中に入って来た。


「かわいい守魔だな。サムル。」

 ピヨを優しく撫でるサムルを抱き寄せながら父が言った。

「うん。」

「サムル、その子は影男の生まれ変わりだ。お前が影男に優しくできたから、優しい、可愛い守魔に生まれ変わったんだ。大事にしろよ。」

「うん!」


 サムルは元気よく返事をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ