2の25の1「リリスと暗黒カース」
「これは……負けだね……」
ミャイアが諦めの声を漏らした。
ガーデンが解除され、周囲の景色が元に戻っていった。
ミャイアは左の急カーブを曲がり、左95度のコーナーを曲がった。
それから緩やかな長いカーブを抜けると、最後の直線に入った。
遥か遠くで、ニャツキがゴールを抜けるのが見えた。
絶望的な差があった。
せめて2番手で、ゴールを抜けなければならない。
ミャイアは萎えかけた闘志を呼び起こそうした。
だがガーデンによる消耗で、ミャイアは息切れしていた。
3番手の猫が、ミャイアに並んだ。
「にゃ……!」
併走してきた猫に、ミャイアは競り勝とうとした。
走りの実力は、ミャイアが上だったかもしれない。
だが、大技を使った猫と堅実に走ってきた猫では、余力が違いすぎた。
ミャイアはアタマ差で競り負けて、3位でゴールを抜けた。
「ごめん。
タックルさえしなけりゃ、2位は取れたかも」
ミャイアのジョッキーが、作戦ミスを詫びた。
「いえ。私がジョッキーだったとしても、
同じ選択をしたと思います」
(私のカースの才能があれば、
マニャさんの次くらいのランニャーにはなれると思ってたけど、
どうにも甘い見通しだったみたい)
もっと先に行くには、今のままではダメだ。
ミャイアはそう思い、競ニャに対する覚悟を固めなおすのだった。
……。
ウイニングランを終え、ニャツキたちは装鞍所へ向かった。
その道中で、ヒナタが口を開いた。
「ジョッキーが見つからないって半ベソかいてた猫が、
もうAランクか。早いもんだな」
「泣いてなどいませんが?
記憶を捏造しないでください。
俺様は宇宙一ですから、
これくらいの結果は当然のものです。
Aランクでも勝たせてあげますから、期待していてください」
「……どうも」
……。
レースを終えた二人は、ホテルヤニャギに帰還した。
それからヒナタは、リリスとの練習に没頭することになった。
「今の走り……良かった気がします……!」
走りの練習を1セット終えて、リリスがそう言った。
「ああ。そうかも」
「むっ……曖昧ですね。
ジョッキーなら、もっとパリッとしてください」
「今の走り、すごく良かったぞ。
……これで良いのか?」
「なんかきもちわるい」
「どうしろってんだよ」
「感覚を捕まえておきたいので、
もう10周ほどお願いします」
「ああ。何回でも付き合ってやるよ」
練習を積み重ねていると、レースの日が近付いてきた。
レースの数日前に、ヒナタはリリスの家で治療を受けることになった。
そしてレース前日。
ヒナタたちは、オオイねこフロートに移動した。
ねこヒーリングの効果があったのだろうか。
ヒナタはレース前日を、穏やかに過ごすことができた。
夜が明けて、レース当日。
ホテルで食事を終えたヒナタたちは、競ニャ場へ向かった。
ヒナタとリリスの二人で、控え室に入った。
ヒナタが椅子に座ると、リリスはそのすぐ近くに座った。
「きのう動画で見せたとおり、
今回のレースはかなり荒れるはずだ。
けど、相手のカースさえ攻略すれば、
素の走りはおまえが上だ。
勝てるぞ」
「はい!」
ヒナタの鼓舞に、リリスは素直に答えた。
前のレースのときよりも、打ち解けられているようだったが……。
二人の空気に水を差すように、紫髪の猫が近付いてきた。
「この私に勝てるって言ったのかな?
舐められたものだね。
ニャカメグロ=リリスさん」
リリスは声のほうを見た。
そこには、黒いヒラヒラとしたドレスを着た少女の姿があった。
彼女の挙動は、妙に芝居がかっているように見えた。
そしてどう見ても、リリスの知り合いではない。
「ええと……あなたは?」
人見知りか。
相手の堂々とした態度に気圧されたのか。
リリスは控え目な声音でそう尋ねた。
リリスの疑問は、相手にとっては驚きだったのか。
思わずといった感じで、大声が上がった。
「アンノ=ウミャハラだよ!
対戦相手の!」