足が沢山有る奴、大量発生?
荷車を引きながら進むと、直ぐに白狼君達が十頭ほど合流してくる。
……この子達、やっぱり住処をここら辺に移してきたのかなぁ。
ますます、わたしに依存しそうな予感がするんだけど……。
うんざりした顔で見つめても、厚顔無恥な彼らは”どうかされましたか? ご主人様!”と言うような感じに、白い狼顔をこちらに向けてくる。
はぁ~
もう、勝手にしなさい。
諦めて、先に進む。
森を抜け、川を越えて――と思ったら、白狼君の一匹が左前に向けて「がうがう!」と吠えた。
ん?
大した気配は感じないけど?
と思っていたら、草むらからトカゲ顔が、ぬっと出てきた。
あ、あれ、ミスリルトカゲ君だ。
どうやら、白狼君を狙っているらしい。
ひょっとしたら、白狼君達にとって、要警戒対象なのかもしれない。
うむ、わたしに取っては要討伐対象だけどね。
左手から出した白いモクモクで捕まえる。
バタバタと暴れる彼を引き寄せると、前回同様「えい!」っと延髄にチョップを食らわせた。
ボキリという音と共に、ビクっと痙攣したミスリルトカゲ君は絶命する。
よし!
金貨三百枚、ゲットだ!
荷車の上に、ミスリルトカゲ君を乗せる。
すると、白狼君リーダーが「がうがう!」とアピールする。
え?
食べたい?
う~ん……。
これ、まるごとの方が高く買い取ってくれるって話だったからなぁ。
次、獲物を狩ったら、それを上げるって事で駄目かな?
え?
だったら、貰う獲物はこちらで決める?
はいはい、それで良いよ。
再度、荷車を引いて、出発する。
平原を出ると、二百メートルほど先にお久しぶりのサーベルタイガー君の一団が見えた。
子供も合わせて六十頭ほど――冬の間はどこか別の所に移っていたのかな?
リーダーらしき一頭がこちらに気づいたのか、警戒するように見つめてくる。
ま、わたしとしては用がないので、そのまま進む。
ん?
右前方に気配を感じる。
草むらの中かな?
すると、そこから赤い物が伸びてきた。
ふむ。
わたしは右手から出した白いモクモクでそれを弾く、と同時にその元まで伸ばす。
なにやら、「ゲゴゲゴ!」喚いているそれを持ち上げてみる。
なんか、緑色のでかい蛙だった。
さっき、伸びてきたのは舌か。
体長、八メートルもあるのに、姿勢を凄く低くさせていたので、草の中に綺麗に隠れていた。
もっとも、気配を消すのが下手なので、丸わかりだけどね。
わたしは巨大蛙君を絞めつつ、白狼君リーダーに『これで良い?』と訊ねてみたけど、凄く苦悩した顔でだが、首を横に振られてしまう。
なかなか、贅沢な狼だ。
取りあえず、血抜き、内臓の除去を行い、それを荷車に乗せた。
え?
さっきの件とは別に、内臓は食べて良いか?
どうぞ、好きにしてください。
サーベルタイガー君達が少し羨ましそうに見てきたけど、当然、彼らにはあげない。
一度戦った相手だから――という訳では無い。
偽忠狼はこれ以上不要だからである。
もぐもぐやっている白狼君達を『行くよ』と急かし、先に進む。
しばらく進むと、前方に巨大な象がのしのしと走っていた。
とは言っても、巨象さんではない。
ただの、マンモス君だ。
集団で活動する事の多い彼らだったが、どうやらはぐれらしく、彼は一頭でいた。
サイズ的には大人だから、ひょっとしたら、何かをやらかして追放されたのかもしれない。
すると、白狼君リーダーが”これが良いです!”と言うように「がうがう!」と吠えた。
なかなか、良い獲物を見つけたね。
期待した目で見てくる白狼君達に『分かった分かった』と、がうがう答えると、荷車をその場に置こうと思った。
だが、それを寸前で止める。
高速で近づいてくる気配を感じたからだ。
これは?
すると、マンモス君の足下、その草むらから赤黒い何かが飛び出ていった。
あれは、ムカデ!?
二メートルぐらいはありそうな赤ムカデが、マンモス君の後ろ足に食いついた。
マンモス君は驚き暴れるが、ムカデ君は後から後から、草むらから飛び出てきて、彼の体に食らいついていく。
うわぁ~
二十匹ほどのムカデに食いつかれ、マンモス君はたまらず、その巨体を地に倒す。
何とか、抵抗しようとするも、かなわず、あっという間に食べられていく。
ひゃ~
なかなか、恐ろしい光景だ。
前世のわたしなら、夢に出そう。
まあ、今世、半野生児のわたしには関係ないけどね。
ショックを受けた顔の白狼君リーダーが「が、がう……」と漏らしているけど、この辺りは早い者勝ちだからね。
『別のにしよう?』と声をかけ、先に進む。
しかし、なかなか、魔獣の動きが活発だなぁ。
食料の少ない冬が過ぎ、ようやく春になったばかりって事もあるだろうけど……。
う~ん、イメルダちゃんが町に行くのは、少し控えた方が良いのかなぁ。
町の手前にある林に到着する。
魔獣の動きが活発と思ったけど、ムカデ君以降、襲われることも無くここまで来てしまった。
あれ?
たまたまだったのかな?
がっかりしたのは白狼君達で、別れ際、”先ほどの約束、持ち越しだから! 忘れないでくだされ!”と言うように「がうがうがう!」と吠えていた。
はいはい、忘れませんってば!
林の中をしばらく進み、町の門が見えてくる。
ん?
あれ、何だ?
門の前に巨大な馬が立っているのが見えた。
あれ、組合長のアーロンさんの愛馬、クワイエットじゃないかな?
あ、アーロンさんもいた。
ちょうど、騎乗したアーロンさんもわたしに気づいたのか、手を振ってくる。
わたしも手を振りながら、そちらに向かう。
「アーロンさん、どこかに出かけるの?」
わたしが近づき、クワイエットから降りたアーロンさんに訊ねると、マッチョ系おじいちゃんな組合長は頷いてみせる。
「何やら、巨大赤ムカデが大量発生しているって話を聞いたんでな。
少し、様子を見てこようと思ったんだ」
そこまで言うと、アーロンさんは少し思案するように顎を撫でながら言う。
「もし良ければ、お前も付いてきてくれないか?
ちょっと見てくるだけだから、それほど時間は取らせん」
「ん?
急ぎの用は無いから良いけど、解体所には先に行きたいかな」
わたしが視線を荷車に向けると、アーロンさんもそれを追うように見る。
「何を狩ったんだ?」
「ミスリルトカゲ君と蛙君」
「おお、そうか!
それは、そこらに放置は出来んな」
アーロンさんは嬉しそうな顔をする。
そして、「それを解体所に持っていった後で構わない。少し付き合ってくれんか?」とお願いされたので「うん、良いよ」と頷いた。
――
解体所に行き、ミスリルトカゲ君を売却する。
荷車をそこで預かって貰い、アーロンさんと共に、改めて門まで行く。
因みに、冬ごもり中、激やせした解体所の所長グラハムさんだったけど、体型が大分戻っていた。
「白大猿どもの肉が、なかなか美味でな!
ガッハッハ!」
と嬉しそうに笑っていた。
なんでも、大麦パンが広がり、ある程度楽観的な空気が流れる中、あえて猿肉に手を出す人は多くなく――忌避する気持ちが欠片も無いグラハムさんがパクパク食べていたらこうなったとの事だった。
「皆がほっそりとして青白い顔をしている中、わしだけ元気にもりもり太っていってな。
少々、気まずかったぞ!」
などと、不味さを欠片も感じさせない、朗らかな顔で笑っていた。
まあ、どんな災害があっても、こういう人は生き残るんだろうね。




