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【完結】モノクロの僕と、色づく夏休み  作者: カムナ リオ
第一章
7/20

第7話「少年の目的」

 オレも大分疲れてきてはいたが、前方を歩く少年のペースも、かなり落ちてきていた。


 だから、言わんこっちゃない。


 お前みたいなチビが、登りきれる山じゃないっていうの!


 オレの心には、そら見たことかという心境と、少年に対する呆れが入り混じっていた。


 そしてとうとう少年は、その場にへたり込んでしまった。


 オレは少年の元にゆっくり歩みよると、意地悪く尋ねた。


「どうしたよ? こんなところでへばって? いい加減、やめた方がいいんじゃない?」


 すると少年は、キッとオレを睨みつけた。

 射抜くような鋭い視線だった。


 ちょっとたじろいてしまったけど、ここでビビったら年上の威厳が!



 少年はゆっくり呟いた。


「……お前、ムカつくな」


 なっ!


「こんなの想定内だよ。人の心配する前に、自分の心配したら?」


 まだ、強がるか!

 本当に可愛くないガキ!


 オレは煮え繰りえかえりそうになる感情を押さえて、努めて冷静な声で続けた。


「どうしてお前みたいなチビが、こんな山登ろうとしてるわけ? ……それにこんな時間じゃなくたって……まだ小さいお前には、分からないかもしれないけど、夜中の山っていうのは、想像以上に危ないところなんだぞ?」


 すぐに「関係ないだろ!」という答えが返ってくると予想していたが、少年は押し黙っていた。


 しばらくオレたちの間には沈黙が流れ、代わりに周りの虫の声や木々のざわめきが、耳にうるさかった。


「……どうしても、一人で行かなくちゃいけないところがあるんだ」


 少年の発した言葉は、今までとは違って素直で澄んでいた。


「……一人で、行かなくちゃいけないところ?」

 

 こんな小さな子が、こんな山の中、こんな時間に、一人で行かなくちゃいけないところって、どこだよ?


 オレには思い浮かばなかった。


「だから、着いてくるなよ」


 少年は腰を上げると、リュックを背負い直した。

 オレは我に返って、再び問いただした。


「一人で行かなくちゃいけないところって、なんだよ? お前みたいな子供が……」

 

「大人だとか子供だとか、関係ないよ。絶対たどり着くって決めたんだ」


 そう言った少年の目には、覚悟の炎が灯っていた。吸い込まれるようだと思った。


「……たどり着くってどこに? せめてもっと、陽が高いうちじゃダメなのか?」


「うん」


 少年はオレの言うことなど、微塵も聞く気はないようだ。

 もう無理やりにでも引っ張って、山を降りた方がいいかもしれない。


 オレは少し脅しを込めて、口を開いた。


「力ずくでも、下山させるって言ったら?」


 だが少年は全く動じず、逆に冷ややかに答えた。


「やれるもんなら、やってみろよ」


 腹の底に、ずしんと響く声だった。

 脅されたのはオレの方だった。


 オレはその言葉に、金縛りを受けたように動けなくなった。


 去って行こうとする少年に、「待てよ……! 危ないって……」そう、何とか続けるのが精一杯だった。


「さっき言ったろ。もしここで死ぬようなら……自分がそれだけの、人間だってことだよ」



 ……死ぬ?


 どういうことだよ?


 結局あいつは、何なんだろうか? 何がしたいんだろうか?


 計り知れなくて、きっとちゃんと説明されても、オレには分からないかもしれない。

 

 ただ少年がその目的に真っ直ぐに向かっていることだけは、理解出来た気がした。


 気が付いた時には、少年の姿は見えなくなっていた。



つづく

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