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ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!【Web版】  作者: 人紀
第六章

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慌ただしくお買い物に出かける

 一通り見せた後、食堂(中央の部屋)に戻る。

 今から町に行くので、とりあえず必要な物をあげて貰おうって事になったのだ。


 因みに蜂蜜については、しばらくはあきらめて貰った。

 ひょっとしたら頼めばくれるかもだけど、働き蜂さんが減ったり、冬ごもりのための蜜が必要だったり等で、今は無理をさせたくない。

 しかし、ヴェロニカお母さん、甘い物を得るためには恥も外聞も捨て去る姿は恐ろしい。


 有る意味尊敬できる。

 ああは、なりたくないけれど。


「早急に必要な物は無い?」と皆に確認する。

 すると、手芸妖精のおばあちゃんが飛んできた。

 その手には布がある。

 ああ、必要なのね。

 オムツも作れると。

 え、それだけじゃない?

 糸も足りなくなった?

 あとは……顔料?

 有ってる?

 了解です。

 あ、スリッパも作れる?

 え? スリッパが分からない?

 色々と説明すると、不可思議そうにしたけどやってみるとのこと。

 お願いします!

 すると、ヴェロニカお母さんが手を挙げる。

「刺繍で必要な道具が欲しいわ」

「刺繍?

 ヴェロニカお母さん、そんなの出来るの?」

 なんか、高貴そうなヴェロニカお母さんに、職人っぽい技能が必要な刺繍は似合わない気がする。

 それに反論したのがイメルダちゃんだ。

「お母様の刺繍は凄いのよ!

 この国一番って言われてたんだから!」

「そうなの?」

「ええ!」

 なんか、ヴェロニカお母さんの自称だと少々疑わしいけど、イメルダちゃんが言うのならその通りな気がする。

「道具ってどんなのがあるの?」

と確認すると、針と刺繍枠という丸い枠、あとはハサミとかだとか。

 赤鷲の団のアナさんに紹介してもらった店ならそろうかな?

 確認してみよう。


 そういえば、ランプオイルは足りるかな?

 そう思い、現在も付けているランプを確認する。

 今いる食堂(中央の部屋)もそうだけど、この家、基本的に外からの光が入りにくい構造になっている。

 わたしの場合、夜目が利くし、白いモクモクを発光させるという手もあるが、他の皆にはそれがない。

 昼間でもランプが必要なのだ。


 う~ん……。

 荷物置き場にいくらか有ったけど、冬ごもりを考えたら、心許ない。


 最悪、妖精ちゃん達に光って貰うって手もあるけど、毎回頼むのも気が引ける。

 予備も含めて買わなければ……。

 などと思っていると、イメルダちゃんが不思議そうに訊ねてくる。

「ねえ、何で魔道具を使わないの?

 この家、付いてるでしょう?」

「え?」

「え?」

 イメルダちゃんが言うには、天井にある灰色の石が照明とのこと。

「なんで、自分の家なのに知らないのよ」

と言われたけど、しょうがない。

 あらかじめ、説明してくれなかったママやエルフのお姉さんが悪い。

 イメルダちゃんは椅子から降りると、灰色の石につながっているケーブル、その先がある柱に向かって歩く。

 そして、それに手を置いた。


 照明は――点かなかった。


「あれ?」とイメルダちゃんが小首を捻る。

 ヴェロニカお母さんが指摘する。

「それ、魔石が付いてないわよ」

「魔石?」

「魔力を溜めておく事が出来る石のことよ」

とヴェロニカお母さんが教えてくれた。

 なるほど、そんなものがあるのか。

「じゃあ、それも買わないといけないね」

 でも、どこに売ってるんだろう?

 食器類も買わないといけないし……。

 皆をここに残して、余り長い時間離れるのもなぁ。

 その辺りを説明すると、イメルダちゃんは頷いた。

「とりあえずの優先順位は布関係と食器だから、まずはそちらを買いに行ったらどう?

 ランプ油はまだあるんでしょう?」

「そうだね。

 そうしよう」

 後は椅子が必要だけど、物作り妖精のおじいちゃんにお願いしよう。

 製鉄所が途中だけど……そこを何とかお願いする形で!

 中々、忙しい!


――


 荷車を引っ張り出して出発の準備、籠を乗せて念のために中をチェックする。


 お金、オッケー!

 門番のジェームズさんに借りていたコート、オッケー!

 そのお礼用の冷凍肉(木の箱詰め)オッケー!


 もう少し、お金が欲しいな。

 物作り妖精のおじいちゃんや手芸妖精のおばあちゃんに色々お願いをしていると、妖精姫ちゃんが割り込んできて、王妃様ケーキをいつもの倍、要求されてしまったのだ。

 あのケーキ、地味に高いんだけどなぁ。

 どっかで弱クマさん辺りを狩っておこう。


 見送りにヴェロニカお母さん達が家の玄関に来ている。


 外まで出ようとしていたけど、一応、止めた。

 まあ、怪しい気配は感じないけど、念のためね。

「行ってきまぁ~す!」と手を振り、走り出す。

 妖精メイドちゃん達が、なぜか追いかけてくる。

 見送りかと思ったら違った。

 何やら身振り手振りで言っている。


 ん?

 え?

 お茶に入れる?

 砂糖のこと?

 え?

 沢山?

 ……あったらね。


 まあ、結構頼りにしているから、しょうがないか。

 にしても、砂糖か……。

 以前は、砂糖大根(テンサイ)を自家栽培してたから、あえて購入っていうのには少々抵抗があるんだけどなぁ。

 町に、種とか売ってないかな?

 そんなことを思いながら走っていると、弱クマさん発見!

 ……子連れかぁ~

 偽善かもだけど、子連れは狙わないことにしている。

 こちらに気づいた親弱クマさんが二本足になり「ぐがぁぁぁ!」などと吠えていたけど無視して先に進む。

 川にさしかかった時に、何か違和感を感じ足を止める。


 何か、こちらを狙っている?


 地面をする音に視線を向ければ、灰色のトカゲが突進してきた。

 初めて見る魔獣()だ。

 三メートル級のイグアナといった彼の横っ面を、とりあえず「えい」とキックする。

 吹っ飛んで行き、木に激突するトカゲ君だったが、弱クマさん辺りなら死んでそうな一撃だったけど、ふらつきつつも起きあがる。

 トカゲ君がぶつかった木が、衝撃に耐えきれなかったのか、メキメキいいながら倒れていく。

 それが地面に倒れたと同時に、その陰に向かってトカゲ君は逃げる。


 むろん、逃がさな~い。


 瞬時に間合いを詰めると、トカゲ君の尻尾を掴む。

 なかなか、ゴツゴツして堅そうだ。

 皮膚が海辺の岩のようにゴツゴツざらざらしていて、しかも頭から尻尾までたてがみみたいな棘が沢山生えている。

 ふむ。

 わたしは掴んでいた尻尾を思いっきり引っ張り体を引き出すと、棘の先を注意しつつその首にチョップをする。

 ゴキリという音がして、体が痙攣するように動いたが、しばらくすると、動かなくなった。


 ……倒したは良いけど、この子、美味しいのかな?


 う~ん、町に持って行って解体所の所長グラハムさん辺りに聞いてみようかな?

 そんなことを思いながら、荷車に運ぶ。

 尻尾が長いので一旦、荷物を下ろし、どうやって乗せようか思案していると、何かが駆け寄ってくる気配を感じた。


 視線を向けると弱クマさんだった。


 なにやら舌をベロンと出しながら、どことなく嬉しそうに突っ込んでくる。

 なんか、その顔、気持ち悪い。

 馬鹿みたいに顔面から突っ込んでくる彼の横っ面に「てい」とキックする。

 ゴギとか音を立てながら、巨体を空中版側転といった感じに回り――荷車の上に落ちた。

「やば!

 壊れる!」

と慌てるも、物作り妖精のおじいちゃんが強化してくれた荷車はビクともせず、首がへし折れた弱クマさんが横たわっていた。

 こうなると、この弱クマさん、自ら獲物として持って帰って貰おうとしているかのように思えて、ちょっと面白かった。


――


 あとは何事もなく門まで到着、門番のジェームズさんを発見して「ひゃ!」と声を漏らしつつ、「コート、ありがとう」と返す。

「おう」と言いつつ、それを受け取った門番のジェームズさんはその恐ろしい顔を不思議そうにしかめる。

「女の匂いがする」

 ドキリとした。

 ヴェロニカお母さんが使ったから、その匂いが移っちゃったのかも。

 ちょっと、ごまかしてみる。

「わたしだって女なんだけど」

 すると、門番のジェームズさんは何ともいえない顔で「……おう」と言った。


 どういう意味!?


 あと、お礼に弱クマさんの冷凍肉を渡す。

「解凍して食べてね」

と言うも、門番のジェームズさんは困惑した顔で「多いな」と呟いた。

「え?

 多い?」

と改めてみる。

 門番のジェームズさんが抱え”られる”ぐらいのブロック肉だ。

「ジェームズさんなら食べられるよね」

「……流石に無理だ」

「え~そうなの?」

 お兄ちゃん達なら一口で食べちゃうけどな。

 門番のジェームズさんはなにやら真剣な顔で言う。

「なあ、孤児院の連中に食べさせてもいいか?」

「孤児院?

 いや、別に良いけど」

 何でも、門番のジェームズさんが子供の頃、お世話になった所らしい。

 そんなんだったら、もっと大きくてもよかったかな?

 いやいや、まずは我が家の事をしないと。

 門番のジェームズさんに手を振って別れた。


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