ロック鳥さんのお肉を頂く!
そんな事を思いつつ、小さい兄ちゃんに訊ねる。
『ねえねえ、小さい兄ちゃん。
ちょっとだけど、塩やコショウが有るけど使う?』
『小さい妹が足りなくなって困らないなら、使って欲しいかな?』
『……小さい兄ちゃん、わたしにはもう名前があるんだから、小さい妹はそろそろ止めて』
わたしが口を尖らせると、小さい兄ちゃんは少し焦ったように『ごめん、ごめん』と謝る。
『サリー妹って呼べば良いんだったっけ?』
『だから、妹にはサリーって呼び捨てで良いんだってば!』
『そうなの?
なんか変じゃない?』
『そういうものなの!』
などと言いつつ、籠の中から塩コショウがそれぞれ入った小さな壺を取り出す。
何か食事の機会があった時用に、いつも持ち歩いているのだ。
イメルダちゃんに見つかった時は呆れた顔をされたけど、狩りをするわたしにとって、必須の持ち物だからね!
焼いたお肉を小さい兄ちゃんと食べる。
ロック鳥さんのお肉、凄く美味い!
塩コショウをしてから、白いモクモクで焼いただけなのに、香ばしくて良い香りだし、噛むと肉汁が口内にあふれ、ガツガツと食べちゃう!
小さい兄ちゃんも嬉しそうに頬張っている。
とはいえ、わたし達だけでは我が家十軒分にはなるロック鳥さんのお肉は無くなったりしないけどね!
因みに、近衛兵士妖精の白雪ちゃんにはイチゴのドライフルーツを小袋で渡している。
チラリと彼女の方を見ると、可愛格好いい近衛騎士ちゃん、ほっぺをパンパンに膨らませ、嬉しそうに食べていた。
可愛らしすぎる!
ほんわかしながらそれを眺めていると、それを見つめている小さい兄ちゃんに気づく。
『お兄ちゃんも、イチゴ食べる?』
『ん?
ううん、果物はいいかな?
それより、白雪ちゃんとは、どこで知り合ったの?』
なので、我が家の事を説明して上げる。
妖精ちゃんやケルちゃん、ヴェロニカお母さん母子達やシルク婦人さん、スライムのルルリンや山羊さん達と暮らしている事を。
そして、国作りをしたり、時々、町で冒険者をしていることなども話した。
拙いわたしの話を、小さい兄ちゃんは興味深げに聞いてくれた。
『サリーなら、きっと変わった事をしているだろうなぁ~とは思っていたけど……。
僕が想像している以上な事をしているんだね』
『え~、変わっているかなぁ?』
『変わっているよぉ~
でも、元気そうで良かった』
小さい兄ちゃんが優しく微笑んでくれるから、なんだか嬉しく、ちょっと恥ずかしくなった。
『小さい兄ちゃんはどんな生活をしていたの?』
『ん?
僕は早い時期からロック鳥に追いかけ回されていたから、特に面白い事はしてないなぁ。
あ、ただ冬ごもり中の少しの期間、小さい人間? なのかな? 子供達の面倒を見てた』
『子供達の?』
『うん、サリーぐらいの子』
素直に聞くのであれば、中学生ぐらいの女の子か男の子がいたのだと思えるんだけど……。
小さい兄ちゃん達、フェンリル目線で正直、わたしとヴェロニカお母さんの大小や年齢の差違について分かるのかといえば、甚だ疑問なので、単純に人間の面倒を見たと理解した方が正しいと思う。
そんな事を考えている間にも、小さい兄ちゃんの話は続く。
『よく分からないけど、弱っているみたいだから、母さんがサリーにやってたみたいにお湯で温めたり、煮込んだ食べ物を与えたりしたんだけど……。
しばらくすると、何やら言った後、消えちゃった』
『え?
消えた?
どういうこと?』
わたしの問いに、小さい兄ちゃんは小首を捻る。
『魔法を使ったんじゃないかな?
よく分からないけど……。
何やら、一生懸命伝えようとしている様だったけど、僕、人間の言葉は分からないからなぁ~
サリーと一緒にエルフの人から言葉を習っておけば良かったなぁ』
『消えたって事は転移系の魔法だよね?
凄い魔法使いなんじゃない?』
『そうだよねぇ。
でも、何故、あんな山奥で弱っていたのかは謎なんだけど……』
『そうだねぇ~』
わたしが同意すると、小さい兄ちゃんはわたしの顔をじっと見つめながら言う。
『その子達、額にね、なんか石っぽい物が付いてたんだ。
もし、そういう子達を見つけたら、聞いてみて』
それ、サークレットとかそういう装飾品じゃないのかな? なんて思ったけど、ここは異世界――実際におでこに石を埋め込んでいる人たちもいるかもしれない。
なので、『うん、分かった』と頷いて置いた。
『元気でね、お兄ちゃん』とわたしが顔に抱きつくと、小さい兄ちゃんも『うん、サリーもね』と言ってくれた。
そろそろ、日の傾きが強くなり始めたので、帰る事となった。
わたしが『わたしの家に遊びに来る?』と誘ったけど、真面目な小さい兄ちゃんは苦笑しながら『まだ、母さんの試験中だろう?』と断ってきた。
さらに『今更だけど、ロック鳥を倒すのにサリーの手を借りたって知られたら怒られるだろうなぁ~』と遠い目をしていた。
別に見られている訳じゃないんだから、言わなきゃ怒られないし、問題ないと思うけどなぁ~
そんな事を思っていると、小さい兄ちゃんは言う。
『それより、ロック鳥の肉、そんなに少しで良いの?』
『……いや、これでも多いぐらいだよ?』
持って帰る様に、ロック鳥さんのお肉を少し譲って貰った。
一辺が四メートルほどのブロック肉だ。
最近、さらに食欲旺盛になったケルちゃん用に多めに頂いたんだけど――巨大なロック鳥さんの体からしたら、ほんのわずかに見えてしまうから凄まじい。
因みに切り取った部位は太もも近辺だ。
凄く楽しみ!
『それなら良いけど』
と言いつつ小さい兄ちゃんは左前足から緑色のモクモクを発現させる。
そして、わたしと一緒に凍らせたロック鳥さんを掴むと、軽々と持ち上げる。
そして、こちらを向いた。
『サリーなら大丈夫だと思うけど、気をつけてね。
試験が終わったら、また、ロック鳥を狩ろう』
『うん』
『しらゆきちゃん? だっけ?
君もまたね!』
小さい兄ちゃんがわたしの胸元に言うと、そこに収まっていた近衛兵士妖精の白雪ちゃんはニコニコしながら手を振る。
小さい兄ちゃんは嬉しそうに微笑んだ後、北東に向かって駆けていく。
しばらく地面を駆けていたけど、森に近づいた辺りから宙に足を踏み込み、空に向かって走って行った。
なんだか、その背を見ているだけで、凄く寂しくなっちゃった。
「……帰ろうか?」
と白雪ちゃんに話しかけると、可愛格好いい近衛兵士妖精ちゃんは胸元から飛び出てくると、わたしの頬に頬ずりをしてくれる。
可愛優しい!




