きっと誰も幸せになれない話
過去に書き殴った奴を発見したのでチョイと手直しして上げてみる。
ああ、本当に嫌になる。
俺の目の前で顔を赤くし、まるで媚びる様にもじもじと身をくねらせている女が物凄く気持ち悪い。
そして誰にも呼ばれていないのに、何故かこの場にいる空気の読めないお節介焼き×2人も心底ウザい。
(ああ、やっぱりブチ扱きゃ良かったか……? 良くて罰ゲームの嘘告。悪けりゃ本命の告白……だよなぁ、これ)
過去に何度も嘘告を喰らいもすれば、正直嫌でも慣れもする。この俺高木篤史は、中学では”嘘告被害者のプロ”だったのだから。
お陰で精神ダメージなんか、ほぼ無きに等しい。
それどころか、それを逆手に取って逆襲してみたりもしたなぁ……
あの時の馬鹿共の顔は本当に笑えたぜ……(遠い目)
ああ、そうだ。現実逃避をしてる場合じゃないか。
今をどう捌くか。それを考えねば。
放課後の告白イベントなんてのは、学生の誰もが憧れるシチュだと言う奴もいるが、俺は全然そう思わない。
……何故かって?
人の都合一切を考えず、勝手に時間と場所を指定してきた挙げ句、自分の一方的な好意を相手に無理矢理押し付けてくるんだぜ?
しかもそれに応えてやらなかったら、あることないこと悪評をバラ撒かれるという悪意てんこ盛りのオマケ付きで。
手紙の相手が一人で待合場所に来ている場合ならまだ良い。
今回は、散々待たされた上に、本体の左右に要らないオプションが二つもくっついていやがるんだ。
これがSTGだったら攻撃力3倍って奴さ。いつの間にか此処が弾幕飛び交う戦場になりやがったんだぜ、マジで。
……って冗談は置いておく。
経験上、こうして要らないお節介焼き女子どもの介護が在る場合、断ったら確実に面倒臭い事になる。
まず「なんでだ?」
そして「どうしてだ?」
挙げ句に「○○ちゃんを泣かせた! 許せない」
最後は、自分自身全く身に覚えの無い特殊性癖を勝手に捏造され「あいつはヤバい奴だぞ。気を付けろ」と、周囲に拡散される……と。
ここまではテンプレートって奴。
ちなみに、手紙の内容を無視したら「あいつは約束も守れない不誠実な奴だ。タヒね」だけで済む。
勝手に約束した事にされた上で、”不誠実”のレッテルを貼られはするが、よくよく考えてみたら、これが一番被害が少ないと言えばそうかも知れない。失敗した。
ああ、本当に嫌になる。
未だ一言も発せず、もじもじを繰り返す女生徒の顔をもう一度確認する。
……うん。全然知らない。
胸の記章を見る限り、恐らくは下級生で間違い無い筈だ。
左右のオプションに関しても以下同文。
個人的な事情で部活動をしていない俺は、基本的に同学年以外の生徒と絡む機会はほぼ無い。
精々バイト先でなら……ぐらいだが、俺は厨房担当なので、客と絡むなんて事もまず無いし。
……ワンチャン『○○先輩を紹介して下さい!』の可能性に賭けるか?
それもかなり失礼な話だが、まだこちらへの被害が少ない分、許してやっても良いかも知れない。
「……ほら、ユウ。いい加減黙ってないでさぁ」
「えぇ~? でも、でもぉ……」
「大丈夫だから。ユウならイケるって! 高木先輩も期待してくれてるんだよ?」
何この茶番劇……ねぇ、俺もう帰って良い?
そんな言葉をぐっと飲み込んで待つ……何やってんだろ、俺?
この時間が本当に無駄過ぎる……俺、この後バイトあんだけどなぁ……こちとら生活費を稼がにゃならんのだから、切実なんだよ。マジで。
◇◆◇
左右に居座るお節介焼き共が心底五月蠅かったが、もうバイトの時間が迫っているからとバッサリ斬ってやった。
あの場を立ち去る時に浴びたステレオサラウンドによる様々な罵声とすすり泣き。本当に精神にキタね……
せっかく遠くの高校を選んだのに、また身に覚えの無い悪評によって肩身の狭い思いをするのかと思っただけで、胃がシクシクと痛み出す。
しかし、こちらの事をよく知りもしない癖に、見た目だけでラブレターを送りつけてくるって、本当何考えてやがンだ?
正直、知らない奴からの一方的な好意の押し付け程、気持ちの悪いモノは無い。
当然、こちらからの好意は皆無なのだから、丁寧に断ればそれで終わり……なんて簡単な話ならば、俺だってこう思いはしないだろう。
「わたしの事を知らないなら、まずはお試しで……」
……あり得ない。
そんな軽い気持ちで告白してくんな。まだ「お友達で……」と言うのなら許せるが、恋人を”お試しで”なんて、もうそこが信じられない。
古い恋愛観だなと言われてしまえばそれまでだろうが、同じ価値観を共有できない時点で、二人の先の展望なんかほぼ無い。そこで試合終了で良いんじゃなかろうか?
「どうしてなんですか? わたしには魅力がありませんか?」
論外。
自信を持つのは良いが、何故こっちが断ったのか少しは考えろ。
まぁ男である以上は、可愛い女の子に迫られもすればコロっと逝く奴はそりゃ多いだろう……その気持ちも分からなくも無いが、俺は嫌だ。
結局は嘘告からの美人局紛いの罰ゲームとやらを何度も喰らえば告白イベントなんか、こんな対応になるのも仕方が無いのだと思ってもらいたい。
人の悪意を嫌というほど浴び続ければ、人間不信にもなるっての。
きっと俺は、この先もまともな恋愛なんかできないんじゃないかな?
ふと、灰色だった中学時代の日々を思い出す。
二年に上がるまでは、学校が楽しかったし、世間一般の男子中学生同様に恋愛にも関心があった筈、なんだがなぁ……
◇◆◇
「あっくんっ!」
もやっとした名状し難い何かを腹に抱えながら校門を潜ると、いきなり後ろから声をかけられ腹のもやもやが胸の辺りにまでせり上がってくるを自覚した。
ああ。絶対に今日は厄日だ……
声をかけてきたその相手が、最初に俺に嘘告を仕掛けてきた相手……それまでは仲の良い幼馴染みだった多田絵里子だからだ。
「ねぇ、あっくんってばっ!」
多田の声を無視し、俺はバイト先へと歩みを続ける。
『お前みたいな奴が幼馴染みだなんて、本当に最悪っ。もう二度とあたしに話し掛けてくんなよっ!』
中学二年の時、散々クラスメート達から嘘告の事で揶揄られ打ちのめされた後に頂戴した幼馴染み様からの有り難いお言葉を思い出し、それを忠実に守ってあげようと俺は改めて心に誓う。
というか、今更こんな奴なんかを相手にする気もしないし。
中学の奴らの顔なんか二度見たくないからと、態々二つ隣の市にある進学校に入学したってのに、なんで付いてきやがったかなぁ……?
去年はクラスも違って全然絡まれる事が無かったから完全に油断していた。まさか2年になって同じクラスになるとは……この世に神なんかいない。もし仮にいたとしたら。そいつは絶対に俺の敵だっ!
「もうっ。ねぇ、無視しないでよっ、あっくんっ!」
……ウザ。
このクソおんなの声を聞くのも嫌だし、顔を見るのも嫌だ。そして会話なんて以ての外。ストレスが半端無い。
だけれど、このままずっと後ろを付き纏われるなんてのはもっと嫌だ。バイト先とか、絶対知られたくないし。
「うるっせぇぞ、多田ぁ。二度と話し掛けんなって言ったなぁお前の方だろが」
「多田なんて、名字で呼ぶのやめてよぉ。昔みたいにさ、あたしを名前で呼んでよあっくん」
ああ、同じ日本語を口にしている筈だというのに、会話が成立しねぇってさ……何なんだろうな? この恐怖感。
こいつの目的なんか知らないし、知りたくもない。俺は、早いとこバイトに行きたいのだ。
「絶対嫌だ。なんだよ、いきなり気持ち悪いな……」
「そんな悲しい事言わないでよ、あっくん……どうして? 昔は優しかったのに……」
「その優しかったという昔の俺を壊したのはお前だろうが。どの口でほざきやがるってんだ」
「それはっ! ……あたし、その事をあっくんにずっと謝りたくて……こうやって……」
そう言うと多田は、モジモジと自身の指を絡め、媚びる様な上目遣いでこちらを見てきた。
……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。ほんっと、ウザ。
このクソに対し俺の中にはもう何のときめきも無いせいか、こんな感想しか浮かばない。
「お前の謝罪なんか要らん。てか、本当に少しでもすまないと思っているんだったら、もう放っておいてくれ」
態々遠くの学校を選んだのも、自分で金を稼いでまで学校の近くに居を構えたのも、中学の奴らと二度と顔を合わせたくなかったからだ。
なのに、このクソは何を思ったか俺を追って来やがったのだ。許せる訳が無い。
「そんなっ、そんな事言わないで。ね? ごめん、あっくん。また前みたいに一緒に遊ぼうよ? ねぇ?」
俺の腕に縋り付いてくる”元幼馴染み”で”現クソおんな”を、力の限り強引に振りほどく。
触るな穢らわしい。
昔みたいに。
前みたいに。
……か。
それを完全にブチ壊しやがった奴が良く言うわ。
「はぁ。お前みたいな奴が幼馴染みだなんて、本当最悪だわ。もう二度と俺に話し掛けてくんな」
「あっ……」
(てか、なんで俺がダメージ受けなきゃなんねぇんだよ……)
クソおんなのすすり泣く声を聞きながら、俺はバイト先への路を急いだ。
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