皆にお礼を言う!
結界の外に出て、ワイバーンの元に行く。
彼が倒れているだろう辺りから、沢山の気配を感じる。
うん、あれはいつものだ。
更に近づくと、恐らく、一族総出でやってきた白狼君達が、わたしが頭を吹き飛ばしたワイバーンの一匹を囓っていた。
……いや、まあ、助けてくれたからね。
今回は、まあいいけどね……。
白狼君が近寄ってきたので『引きつけてくれて、ありがとう! 皆大丈夫だった?』と、がうがう訊ねる。
それに対して、”大丈夫ですよ、主様!”と言うように白狼君は吠えた。
うん、大丈夫なのかな?
『怪我した子は居る?
治療するよ』
と続けると、白狼君は群れの方に振り返り「がうがう!」と吠えた。
すると、何頭かが食べるのを止めて、近寄ってきた。
やっぱり、無傷とはいかなかったか。
頭から血を流し、白い毛皮を染めている子や、足を引きずる子など五頭ほどいた。
なので、『ありがとうね』とお礼を言いつつ、治療魔法をかけた。
皆、どこか誇らしげだった。
白狼君達を治療し終えた後、巨大蜂さんの巣の方に歩いて行く。
途中、近衛兵士妖精の黒風君達が警戒するように飛んでいたので、「白狼君を守ってくれてありがとう!」と手を振る。
好青年な近衛兵士妖精君を含む皆は、大したことないというように、ニッコリ微笑んでくれた。
そして、代表するように黒風君が身振り手振りをする。
どうやら彼らは、もう少し、周りを見回るとの事らしい。
「巨大蜂さんにお礼を言ったら、わたしも合流するよ」と言うも、黒風君は首を横に振った。
え?
家に居た方が良い?
側に居る?
あ、イメルダちゃんの側に居て上げた方が良いって事?
周りは僕らにお任せ?
優し頼もしい!
家の方を向く黒風君は悪役妖精同様、心配げだった。
「そうだね。
わたし、側に居て上げる事にするよ」
と答えると、微笑みつつコクリと頷いた黒風君は手を振って、皆と見回りに戻っていった。
しばらく行くと、兵隊蜂さん達が羽を鳴らしつつ飛んできた。
あ!
いつもの兵隊蜂さん、甲殻が割れ、足の一本がおかしな感じに曲がっている。
「大丈夫!」
と駆け寄ると、”これぐらい平気!”と言うように身振り手振りをする。
いや!
どうでもいいけど、その壊れた足を振るの止めなさい!
急いで、治療魔法で治す。
かろうじて付いていたのが幸いしてか、何とか治った。
わたしだと、まだ、欠損したら治せないから本当に良かった。
「引きつけてくれてありがとうね!」
とお礼をしつつ、他の兵隊蜂さんも癒やす。
皆、”気にしないで!”とか”困った時はお互い様!”とか言うように身振り手振りをしてくる。
優しい!
「何か、お礼がしたいんだけど」
と言うと、兵隊蜂さんは顔を見合わせる。
そして、いつもの兵隊蜂さんが巣の方に前足を伸ばした後、そちらに向けて飛んでいった。
女王蜂さんに訊いてくれって事かな?
すると、兵隊蜂さんと一緒に女王蜂さんが飛んできた。
そして、身振り手振りで言う。
え?
気にしなくて、大丈夫?
以前、助けてくれたお礼?
それより、小さい子――イメルダちゃん? が心配?
うん、イメルダちゃんはわたしも心配……。
あ、じゃなく、前に助けた分はお礼を貰ってるから、出来れば何かしたいと思ってるんだけど。
女王蜂さんは少し考えるそぶりを見せた後、兵隊蜂さんを前足で招く。
近づいた兵隊蜂さんと触覚を合わせ合い、何やら指示を出しているみたいだ。
頷いた兵隊蜂さんは、巣の方に飛んでいく。
兵隊蜂さんは一分もかからず戻ってきた。
彼が抱えているのは――例の魔木君だ。
女王蜂さんはそれを指しながら、身振り手振りをする。
え?
魔木君をもう少し成長させて欲しい?
出来れば本数も増やして欲しい?
そうすれば、害意のある魔獣も近寄りにくくなる?
え?
そんなに強いの?
え?
強いと言うより、居るだけで多くの魔獣が嫌がる、のね?
でも、我が家の家族を襲うようだと困るんだけど。
あと、蟻さんや、白狼君達も……。
え?
言って聞かせるから大丈夫?
なら良いかな?
相変わらず「ほぉ~ほぉ~」とか声(?)を上げている魔木君に近づく。
……そういえば、さっきの時点で成長が止まったように見えたんだけど……。
でも、女王蜂さんが言うのだから、もう少し、大きくなるのかな?
白いモクモクを上に被せる。
そして、魔力を込めた。
「育てぇ~!」
……成長しない?
すると、女王蜂さんが”もっともっと!”と言うように身振り手振りをする。
いや、正直、スライムのルルリンの件もあるし、ちょっと、怖いんだけど……。
などと思いつつ、更に力を込めて育てぇ~をする。
すると、魔木君の幹からバキバキという音が聞こえ始める。
こ、これは……。
ひょっとして、女性向けWeb小説で良くある、魔木の殻を破り、見目麗しいイケメン君に生まれ変わるパターンか!?
などと、しょうも無い事を考えつつ更に魔力を込めると――魔木君が突然、破裂した!?
「わっ!」
と飛び散る樹皮らしきものから、腕で顔を庇う。
ヤバい、勢いよく魔力を与えすぎたかな!?
恐る恐る、腕を下ろすと――そこにはイケメン――ではなく、先ほどの顔から強面にバージョンアップした灰色の魔木君が「ほぉぉぉ!」と吠えていた。
高さは六メートルかな?
先ほどまでは、どちらかというとノホホとした感じの目(樹洞?)だったけど……。
それが尖った感じになり、さらに樹皮がダーク色になった事も有り、ファンタジー作品の魔森にいそうな感じ生まれ変わっていた。
枝の先に実っている(?)例のレモンっぽいものも大きくなり、意味も無く振っている。
……うん、なんとコメントしたら良いのか、分からない!
ただ、女王蜂さんや兵隊蜂さんは嬉しいのか、そんなダーク魔木君の周りを飛び回っている。
……まあ、喜んで貰えたなら、良かった!
――
家に戻ると、寝室の中に入る。
いつものベッドにはイメルダちゃんが目を閉じ、横になっていた。
因みに、魔木君は、女王蜂さんに促されるまま、例の巨大でダークな彼の他に五本ほど育てて上げた。
「ほぉ~ほぉ~」とくぐった声を上げながらうろちょろしている様子は、まさに魔境の森といった感じで、少々後悔した。
彼らの声を夜とかに聞いたら、凄く怖そうだ。
いや、それはともかく、ベッドの脇まで行くと、近くに備え付けていた椅子を引き寄せて座る。
気配に気づいたのか、イメルダちゃんが目を開けた。




