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ママ(フェンリル)の期待は重すぎる!【Web版】  作者: 人紀
第十四章

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血を吸う面倒な奴、討伐!

『止まって!』

 うぁおん! と吠えると、白狼君リーダーを掴んでいた白いモクモクを解除し、左前方に振るう。

 併走していた白狼君の左側前方に展開した白いモクモク盾――その向こうから衝撃音が幾つも響く。

 わたしはスキー板に角度を付けて停止しつつ、”それ”を追い払うように振るった。

 雪を穿(うが)ち、舞い上がる。

 右から白狼君の悲鳴が聞こえる。

 視線を向けると、白狼君が二頭ほど、雪の上を転がっていた。


 鮮血が舞い、積雪を赤く染めている。


 慌てて、白狼君リーダー達が、彼らに食らいついている真っ白なゴムみたいな”それ”を噛み付き、引き離そうとしている。

 だが、”それ”の体は伸びるだけで、なかなか外れない。


 あれは、雪(ヒル)君だ!


 春夏は地中で冬眠し、雪が降る頃に活動するという、奇っ怪な生物だ。

 特徴は、前世の(ヒル)同様、動物にくっ付き、その血を吸う。

 もっとも、大きいものだと一メートルにはなる彼らは、前世の(ヒル)の様に気づかれないように食いつき、気づかれないように血をすする――なんて、慎ましくは無い。

 集団で雪の中に潜み、獲物に飛びつくと、全員で食らい付き、一気に血を吸い上げる、なかなか凶悪な魔物だ。


 ママの洞窟周りでも、時々見かけた。


 もっとも、わたしを含む、フェンリルファミリーの肌を突き破るほどの力は無いため、気にされることはほとんど無い。

 時々、せっかく狩った獲物に雪(ヒル)君がくっ付いていたため、不味くなり、ママが怒っていたぐらいだ。


 だけど、白狼君達にとっては十分脅威だ。


「この!」

 わたしは気配がする箇所を、白いモクモクを尖らせて突き刺す。

 雪に隠れているつもりだろうけど、意識すればなんとなく分かる。

 三十回ほどさせば、気配が無くなり、代わりに刺した雪が青黒く変色する。

「きゃん! きゃん!」

という鳴き声に視線を向ければ、雪(ヒル)君に取り付かれた白狼君達が弱り始めていた。

 彼らを取り囲む白狼君達を『どいて!』と離れさせ、白いモクモクの先から火を点す。

 彼らの口は特殊で、サーベルタイガー君みたいに、食らいついたら死んでも離れない。

 だけど、火には弱いので、近づけると自主的に離れるのだ。

 これは、五歳頃、せっかく狩った獲物に食らいついている雪(ヒル)君が剥がせなくて困っていた時に、エルフのテュテュお姉さんが教えてくれた。


『おとなしくしててね!』

 横たわる白狼君達にうぁんうぁん! と注意しつつ、火を雪(ヒル)君に近づける。

 前世、松明ほどの火が肌を少し焦がし、慌てた彼らはポロリと外れ、転がった。

 そこに、素早く白狼君リーダー達が飛びかかり、噛み殺している。

 それを横目で見つつ、わたしは傷ついた白狼君達を癒やしてあげる。

 傷が癒えた彼らは立ち上がると、お礼をするかのように、わたしの手をペロリと舐めた。


――


 町の近くの林に到着し、白狼君達は帰って行った。

 例のトナカイ君は気づいたら、どこかに行ってしまっていた。

 ただ、倒した雪(ヒル)君があれば満足らしく、皆で手分けをして持って帰っていった。

 わたしも三匹ほど袋に詰め込み、籠に入れている。

 正直、食べたいと思える見た目では無いけど、ひょっとすると、冒険者組合で売れるかもしれないと思ったからだ。


 門番さん達に挨拶をしつつ、門から町に入る。

 解体所に着くと、解体所の所長グラハムさん達が入り口前の雪かきをしていた。

「こんにちは」と挨拶すると、食糧問題の影響のため、ほっそりしてしまったものの、それでも十分巨漢なグラハムさんが「おお、サリー! 元気か?」と笑いかけてくれる。

「うん、元気だよ!

 雪(ヒル)君を持ってきたんだけど」

「雪(ヒル)!?

 集団で襲う面倒な奴らなんだが……」

「やっつけたよ。

 ただ、籠しか無かったから、持ってきたのは三匹だけだけど」

「相変わらず、あっさりと凄い事をする子だな」

 グラハムさんは苦笑しつつ、解体所への戸を開けてくれた。


 中に入ると、人がいなくて、がらんとしていた。


 冬だから獲物が無く、仕事が無い――のは分かるけど、ついこの前、白大ネズミ君を持ち込んだ時にはもう少し、職員さんがいたはずなのに、どうしたんだろう?

 そのことを訊ねると、グラハムさんは教えてくれる。

「白大猿の狩りが近づいているからな。

 忙しくなる前に、皆には休みを与えているんだ」

 白大猿の解体は細かい作業が必要になるとの事で、大きさの割には時間がかかるとの事だった。

 それが毎年、何十匹も運び込まれるから、この時期のお休みは恒例との事だ。

「ふ~ん」と聞きつつ、嫌な事を思い出す。

「ねえ、グラハムさん。

 アーロンさんはまだ、白大猿の肉を食べるつもりなのかな?」


 食糧問題は、一応、大麦によって解決された。


 だから、前、話していた事は無くなったかなぁ~なんて思っていたのだけど……。

 グラハムさんは面白そうにガッハッハ! と笑う。

「食べるつもりだぞ。

 大麦だけではやはり、力が出ないからな!

 それに、白大猿の肉は、少々固いが美味いぞ!

 精もつくしな!」

 グラハムさんが悪戯っぽく「サリーには、真っ先に食べさせてやろう!」と言うので「結構です!」とお断りをしておいた。


 そんなやり取りをしつつ、籠から雪(ヒル)君を取り出し、解体用の台に置く。


「ほうほう、なかなか大きいな」

とグラハムさんは感心したように顎を撫でる。

「これも食べるの?」と訊ねると、「流石に食べんが、皮は防水に優れているから靴や鞄の素材に、肉や内臓もそれぞれ薬品や染料などの素材になるんじゃ」と教えてくれた。

 お値段は大銀貨一枚、銀貨五枚との事だ。

 沢山、狩る事が出来たら、出来るだけ捨てず、持ってきて欲しいと頼まれる。

 見た目が正直、気持ち悪いので、もう会いたくないけど、とりあえず、了承しておいた。

「サリーも、白大猿を狩りに行くのか?」

「ん?

 狩りはしないけど、回復要員として付いていく予定」

「そうか……。

 まあ、”森の悪魔”を狩る事が出来るお前さんなら大丈夫だとは思うが、気をつけるんじゃぞ。

 白大猿()らは、魔物のくせに、非常に狡猾だからな」

「うん。

 気をつける」

 わたしが答えると、グラハムさんは「よい子だ」と言いつつ、わたしの頭をフェンリル帽子ごと撫でてくれた。


――


 冒険者組合に到着する!

 扉を開けると、わたしに気づいた小白鳥の団団長のヘルミさんが駆けてきた。

「サリーちゃん、白大猿の討伐に参加するって本当!?」

 ヘルミさんの勢いに少々、気圧されつつも、答える。

「う、うん、参加するよ。

 あ、討伐じゃなくて、回復要員だけど」

「回復要員……。

 サリーちゃん、後方支援とはいえ、女性冒険者は参加しない方が良いのよ」

「でも、ヘルミさんも参加するんだよね」

「うっ!

 そ、そうだけど、わたしは良いのよ!

 これでも、中堅冒険者だし!」

 すると、今度は同い年冒険者のアンティ君が駆けてきた。

「サリー!

 お前、白大猿の討伐に参加するって本当か!

 駄目だ!

 止めておけ!」

「そうよ!

 止めておきなさい!」

 二人に詰め寄られ、わたしが困っていると、組合長のアーロンさんがのしのしと近寄ってきた。


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