↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!【Web版】  作者: 人紀
第十章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/319

娘(人間)の行動が不可解すぎる!1

 フェンリルとは人間の神話から付けられた通称で、狼型の神獣である彼女ではあったが、本来であれば縁もゆかりもないものだった。


 彼女の本当の名は”      ”という。


 ”世界を駆ける獣”という意味である。

 だが、この地上で、彼女の名を知る者は少ない。

 多くの者が呼ぶ、フェンリルという通称が一般化してしまったこともある。

 矮小な人間(存在)からの呼ばれ方に対して、彼女が酷く無関心だった事による帰結ともいえるだろう。

 数少ない例外はあるものの、彼女が人間に対して、足下で蠢く蟻に対する程度の興味しか、持っていなかったのだから致し方がなかった。


 だが、何より大きいのは、多くの人間を含む大半の存在が彼女の名を”聞き取る”ことが出来ないという問題があった。


 本来、名は魂に付随する。


 故にと言うべきか、それは同格以上でなければ呼ぶどころか、聞き取ることすら出来ない。

 人間の中では王とか皇帝とか、はたまた神の使いなどを自称し、他の者と別格だと主張する者もいる。

 だが、真の意味で格の違いがあるのであれば、自身の名前は、格下から呼ばれる事は無い。


 そういう”もの”なのである。


 それは、親子であっても同じで、先ほど送り出したフェンリル(彼女)の子供達であっても、今はまだ、彼女の名を聞き取ることは出来ないだろう。


『それでも、近い内に聞き取れることが出来る子も現れるでしょうね』


 フェンリル(彼女)の愛する子等の、薄れゆく残り香を惜しみながら、フェンリル(彼女)はそんなことを呟きながら目を細めた。


 驕(おご)れた人間達の後始末のために、地上に降りた六神――その降臨に同行した彼女は既に二千年もの間、この地上で生きている。


 始めの内は六神に従い、地上を走り回っていたが、この”地”も落ち着き、現在では六神から離れ、この世界の法である”弱肉強食”の頂点として、その威を示す事を”役目”としている。

 だが、それもそろそろ終わりに近づいている予感をしていた。


 初めて産んだ三匹と、拾った一人――彼らは名を得て”柱”となった。


 彼らの中で一柱でも、フェンリル(彼女)の名が聞き取れるようになれば、その時は、フェンリル(彼女)は彼(か)の地に戻る事になる。


『出来れば、あの子でなければ良いのだけど……』

 フェンリル(彼女)は少し困ったように、でも優しく、目を緩ませる。


 いつも、フェンリル(彼女)にくっついて甘える、可愛らしい娘……。

 独り立ちどころか、まともな狩に行かせるのも一苦労な甘えん坊な娘……。


 もし、フェンリル(彼女)の名を聞き取り、それが故に別れなければならないと知ったら、多分酷く泣くだろうから。

 自分のせいで起きる別れに、赤ん坊のように泣いてしまうだろうから。

 そうすると、フェンリル(彼女)は振り返ってしまいそうだから。

 誇り高きフェンリル(彼女)らしからぬ情けない表情で、振り返ってしまいそうだから……。

 だから、あの子でなければ良い――そう思ってしまって……。

『でも、何となく、あの子じゃないかって思ってしまうのよね』


 フェンリル(彼女)は苦笑する。


 なぜかいつも、『やだやだ!』とか『怖い怖い!』とか『わたしには無理!』とか叫びながらフェンリル(彼女)にしがみつき、まるで隠れようとするかのように毛に埋もれる娘だ。

 確かにまあ、フェンリル(彼女)に比べれば小さく、か弱く見える。

 だが、そんな子であっても、フェンリル(彼女)の一部を取り込み(乳を飲み)、フェンリル(彼女)の元で育ち、学んだ、フェンリル(彼女)の娘なのだ。

 弱いわけがない――フェンリル(彼女)は強く確信をしていた。


 確信していたのだが……。


 しばらく、独り立ちの試練に向かった子供らの行動を観察していたフェンリル(彼女)だったのだが……。

 今は洞窟の中でグッタリ横たわっていた。


 どころか、最高位であり、最強の神獣の一柱に数えられるフェンリル(彼女)が前足で頭を抱えていた。


『あの子は……。

 あの子は……。

 何をやっているのぉぉぉ!?』

 うぁおおおん! という声が、洞窟中に響き渡った。


――


 フェンリル(彼女)が”呑気”に満足感やら感傷に浸っていられたのは、ずいぶん短い間であった。


 遠見の魔法陣の上に浮かび上がらせている円形状の画面――それに魔力を込めながら、長子から順に、その様子を眺めていた。

『あらあら、大きい息子ったら、着いて早々、北の森でもっとも大きい黒竜に向かっていくのね』

とか

『大きい娘は綺麗好きだから、死霊生物(腐った存在)なんて、燃やし尽くしてしまいそうね』

とか

『小さい息子、いくら美味しそうに見えても、飛んでいるロック鳥(巨白鳥)を落とすのはわたしでも難しいわよ?

 ……え?

 そんな方法で!?

 凄いわね!』

 などと、一人呟く声も弾んでいた。

 さらには、早速とばかりに、小さい息子からロック鳥(巨白鳥)のモモ部分の肉が送られたりした。

 フェンリル(彼女)の口元が上機嫌に緩むのも致し方が無かった。


 神獣として育ちきったフェンリル(彼女)は、既に食料を必要としていない。


 フェンリル(彼女)と同等の存在の中には、何百年も食べずに生きている者も存在した。

 だが、フェンリル(彼女)は食すのを止めなかった。


 フェンリル(彼女)は食い道楽なのである。


 特に、人間が作る料理とやらがお気に入りであった。

 一時期など、人間を脅迫(あれこれ)し、定期的に料理を奉納させたりしていたぐらいである。

『どれどれ』と届いた肉を白い魔力で引き寄せてから、がぶりと噛みつく。

『う~ん、流石はロック鳥(巨白鳥)ね。

 生でも十分に美味しいわ』


 今回、子供らに試練を課すに当たり、フェンリル(彼女)も自身に縛りを設けることにしていた。

 それは、全員の試練が終わるまでは、子供達から送られてくる獲物のみ食すというものだ。


 まあ、別に深い意味はない。


 ただの娯楽というか、そんな程度の話であった。

 全員が戻ってきた時の、ちょっとした笑い話にでもなれば良い――そんな気まぐれを起こしただけのことだった。


 ロック鳥(巨白鳥)のもも肉を食べ終えた後、口の周りをぺろりと舐め、フェンリル(彼女)は機嫌良く、遠見の魔法陣に視線を戻した。

『さて、小さい娘(あの子)はどうしているかしら?』


 実はこの試練、フェンリル(彼女)の末娘のみ非常に優しいものとなっている。


 他の子供達の場所はそれぞれ強弱はあるものの、危険な場所や魔獣が存在していた。

 むろん、フェンリル(彼女)の子供であれば、多少手こずったとしても、越えることの出来るものではあった。

 ただ、甘く見ていると痛い目に遭う、そのぐらいには困難であった。


 だが、サリー(小さい娘)の場所は違う。


 例えば森の中、サリー(小さい娘)が身一つで寝転がり、深く寝入ってしまったとする。

 周りに住まう何百もの魔獣がそれを見て取り囲み、襲いかかったとして……。


 無傷のまま何事もなく時が過ぎる。

 それくらいには緩い場所である。


 本来であれば子供達の試練の場としては相応しくないのだが、あえてサリー(小さい娘)を送ったのには理由があった。


 一つはサリー(小さい娘)がとにかく臆病ということだ。


 乳離れしたばかりの子供でも、簡単に倒せてしまう弱い熊(通称、弱(じゃく)クマ)を見て縮みあがってしまった等、サリー(小さい娘)の情けない逸話には枚挙にいとまがない。

 正直、何でそこまで臆病なのか、何千年も生きるフェンリル(彼女)をして、理解が出来なかった。

『純粋な戦闘力だけなら、体格差があるから確かに子供(あの子)達の中では劣ると思うけど……。

 少なくとも、今、大きい息子が戦っている黒竜程度なら、多少、手こずりはしても倒せると思うんだけど……』

 フェンリル(彼女)は普段から、小首を捻(ひね)っていた。


 だからこそ、今回の森であった。


 流石に、あそこまで弱い魔獣ばかりであれば怖がることも無いだろうし、そのうち、自信も付いてくるのでは?

 フェンリル(彼女)はそう、期待していた。


 そして、もう一つは人間の町に近いことだ。


 前記にもあるが、フェンリル(彼女)は人間が作る食べ物が好きだ。

 特に、甘い物が大好きだ。

 一時期、それを手に入れるために人間の国を縄張りに加えようとしたほどだ。

 ただ、フェンリル(彼女)は言葉を聞き取ることはともかく、口の構造上、人間の言葉を話すことが難しかった。

 何度か試しはしたものの、うまく伝わらないことが多く、そのうち面倒になり、投げ出したという経緯があった。

 だが、サリー(小さい娘)は元々人間の娘”だった”事もあり、達者に話す。

 であれば、サリー(小さい娘)に支配させようと企てたのである。

『ふふふ、楽しみだわ』

 フェンリル(彼女)はサリー(小さい娘)が支配した町の職人に作らせた巨大な焼き菓子を想像し、涎が溢れるのを止められなかった。

 それを囲むのはサリー(小さい娘)と大きな娘である。(息子達は甘い物が苦手であった)

『あらあら、最初の一口を譲ってくれるの?

 ありがとう』

 フェンリル(彼女)は想像の中の心優しい娘達に礼を言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・評価をいただけると励みになります!><

ツギクルバナー
書籍版、『ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!』好評発売中!

html>
↓書籍紹介ページ
ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!(ツギクルブックス様)

コミカライズ版、『ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!』ヤングキングラムダ様にて連載中!第1巻好評発売中!

html>
↓少年画報社様紹介ページ(ちょい読み有り)
ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!(少年画報社様)
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。