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【完結】モノクロの僕と、色づく夏休み  作者: カムナ リオ
第一章
9/20

第9話「下山」

(……っ!)


 オレは震える膝に何とか力を込めて、再び少年に駆け寄った。


 もし本当に死んでいたらと思うと、怖かった。


 でもオレは、渾身の勇気を振り絞って、少年の体を揺り動かした。


「……う……」


 薄っすらだが反応はあった。オレは心底ホッとした。安堵で涙が滲んで来た。


 でも触れた体は、思いのほか冷たかった。


「大丈夫か? おい!」

「……う……」


 オレは返事を待たずに、デカリュックごと少年を背負って歩き出した。


 背負ってみると、見た目よりずっと軽い気がした。


 少年が余計小さく感じた。


 始め少年は「下ろせ」「放せ」と弱々しくも抵抗していたが、次第に大人しくなっていった。


 何としても、無事下山しなくちゃ!


***

 

 夜の(とばり)が下りて、山は完全な闇に包まれていた。


 足場の悪い山道をサンダルで歩き回り、体が疲労で悲鳴をあげていた。


 もう二度と、(ふもと)に帰れないかもしれないという不安と合わさって、心が押しつぶされそうだった。


 暗闇の中にずっといると、人はおかしくなるって聞いたことがあるけど、それを今まさに体現していると感じた。


 ただオレが諦めずにまだ足を進められたのは、重荷ともいえる少年の存在だった。


 彼の微かな温もりが、オレの足を踏み出させる。


 不思議だ。まるであの少年の強い意志と、自分の心が繋がった気がした。


 心の闇に、小さく光が灯るようだった。


 今のオレを、昨日までのオレが見たらどう思うだろうか?


 こんなに何かに必死になる自分が、自分の中にいたなんて……


 ――知らなかった。


***


 今、何時くらいだろう……?


 ふと時計を見そうになったが、時間が分ると現実感が襲って来て、張っていた気がくじけそうだったので見るのを止めた。


 ずり落ちそうになった少年を、再び背負い直した時、ある異変に気がついた。


 ……水の音がする。


 オレは早足で、水の音がする方へ向かった。


***


 渓流だ。


 ここは山の中に入る時、通った場所じゃないか?


 あながち、オレの方向感覚も捨てたもんじゃない。


 ……大丈夫、きっと無事に麓に辿り着ける……


 オレは自分にそう言い聞かせた。


 そうすると不思議と視界が明るくなった。

 だがそれはオレの精神的なものじゃなくて、木々の枝に遮られず、直接月光がオレたちを照らしていたからだった。



 ……月……


 今日は満月だったんだ。


 渓流で水を汲むために、少年とリュックを下ろした。


 子供一人分の重量が減り、体がすごく軽く感じた。


 自分の体って、こんなに軽かったのかと、思わず跳ね回ってしまった。


 しばらく硬くなった体を動かしていたが、喉が渇いていたのを思い出し、渓流の水を漉くって飲んだ。


 今まで飲んだどんな水よりも、おいしいと思った。


 夏場だっていうのに、渓流の水は凍るほど冷たくて気持ちがいい。


 このまま裸になって飛び込んでしまいたいくらいだったが、これ以上体力を消耗したくなかったのでやめておいた。


 よくゲームで、命の水を飲んでHPが回復する……何てくだりがあるけど、まさにそんな感じだと想像して、噴出してしまった。


 笑って余裕が出来たせいか、お腹が鳴った。


 そういえば昼食に弁当を食べて以来、何も食べていない。


 自分のリュックを漁ったが、空の弁当があるだけだった。


 こんなことなら、何かお菓子でも持って来ればよかったと後悔したが、そんなオレの目に、少年のデカリュックが映った。


 ……緊急事態だし……いいよな?


 オレは少年の横をそっと通り過ぎて、デカリュックの蓋を、勝手に開けさせてもらった。



「……っ!」


 オレはその中身に、唖然とした。



つづく

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