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【完結】モノクロの僕と、色づく夏休み  作者: カムナ リオ
第一章
8/20

第8話「不思議な光」

 何者だったんたんだろう?


 オレの前にふっと現れて、風のように去って行った。



 本当に人間だったのかな?


 そんなおかしな考えすら、浮かんでくる。


 そう言えばここら辺の山の上には、神様が棲んでいて、時折、人間に啓示を与えたり、幸運や不幸をもたらすために地上に降りてくるって、じいちゃんに聞いたことがあったような、なかったような……。


 少年との出会いは、そんなことをオレに思い出させた。


 ボーとしていたせいか、道に迷ったことに気が付いたのは、しばらくあとだった。



 この分だと遭難してニュースに取り上げられるのは、オレの方かもしれない。

 ふっとさっき少年が零した言葉が、オレの頭を過った。


『もしここで死ぬようなら……自分がそれだけの人間だってことだよ』


 運がなかったって、ことだろうか?


 この世界に、必要なかった人間ってことだろうか?


 ……そうかもしれない。


 オレみたいな人間がいなくなったところで、世の中は一ミリも変わらないで回るのだろう。


 あの少年の言葉は、オレに対する警告だったのかもしれない。


 そう考えると、歩くのもうっとうしかった。


 どっちにしろこんなところで道に迷って、下山出来る自信もない。


 祖父母の家では今ごろ大騒ぎかもしれないが、そんなこともうどうでもよかった。


 その時オレの目の前で、何か光った気がした。


 オレは思わず目を擦った。


 一瞬人魂かと思って後ず去ったが、それはそんな非現実的なものではなく――



 蛍だった。



 蛍なんて、生まれて初めて見た。


 その輝きは優しくて柔らかで、そして切なかった。


 蛍って、水辺にいるものじゃないのか? と不思議に思ったが、蛍に引き寄せられるように、オレはまた歩き出した。


***


 ふわふわと飛んでいた蛍が、いつのまにか消えてしまい、オレは心細くなったが、同時に心臓が飛び出そうなほど驚いた。


 木の幹に寄り掛かり、ぐったりとしているあいつがそこにいたのだ。オレは慌てて、少年の側に駆け寄った。


「おい! 大丈夫か⁉︎」

「……はあ、……はあ、……」


 疲れてただ休んでいるわけじゃない、明らかに具合が悪そうだ。


「……その、リュックの、……左の脇ポケットから……薬と、水を……」

「え⁉︎ ああっ、ちょっと待ってろ!!」


 慌てていて薬を渡すのに少し時間が掛かってしまったが、少年は手馴れた手つきで薬を飲み干した。


 しばらくすると、少年の息遣いが落ち着いて行った。


 オレはたまらず口を開いた。


「……お前、どこか悪いのか?」

「……」


 少年は俯いたまま、何も答えない。

 図星か……。


「オレが背負ってってやるから、山を降りよう」


 本当は降りられるあてなんてなかったけど、今、目の前にいる少年に、更なる不安を与えることは、絶対にしてはいけない気がした。


 そう思って、オレが少年に手を差し伸べようとしたら、もの凄い勢いで手を叩き落とされた。


「痛っ! 何すんだよ!」

「余計なことすんなよ! 消えろ!」


 どんな育ち方したら、こんな表情が出来るのだろうかと、オレは血の気が引いた。


 その少年の顔は、まるで鬼のような形相だった。


 手に残った痛みと、親切心を踏みつけられた痛みと情けなさでオレは一瞬、放心状態になってしまったが、立ち上がった少年がよろよろと歩き出し、また倒れこんだ姿が目に入ると、我に返った。



 ……動かない。


 少年はもう、ぴくりとも動かなかった。



 もしかして……死んじゃったのか?


 そう思うと、怖くて少年に近づけなかった。


 怖い……


 不気味に響く虫の声や、ねっとりした暗闇が、余計オレの恐怖心を煽った。



 オレの、せいなんだろうか?


 どうして、こんなことに……


 どうしてこんなことに、なってるんだろう?




 本当なら今ごろ、祖父母の家に着いていて、のんびりと退屈な時間を過ごしていたはずなのに……


 あの時……バスを降りなければよかった。

 余計なことに、首を突っ込むとこうなるんだ。


 何にも関わらず、何もしなければ、こんな気持ちになることもなかったのに……


 そんなこと、分っていたはずなのに。


 怖い……どうしよう……どうしよう?



つづく

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