その種はいずこから?
「やっと終わったぁ~」
家に入れば、食堂でお茶をしていたヴェロニカお母さんがにこやかに「お疲れ様」とねぎらってくれる。
いやぁ~黄昏時まで働かされて、本当に疲れたよ。
蜂さん達に砂糖を上げた後、残りの砂糖大根も砂糖にしようと思ったんだけど、改装工事が終わったという妖精姫ちゃんが凄い勢いで飛んできた。
そして、もっと沢山、一遍に! と言うようにちっちゃな扇子をフリフリ指示を出してきて困ってしまった。
とはいえ、改装工事が大変だったと、全身でアピールしてきたので、無下にも出来ず。
結構な数を育てさせられ、作らされてしまった。
いや、植物育成魔法って、地味に魔力を使うんだよ!
もう、冬になりかけの季節だし!
なんてアピールしても気にする様子は一切無く、山ほどある砂糖(袋詰め済み)を抱えて、妖精姫ちゃん達は大木の元に飛んで行っちゃった。
何なの、あの妖精達は!
我が家の分ぐらい置いてってよ!
袋から溢れた分をかき集めても、エリザベスちゃんの握りこぶし分しか残っていない。
一応、町で買った十キロ分の残りを合わせれば、まあ、冬籠もり分にはなるかもだけど……。
せっかくだし、ジャムとかお菓子とか色々作りたい。
明日、狩りが終わったらもう少し作らないといけない。
ハァ~
シャーロットちゃんがゴロゴロルームから出てきて、「サリーお姉様! お仕事終わったの!?」と駆け寄ってきた。
可愛い!
「今日の所は終わりかな?」
と言いつつ、小袋から先ほど集めた分の砂糖を、少々、白いモクモクで摘まみ出す。
これぐらいで良いかな?
それを、白いモクモクでギュッと固める。
「食べてみて」
人差し指の先ぐらいサイズになった茶色い角砂糖をシャーロットちゃんに上げる。
「良いの!」
「うん」
パクリと口に入れたシャーロットちゃん、パァ~っと顔を輝かせながら「甘くて、美味しいぃ~」と言ってくれた!
天使的可愛さ!
シャーロットちゃんの愛らしさにほんわかしていると、大の大人が「サリーちゃん、わたくしも!」とアピールしてきた。
……いい大人がぁ~?
とも思ったけど、どうせまっとうなことを言っても、”わたくしは子供!”みたいな下らない返答が返ってくるのは分かりきっていたので、仕方が無くヴェロニカお母さんにも作ってあげた。
「本当、甘くて美味しいわぁ~」
なんて、とろけそうな笑顔のヴェロニカお母さん、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、可愛かった。
なんか悔しいので、言葉には出さないけど。
そんなことを思っていると、ヴェロニカお母さんが言う。
「でも不思議ね」
「何が?」
「蟻さんって、どこから砂糖大根の種を持ってきたのかしら?」
「え?」
「だって、この辺りでは砂糖大根の栽培は管理されているはずなんだけど」
そういえば、組合長のアーロンさんも似たようなことを言っていたような……。
「当然、種とかも管理されているはずだと思うわ」
そう言われると、確かにそうだ。
砂糖大根が自然に生えている――って事も無い、とは言えないけど……。
そもそも、砂糖大根だけでなく、林檎、オレンジ、ソラマメ、向日葵、人参……。
よく分からないと思っていたのも、お茶の木だったし……。
冷静に考えて、全くの外れって無い気がする。
それって、自然の中から集められるものかな?
「……」
「……」
ヴェロニカお母さんとしばらく見つめ合う。
そして、結論を出す。
「今は冬籠もりが忙しいので、考えない!」
逃避じゃない!
時間がないだけ!
春が来たら、また考えることにする!
ヴェロニカお母さんも「……そうね」と同意してくれた。
わたしはさらに付け加えた。
「砂糖のことはここだけの秘密にする!
町の誰にも口外しない!」
「その方が良いわね」
と言うヴェロニカお母さん、ニッコリ微笑みながら続ける。
「ジャムとかのお裾分けも、しばらくは控えた方が良いわね」
「う、うん……」
心なしか釘を刺された気がする。
そうなると、ケーキ屋さんに砂糖を持って行って、ケーキを作って貰うのも駄目かなぁ。
でも、食糧が不足しているだけで、砂糖の残りはあるかな?
どうだろう?
明日、狩りが終わった後、聞きに行ってみようかな?
――
狩り二日目の朝が来た!
ベッドから抜け出し、着替え等を済ませてから部屋を出る。
ケルちゃんにモフモフ挨拶をした後、シルク婦人さんから籠と壺を受け取る。
ふふふ、昨日までなら外に出ていたけど、今日からは違う!
ウキウキ気分でトイレの左隣に向かう。
奥に見えるのは、飼育小屋まで直接行ける入り口だ!
元々、隣はお風呂に入るための脱衣所があったのだけど、結構広かったそれを狭くして、入り口にしたのだ。
素人目にはかなり大がかりな工事だと思うんだけど、流石と言うべきか、物作り妖精のおじいちゃん達は、一日で終わらせた。
凄い!
奥まで行くと、扉を開ける。
直ぐに、五段ほど下りの階段がある通路に出る。
デパートの連絡通路みたいに天井もあり、左右に壁もあるので、仮に吹雪いていても問題なく通れる。
これなら、真冬になっても問題なく、イメルダちゃん達を飼育小屋に連れて行けるだろう。
通路の突き当たりのドアを開けると、中はいつもの飼育小屋だ。
スライムのルルリンがスルスル近づいて来る。
「おはよう」
と挨拶をすると、わたしの腕にポヨンと飛びついてくる。
相変わらず、可愛らしい!
山羊さんからお乳を頂き、赤鶏さん達から卵を頂き、さて戻ろう。
え?
ルルリンも家に行きたい?
でも、ここのお掃除とかは?
ルルリンが一部分を尖らせて、下を指す。
その先には、スライム達がここは任せてというように揺れる。
そうなの?
え?
飼育小屋と家を往復する?
ならいいかな?
家の皆とも仲良くしてね。
と一応、念を押すと、了解! っと言うように揺れた。
食堂に戻る。
イメルダちゃん達も起きてたので、スライムのルルリンがこちら側にも顔を出すことを説明する。
すると、スライムのルルリン、わたしの腕からケルちゃんの上に飛び降りる。
そして、ケルちゃんの上をヌルヌル動く。
ケルちゃん、三首ともくすぐったそうに身をよじり始めた。
シャーロットちゃんがそんな様子を見ながら「大丈夫?」と言っている。
体が大きくなり始めているケルちゃんが暴れ出したら困るので、取って上げようとするも、ケルちゃんの三首とも、大丈夫! と言うように首を横に振った。
え?
むしろ気持ちが良い?
……さようですか。
などとやっていると、台所から出てきたシルク婦人さんがスライムのルルリンを片手で鷲づかみにする。
そして、ケルちゃんから剥がすと、戻っていった。
え?
どうしたの?
皆でその後をついて行くと、シルク婦人さん、台所の床にスライムのルルリンをポイと落とした。
心得たとばかりに、スライムのルルリンが床に落ちた屑を取り込んでいく。
……まあ、スライムの正しい扱い方なのかも知れないけど、扱いが雑!




