妹ちゃんと町に行こう!1
朝!
起きた!
エリザベスちゃんと、彼女の夜泣きの為にぐったり眠っているヴェロニカお母さんを起こさないようにゴロゴロルームからそっと抜け出る。
そして、スリッパを履く。
そう、スリッパを履いたのだ!
一生懸命説明したけど、いまいち要領がつかめないって顔をしていた手芸妖精のおばあちゃんだったけど、恐るべきと言うべきかもう作り上げてきた!
つま先から足の甲まできちんと覆い、かかとの部分には高さが無い――きちんと望み通りの物になっている。
底は皮製(弱クマさん)とのことで丈夫そうだし、綿をふんだんに使っているので中々温かい。
あえて言うなら、色が買った時のままなのでくすんだ白だということか。
でもこれは、急いで作って貰ったから仕方が無い。
手芸妖精のおばあちゃんから、身振り手振りで(次に期待しててね)と言われたので、楽しみにしておくことにする。
でも、顔料は買ってあるけど、布を染める場所はどうするつもりなんだろう?
まさか、大木の中でやる訳無いよね?
まあ、場所を作ることになったら言ってくるだろうから、その時に考えれば良いか。
因みに、母娘から初め、訝しげに見られていたスリッパだったけど、使ってみてその有用性に皆感動していた!
特に、ヴェロニカお母さんは「素晴らしいわ! 素晴らしいわ!」を連呼してた。
婦人用の靴は基本的に足に負担がかかるから、楽で良いとのことだった。
あと、脱ぎ履きが楽なので、ゴロゴロルームから出入りが楽になって良いと嬉しそうにしてた。
喜んでもらえて良かった!
さて、朝のあれこれをしなくては。
ん?
ああ、ケルちゃん、おはよう!
近寄ってきたケルちゃんに三首同時ハグを敢行する!
え?
手抜き?
不満そうなので、致し方が無くレフちゃん、センちゃん、ライちゃんの順でギュっと抱きしめてあげる!
え?
順番が不満?
文句が多いなぁ~
顔を洗ったり、髪を整えたりした後、赤鶏さんの世話の為、外に出る。
勿論、靴に履き替えてだ。
外の風、大分冷たくなってきた。
何か、雪が降りそうな匂いもする。
町の人の話では、相当積もるとのことなので注意が必要だ。
わたし一人ならともかく、ヴェロニカお母さんや妹ちゃん達もいるしね。
そんなことを考えつつ飼育小屋に入る。
え?
おお!
後から来た赤鶏さん、卵を産んでくれている!
しかも、二羽とも!
妖精メイドのサクラちゃんが近づいてきたので、見せる。
大丈夫?
やったぁ!
大きい卵を二つもゲットした!
産んでくれた赤鶏さんに大麦を多めに渡したら嬉しそうに食べてた。
すると、卵を温めている赤鶏さんが不満そうにコッココッコ言ってる。
え?
あなたも欲しいの?
まあ、あなたも大変だもんね。
彼女にも多めに渡してあげた。
嬉しそうに首を振ってた。
良かったね!
朝ご飯用の食材を倉庫から取って家に戻ると、イメルダちゃんとシャーロットちゃんが起きていた。
おはよう!
シャーロットちゃん、眠そうに目をこすっている。
可愛いけど、目を悪くするからやらないように、と注意する。
飼育小屋に行っていたので手を丁寧に洗った後、二人の為に、白いモクモクを出してお湯を沸かしてあげる。
指を入れて確認、少しヌルいぐらいが良いよね。
洗面器に入れて、顔を洗ってもらう。
タオルを持ってそれを見守っていると、妖精メイドのサクラちゃんがすーっと寄ってきた。
え、こちらはお任せして良い?
助かります。
キッチンに戻り、朝ご飯を作る。
白いモクモクでパンを焼く。
パン生地は前日作っておいた物を冷凍室のそこまで冷えていない位置に置いておいた物を使う。
上手くいけば、朝一に美味しいパンが食べられるのでは無いかと実験的に作ったんだけど、どうやら上手くいっているみたいだ。
う~ん、パンの香ばしい匂いが最高だぁ!
野菜炒めをフライパンで作る。
白いモクモクではなく、竈を使ってる。
火の調整が結構難しいけど、白いモクモクで着火、鎮火等が簡単なわたしにとって、さほど苦労することも無い!
……ちょっと焦げちゃったけど、セーフセーフ。
卵は目玉焼きで!
……と思ったけど、四人に対して二つなので、分けやすいようにスクランブルエッグにする。
焼き上がったのをちょっと味見、うん、美味しい!
ただ、流石四倍サイズの卵、結構な量になる。
……一個で良かったかな?
ん~ケルちゃんも食べるかな?
続けて、ケルちゃん用のお肉を焼いていると、入り口付近に気配が。
視線を向けると寝間着から着替えたシャーロットちゃんが覗いていた。
「どうしたの?」と訊ねると、少し恥ずかしそうにモゾモゾする。
ん?
「サリーお姉様、シャーロットもお肉食べたいの」
「え!?
朝から!?」
焼き鳥の時にも思ったけど、シャーロットちゃん、小っちゃくて可愛いのに肉食系女子(意味違い)なのか!
了承したら、嬉しそうに戻っていった。
可愛い!
料理を食堂まで運ぶ。
イメルダちゃんが「あ、卵料理ね」と少し嬉しそうにする。
「卵好きなの?」と訊ねると、何故か恥ずかしそうに「ええ……」と答える。
なんて、可愛い子なんでしょうか!
イメルダちゃんに手伝って貰いつつ、皿やコップを並べていく。
チラリと視線を向けると、シャーロットちゃんがケルちゃんの前に立ち「この子がライちゃん、この子がセンちゃん、この子がレフちゃん……」とか言いつつ一首ずつハグをしていた。
可愛い!
ハグをされた三首とも嬉しそうに、シャーロットちゃんに頬ずりをしている。
ケルちゃんも可愛い!
え?
早く並べなさい?
ごめんなさい。
イメルダちゃんに怒られたので手早く並べ終える。
取りあえず、ご飯は先に妹ちゃん二人とわたしが食べ、ヴェロニカお母さんがエリザベスちゃんの様子を見る。
終わったら、ヴェロニカお母さんが食事を取り、妹ちゃん二人がエリザベスちゃんを見て、わたしは後片付けなどをする事に決めた。
妖精メイドのスイレンちゃんが(わたしが見てるよ)と言う雰囲気をしたけど、余り頼りっぱなしも悪いので、そういうことにした。
三人で食事していると、野菜炒めを見つめながらシャーロットちゃんが言う。
「サリーお姉様……。
シャーロット、人参嫌い」
あ~分かる。
分かるよ、シャーロットちゃん!
「シャーロット!
駄目よ!」
と眉を寄せるイメルダちゃんを制しながら、うんうん頷いてみせる。
そして、少し困った顔をする。
「苦手な食べ物ってあるよね。
でも、我が国にはお医者様がいないの。
ある程度は、魔法やお薬で対処できるけど、極力病気にならないようにしなくてはならないの。
分かるでしょう?」
「うん……」
「そのためにも、好き嫌いせずに色んな物を食べなくてはならないの」
「うん……」
幼いとはいえ、シャーロットちゃんは賢い。
その辺りも理解できるのだろう、顔をしかめながらもパクリと食べた。
「立派よ!
後で、林檎を剥いてあげるからね」
「うん……」
林檎パワーに後押しされたのか、もう一口食べる。
なんとか食べきったようだ。
偉い!
小さくて弱い女の子はしっかりと食べて、常に元気でいて貰わなくては困るもんね。
これからも頑張って貰わなくては。
因みに、わたしは大分お姉さんだし、体は頑丈になったのでピーマンとか一種ぐらい食べなくて問題は無い。
問題は無いのだ!
――
朝食の片付けと洗濯を手早く終えて、この後のことを考える。
雪が降るのが思ったより早そうなので、出来るだけ町で買い物をしておこうかな?
布とか、少し買いためして置きたいし。
あ、ヴェロニカお母さんが病気とかで乳が出なくなったら大変だ!
確か、Web小説では山羊の乳を代用してたような……。
あれ?
実は駄目なんだっけ?
う~ん、一応探してみようかな。
仮に、代用できなくっても、わたし達で飲めば良いんだし。
後は……。
「ねえねえ、イメルダちゃん。
冬ごもりに必要な物、考えておいてくれた?」
頼りになる宰相様に、お願いしていた事を訊ねる。
お手伝いを終えて、テーブルで休憩していたイメルダちゃんがこちらを見る。
「今から町に行くの?」
「うん、そのつもり」
と言いつつ、自室に入り、戸棚からお財布代わりの革袋を取り出す。
金貨、銀貨、銅貨の三袋ある。
一番多いのは何故か金貨!
ミスリルトカゲ君様々である!
もっとも、ここの金貨が前世でどれくらいの価値になるのか分からないから、ひょっとすると大したことが無いのかも知れない。
落っことす等、問題が発生した場合の為に、二十枚ほど除けて、残りを持って食堂に戻ると、イメルダちゃんは何か考え込んでいた。
そして、顔を上げると椅子から降り、ゴロゴロルームの入り口まで移動した。
「お母様、わたくしも町に行って良いですか?」
エリザベスちゃんの籠――その隣で刺繍をしていたヴェロニカお母さんは顔を上げて、ニッコリ微笑んだ。
「サリーちゃんが良いと言うなら、良いわよ」
そして、ヴェロニカお母さんの側でお昼寝中のシャーロットちゃんに視線を向けつつ「シャーロットは流石に早いけど」と柔らかな表情で囁いた。
イメルダちゃんが真剣な表情でこちらを向く。
わたしは小首をひねる。
「見つかっちゃったら、不味いんじゃ無かったっけ?」
わたしの問いに、イメルダちゃんは頷く。
「でも、わたくし一人だけなら大丈夫だと思うの。
髪だって地味な茶色だし」
まあ、確かにヴェロニカお母さんやエリザベスちゃんの輝かんばかりの金髪に比べたら、イメルダちゃんの茶髪は地味かも知れない。
でも、イメルダちゃん、それを補って余り有るほど可愛いから、やっぱり目立っちゃうんじゃないかな?
わたしはフェンリル帽子を持って来ると、イメルダちゃんに被せる。
サイズが大きいから、だぼっとした感じになっている。
うむ。
「可愛い」
「何がやりたいの!」
褒めたのに、帽子の下から睨まれた。
「待って、待って」
部屋に移動、十歳ぐらいに来ていた服は……。
あった!
ワンピースにズボンだ。
「イメルダちゃん、これ着て!」
「え?
何で?」
「この服、丈夫だから何かあった時に良いの!」
「そ、そうなの?」
「うん!」
フェンリルの毛が織り込まれているから、嘘じゃ無い。
「それに、今まで着ていた服とは雰囲気が違うだろうから、ばれにくいし!」と言って急かして、着替えさせる。
完成!
……ちょっと、大きかったか。
肩の辺りが少しズレた白の膝丈ワンピースに、茶色のズボン、目元が隠れてしまいそうなぐらい大きいフェンリル帽子――そして、何やら恥ずかしそうなイメルダちゃん……「好き!」
ぎゅって抱きしめたら「きゃぁ!」と叫ばれ、ペチンとビンタされた。
何故?
顔を真っ赤に染めたイメルダちゃんが怒る。
「なんで抱きつくの!」
「えぇ~可愛いから」
「そんな理由で抱きつかない!」
「えぇ~」
そんなことをやっていると、ゴロゴロルームから出てきたヴェロニカお母さんが、スリッパを履くとスススと近づいてきた。
そして、「可愛いわ!」とイメルダちゃんに抱きついた。
「ちょ、お母様!?」
「だよね!」
ヴェロニカお母さんとわたし、意気投合!
だけど何故か、「むやみに抱きつくものじゃありません!」とイメルダちゃんに怒られてしまった。
えぇ~別に良いと思うけどなぁ~
「そうそう、サリーちゃん。
刺繍が完成したわよ」
「本当!?」
ヴェロニカお母さんがゴロゴロルームからセーラー服を持ってくる。
「わぁ~綺麗!」
セーラー服の脇の辺りに、真っ赤な薔薇が三輪、咲いていた。
白のセーラー服に凄く映えて良いと思う。
イメルダちゃんも「素敵ね」と言ってくれた!
「ありがとう!
ヴェロニカお母さん!」
とギュッと抱きしめたら、ちょっとびっくりさせちゃったみたい。
でも、「……喜んでくれて嬉しいわ」と背中をポンポンとしてくれた。
早速、町に着ていこう!




